第10話(2)

       ◆  ◆  ◆


「まったく太宰め。私のことを顎で使うとは、随分と偉くなったものじゃなぁ」

 ラウンジでは、紅葉と鴉の戦闘が始まろうとしていた。

「この女もマフィアか?」

「だとしてもこの人数差だ。数ではこちらが・・・・・・」

 突然、鴉の一人が首から血を吹き出し倒れた。

「ぴいぴい騒ぐな、鳥ども。貴様らのおかげで寝不足なのじゃ。頭に響いてかなわん」紅葉の手には鮮やかな銀色の刃が握られており、左手に持つ唐傘の柄が短くなっていた。仕込み刀だ。「害鳥の血でも、飛沫くさまは美しいのう」

 鴉たちに動揺が走った。「怯むな。ポートマフィアといえど、たかが一人だ。この人数相手に何ができる」

「誰が一人だと言った?」室内に強風が吹き荒れ、紅葉の背後に仕込み杖を持った異形が姿をあらわした。彼女の持つ異能『金色夜叉』だ。

「唐傘の仕込み刀に、この異能力・・・・・・。間違いない。この女、幹部の尾崎だ」予想していなかった幹部の登場に、鴉たちに緊張が走った。

「悪いが、私が忌む昔のマフィアに逆戻りさせる訳にはいかんのでな。そう簡単に首領の首は取らせぬぞ」



       ◆  ◆  ◆


「馬鹿な。たかが最下級構成員一人を助け出すためだけにこれほどの戦力が集まるなどありえん。ましてや、最下級構成員一人のために現幹部の全員が動くなど、これまで一度たりとて無かったはずだ」神原の動揺は更に大きくなった。

「勘違いしているようだけど、織田作を助けに来たのは私だけだ。大佐たちが来たのは、あなた達を壊滅させるためさ」笑みを浮かべた。「まさか、ポートマフィアの掟を忘れたわけじゃないでしょう?」

 ポートマフィアには三つの掟が存在する。首領の命令には絶対に従うこと。組織を裏切らないこと。受けた攻撃は必ずそれ以上にして返すこと。この順番はそのまま重要度の順番でもある。

「なるほど。他の者達はその掟に従っているだけ、ということか。ならば──」目つきが変わった。「先ずは貴様達だ。他はその後で相手をしてやる」

 太宰も戦闘態勢をとった。

「織田作、行けるね?」

「しかし・・・・・・」

「別に彼を殺せとは言わない。腕や脚、肩を撃って無力化するだけでいい。あとは僕たちでやる。君は、君自身ができることをやればいい」信頼しろ、と言わんばかりの顔だ。「行くよ、織田作」

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