第8話
「ここ、は・・・・・・」
目を覚ました織田作は、とある洋館の大広間に置かれた椅子に縛り付けられていた。
わざわざ用意したのだろうか? 洋館とは不釣り合いな椅子だ。
「お目覚めかね? 織田くん」黒い外套に身を包み、フードを目深に被った男が姿を現した。「君と会うのは二度目だな。私はシャドウ。同盟を率いている者だ」
「お前がシャドウか。リーダー自らお出ましとは、俺に一体何の用だ?」
背中側で縛られた縄を解こうと試みたが、固く結ばれた縄が解ける様子はなかった。
さらには、後ろ手にかけられた手錠のせいで思う様に手を動かせずにいた。
「たかが最下級構成員一人を捕らえるにしては、随分と頑丈な拘束だな」
「あなたには大事な役割がありますからね。逃げられては困るんです」笑みを浮かべた。「幹部クラスを誘い出す、というね」
「幹部クラスが、俺みたいな最下級構成員一人を助けに来るとでも思っているのか?」
「君はその一人の相棒なのだろう。ならば、来ると考えるのは当然だ」すぐに分かるだろう、と告げると、部屋の隅に消えた。
しばらくして、足音が近づいてくるのが分かった。
「織田作! 無事か?」扉を蹴破り、太宰が入って来た。
織田作の元へ駆け寄ると、拘束を外しにかかった。「待ってろ。今助ける」
「なぜ来たのです。これは罠だとお伝えしたはず──」
「そんなことどうでもいい」話を遮った。「今はここから出ることのほうが先だ。文句なら後で聞いてやる」
慣れた手つきで拘束を解いていった。「立てるか?」織田作の手を取った。
「気をつけてください。この部屋のどこかに、奴がいます」
「大丈夫」部屋の一角を見た。「いい加減、姿を見せたらどうだい? シャドウ」
シャドウが再び姿を現した。「私に気づくとは、さすがポートマフィアの幹部クラスだ」
「会うのは二度目だけどこうやって話すのは初めてだね、シャドウ。それともこう呼んだ方がいいかな? “元ポートマフィア先代首領派筆頭”神原さん」
フードを脱いだ。「貴様、あの時の小僧か。貴様の様な小僧が幹部候補とは、ポートマフィアも地に堕ちたものだな」
「あなたがいた時とは違う、ということさ」
「・・・・・・いつから気づいていた?」
「北辰會の残党を捕らえた時、彼等の影から飛び出していく黒い物を見た。最初はそれが何かは分からず気のせいだと思ったけど、どうにも気になってね。過去の資料であなたに関する情報を見つけたときに気づいたよ。その正体は情報収集のために潜ませた、あなた自身の影の一部だね」
「影の一部? どういうことです?」
「彼は影を操る異能力者だ。自らの影で攻撃や防御はもちろん、相手の影に自分の影の一部を入れて情報収集もできる。さらには影を纏うことで暗がりに姿を隠すこともできる。死んだとされていたけど、まさか生きてるなんてね」
死んだ? 驚きを隠せなかった。
「森さんが首領の座に就いた時に裏切ったんだ。森さんを殺そうとしてね。けれど計画は失敗。マフィアの追撃から逃れられないと思い自害、と資料には書いてあった」
「それが生きて目の前にいる、という訳か」
「おそらく死体は影武者だろう。そして本人は生き延びて戦力を確保し、首領を殺してマフィアを乗っ取る計画だった。そうでしょ? 神原さん」
「あの男を首領と呼ぶな」怒鳴り声が広間中に響いた。「あいつはあの方を。私の首領を殺した。そんな奴がポートマフィアの首領など、私は認めない。私の首領はあの方のみだ。そして、ポートマフィアの首領にふさわしいのもあの方だけだ!」
「なぜそこまで先代にこだわる? なぜそこまで今の首領を否定する?」
「神原さんは先代に拾われてポートマフィアに入ったんだ。彼にとって、先代は父親みたいな存在なのだろうね。でもね、神原さん。あなたが認めようが認めなかろうが、今の首領は森さんだ。それが変わることは決してない」
「黙れ!」
神原の影が刃の形に変わり、太宰に襲いかかった。
伸びた影が太宰の体を貫いた。
──かに思えた。
「無駄だよ、神原さん」
影は霧の様に消えていった。「何が起きた? なぜ私の影が消えた?」
「僕に異能は通用しない。せっかくだから教えてあげるよ。僕の異能は『あらゆる異能力を無効化する』反異能力だ」
「馬鹿な。その様な情報は何も入っていない」
「あなたが知らないのも無理はないよ。僕の異能について、彼には何も教えていないからね」
太宰が織田作の影に触れた。すると、影の一部が霧散した。
「やはり、織田作の影にも仕込まれていたか。これを使って、織田作の異能力に関する情報や、こちらの動きなどの情報を手に入れていたというわけか」
「いつの間に?」
「昨日、君と戦った時に仕込んだんだろうね」
「そうだ。おかげで彼の情報や貴様達の動きなどを知ることができた。だが、君に関しての情報は何も手に入らなかった。異能が通じないのは予想外だ」冷静を装っているが、神原は明らかに動揺していた。「しかし、敵の拠点に一人で乗り込んで来るとは、実に愚かだ。このまま生きて帰れると思ってはいまいな?」笑みが浮かんだ。
「誰が一人で来た、なんて言った?」
直後、屋敷に爆発音が響き渡った。
「何だ? 一体何が起こっている?」
「こういうことだよ」無線機を取り出すと、神原の足元へ投げた。
投げられた無線機に通信が入った。
「こちら広津。エントランスホールにいた北辰會たちは殱滅。ホールの制圧および建物の包囲、すべて完了いたしました」
広津の通信に続き、続々と通信が入って来る。
「小僧。二度も儂をあごで使うとは大した奴じゃ。気に入ったわ。その気概に答えてやる。安心して、こっちは任せろ」
「手前ぇの作戦ってのは気に食わねェが、首領の命令だから従ってやるよ。クソ太宰」
「そういう訳じゃ。こちらは任せてもらうぞ」
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