第9話

「ここ、は・・・・・・」

 目を覚ました織田作は、とある洋館の大広間に置かれた椅子に縛り付けられていた。

 わざわざ用意したのだろうか? 洋館とは不釣り合いな椅子だ。

「お目覚めかね? 織田くん」黒い外套に身を包み、フードを目深に被った男が姿を現した。「君と会うのは二度目だな。私はシャドウ。同盟を率いている者だ」

「お前がシャドウか。リーダー自らお出ましとは、俺に一体何の用だ?」

 背中側で縛られた縄を解こうと試みたが、固く結ばれた縄が解ける様子はなかった。

 さらには、後ろ手にかけられた手錠のせいで思う様に手を動かせずにいた。

「たかが最下級構成員一人を捕らえるにしては、随分と頑丈な拘束だな」

「あなたには大事な役割がありますからね。逃げられては困るんです」笑みを浮かべた。「幹部クラスを誘い出す、というね」

「幹部クラスが、俺みたいな最下級構成員一人を助けに来るとでも思っているのか?」

「君はその一人の相棒なのだろう。ならば、来ると考えるのは当然だ」すぐに分かるだろう、と告げると、部屋の隅に消えた。


 しばらくして、足音が近づいてくるのが分かった。

「織田作! 無事か?」扉を蹴破り、太宰が入って来た。

 織田作の元へ駆け寄ると、拘束を外しにかかった。「待ってろ。今助ける」

「なぜ来たのです。これは罠だとお伝えしたはず──」

「そんなことどうでもいい」話を遮った。「今はここから出ることのほうが先だ。文句なら後で聞いてやる」

 慣れた手つきで拘束を解いていった。「立てるか?」織田作の手を取った。

「気をつけてください。この部屋のどこかに、奴がいます」

「大丈夫」部屋の一角を見た。「いい加減、姿を見せたらどうだい? シャドウ」

 シャドウが再び姿を現した。「私に気づくとは、さすがポートマフィアの幹部クラスだ」

「会うのは二度目だけどこうやって話すのは初めてだね、シャドウ。それともこう呼んだ方がいいかな? “元ポートマフィア先代首領派筆頭”神原さん」

 フードを脱いだ。「貴様、あの時の小僧か。貴様の様な小僧が幹部候補とは、ポートマフィアも地に堕ちたものだな」

「あなたがいた時とは違う、ということさ」

「・・・・・・いつから気づいていた?」

「北辰會の残党を捕らえた時、彼等の影から飛び出していく黒い物を見た。最初はそれが何かは分からず気のせいだと思ったけど、どうにも気になってね。過去の資料であなたに関する情報を見つけたときに気づいたよ。その正体は情報収集のために潜ませた、あなた自身の影の一部だね」

「影の一部? どういうことです?」

「彼は影を操る異能力者だ。自らの影で攻撃や防御はもちろん、相手の影に自分の影の一部を入れて情報収集もできる。さらには影を纏うことで暗がりに姿を隠すこともできる。死んだとされていたけど、まさか生きてるなんてね」

 死んだ? 驚きを隠せなかった。

「森さんが首領の座に就いた時に裏切ったんだ。森さんを殺そうとしてね。けれど計画は失敗。マフィアの追撃から逃れられないと思い自害、と資料には書いてあった」

「それが生きて目の前にいる、という訳か」

「おそらく死体は影武者だろう。そして本人は生き延びて戦力を確保し、首領を殺してマフィアを乗っ取る計画だった。そうでしょ? 神原さん」

「あの男を首領と呼ぶな」怒鳴り声が広間中に響いた。「あいつはあの方を。私の首領を殺した。そんな奴がポートマフィアの首領など、私は認めない。私の首領はあの方のみだ。そして、ポートマフィアの首領にふさわしいのもあの方だけだ!」

「なぜそこまで先代にこだわる? なぜそこまで今の首領を否定する?」

「神原さんは先代に拾われてポートマフィアに入ったんだ。彼にとって、先代は父親みたいな存在なのだろうね。でもね、神原さん。あなたが認めようが認めなかろうが、今の首領は森さんだ。それが変わることは決してない」

「黙れ!」

 神原の影が刃の形に変わり、太宰に襲いかかった。

 伸びた影が太宰の体を貫いた。

 ──かに思えた。

「無駄だよ、神原さん」

 影は霧の様に消えていった。「何が起きた? なぜ私の影が消えた?」

「僕に異能は通用しない。せっかくだから教えてあげるよ。僕の異能は『あらゆる異能力を無効化する』反異能力だ」

「馬鹿な。その様な情報は何も入っていない」

「あなたが知らないのも無理はないよ。僕の異能について、彼には何も教えていないからね」

 太宰が織田作の影に触れた。すると、影の一部が霧散した。

「やはり、織田作の影にも仕込まれていたか。これを使って、織田作の異能力に関する情報や、こちらの動きなどの情報を手に入れていたというわけか」

「いつの間に?」

「昨日、君と戦った時に仕込んだんだろうね」

「そうだ。おかげで彼の情報や貴様達の動きなどを知ることができた。だが、君に関しての情報は何も手に入らなかった。異能が通じないのは予想外だ」冷静を装っているが、神原は明らかに動揺していた。「しかし、敵の拠点に一人で乗り込んで来るとは、実に愚かだ。このまま生きて帰れると思ってはいまいな?」笑みが浮かんだ。

「誰が一人で来た、なんて言った?」

 直後、屋敷に爆発音が響き渡った。

「何だ? 一体何が起こっている?」

「こういうことだよ」無線機を取り出すと、神原の足元へ投げた。

 投げられた無線機に通信が入った。

「こちら広津。エントランスホールにいた北辰會たちは殱滅。ホールの制圧および建物の包囲、すべて完了いたしました」

 広津の通信に続き、続々と通信が入って来る。

「小僧。二度も儂をあごで使うとは大した奴じゃ。気に入ったわ。その気概に答えてやる。安心して、こっちは任せろ」

「手前ぇの作戦ってのは気に食わねェが、首領の命令だから従ってやるよ。クソ太宰」

「そういう訳じゃ。こちらは任せてもらうぞ」

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