第2話 酔っ払い会社員

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口には星の飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 夜空にはお月さま、良い子はお休みしている時間。

 星の見えない都会の夜空。そんな夜にもメメさんは散歩パトロール

 しかしいくら芝犬魔女ウィッチと言えどもメメさんもお疲れだ。

 大きな欠伸をしてステッキを落としたぞ。

 ゆったりとした動作でメメさんはステッキを口で拾う。そして目の前にある公園へ向かったぞ。


 小さな公園。砂場にブランコ。あと滑り台。

 ベンチには酔っ払った会社員が寝ている。

 グガー、グガーいびきをかいている。


 メメさんはちょっぴり残念な表情。

 ベンチで休みたかったのかな。


 あぁっ、酔っ払った会社員がベンチから落ちちゃった。

「あぁ。んっ、イテテテ」

 肘はベンチに残したまま、地面に尻餅をついた会社員が呟く。

「うぁ、なんだ!!」

 なんと会社員はメメさんを見て叫び声をあげます。

 こんな可愛いメメさんに対してなんて態度なんでしょう。


 これには流石のメメさんも抗議の声をあげます。

「ワン!!」

「あー、なんだ犬か」

 会社員はズレたメガネをかけ直しメメさんを見る。

「面白い格好しているなー。ワハハ」


 会社員はメメさんの肩に手をかけ抱きよせる。

 これにはメメさんもしかめ面。

 酒の匂いと乱暴な扱い。噛まれても文句言えません。

 でも大丈夫。芝犬魔女ウィッチのメメさんはそんなことはしません。

 鼻にしわを寄せ、牙を剥き出しにし唸り声をあげるだけです。


 しかし酔っ払った会社員はそんなこと気にも止めないのです。

 陽気に鼻歌を歌い。会社の愚痴を言い。挙げ句の果てに恋愛の相談までして来ます。

 もうメメさんも諦めの表情です。無。仏。もしかしたら悟りも開いているかもしれません。

 芝犬仏陀ブッダになってしまったかも……

 とても芝犬魔女ウィッチがして良い表情ではありません。


「グガー、グガー」

 ひとしきり喋ると会社員は寝てしまいました。

 そっと、会社員の腕から抜け出し。トテトテと歩いて行きます。

 ここにはメメさんの安心して寝れる場所はありません。


 ツバの広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口には星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんは今日も一人寝床を探しているぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る