第12話(1)

 雨が降っていた──

 貧民街の路上で、一人の少年が傷だらけでうずくまっていた。

 少年時代の神原だ。

 降り続く雨が傷に沁みた。

「随分とひでぇツラしてるじゃねぇか」

 顎髭をたくわえた白髪の男が話しかけた。「誰にやられた?」

「誰だ? おっさん」顔を上げた。

「人に名前を聞くときは自分から名乗れ。それに、質問してるのはこの儂だ」

 いきなり話しかけておいて何言いやがる。

 そう思いながらも、口に出すことはしなかった。

「で? 誰にやられた?」

「別に。大したことじゃない。街の奴らにやられただけだ」顔の傷を押さえた。「あいつら、俺に身寄りがいないからって好き放題やりやがって・・・・・・。手前ぇらだって同じなくせに・・・・・・」

「そんなことも分からんのか? ならば教えてやろう。お前が弱いからだ。いいか小僧。この世は弱肉強食。力こそが正義だ。強い奴が常に勝ち残り、弱い奴は強い奴に従う他ない。そして、それがこの街で生きるということだ。それが嫌なら力を身につけるか、この街を出ていくしか無い」

「・・・・・・ればいい?」消え入りそうな声だ。

「何か言ったか?」男が問いかけた。

「ならばどうすればいい? どうすれば力を得られる?」叫ぶように問いかけた。

 それは自身の無力さに対しての怒り、この街への怒りがこもった叫びのようだった。

「なぜそこまで力を求める? 力を得て、その先はどうする?」

「今まで俺を虐げてきた奴らに復讐する。そして、誰も俺に逆らえない様にしてやる」その顔は憎悪に満ちていた。

「いい面構えになったじゃねぇか。ならば小僧。儂の元へ来い。力の身につけ方を教えてやる」手を差し出した。

「なんで・・・・・・。なぜ会ったばかりの俺なんかにそこまでするんだ?」

「簡単なことだ。お前のことが気に入った。で、どうする? 付いて来るのか? 来ぬのか?」

 神原は何も答えず、黙ったまま男の手をとった。

「いい返事だ。小僧、名はなんという?」

「『人に名前を聞くときは自分から名乗れ』じゃなかったか? おっさん」

「一端の口を利くじゃねぇか。だがな、小僧。儂はおっさんではない。儂の名は──」

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