第6話(2)
◆ ◆ ◆
「さて、これで君は私の部下となった訳だが・・・・・・」
ロビーへと降りる
ビル群を見下ろす高さを誇り、市街地を見渡す硝子張りの昇降機内で太宰は広津、織田と向かい合っていた。
「あらためて、君の異能力について聞かせてもらおうかな? 昨日はゴタゴタがあって聞きそびれてしまったからね」
「自分の異能『天衣無縫』は、数秒先の未来を見る異能力です。その時間は5秒〜6秒ほどで、奇襲攻撃などを予知して回避することが可能です」
「予知系の異能力か。なるほど。太宰殿の威嚇射撃に対応できたのも、一度目の襲撃から太宰殿を守れたのも、その異能力で予知していたからという訳か」
「未来予知。確かに魅力的な異能力なのだが・・・・・・」太宰は腕を組みながら少々考え込んだ。「少々気になることがある」
「と、おっしゃいますと?」
「二度目の襲撃の際、反応が遅れたように見えた。君の異能力と何か関係があるのかな?」
「そのとおりです。危機を察知した際に、すでに罠に嵌まっている場合などは回避ができません。昨日は防御が間一髪間に合いましたが、あと一歩遅ければ殺されていたかもしれません」
「なるほど・・・・・・」
太宰は腕を組んだまま、しばらく黙り込んだ。
3人を乗せた昇降機は地上へと降りていく。
「君の異能とその弱点についてはよく分かった。それを踏まえてもう一つ、聞かせて欲しいことがある」口を開いた。「2度目の襲撃の際、なぜ足を撃たなかった? 捕らえるなら足を撃ち、動きを止めてしまえばいい。なのに君はどうして、わざわざ足元へ撃ったんだい?」
「それは・・・・・・」織田は口を噤んだ。
「織田作之助。どの幹部派閥にも属さない最下級構成員で“絶対に人を殺さないマフィア”という変わり者。しかし少年時代は、二丁拳銃を使う凄腕の少年暗殺者として暗躍していた過去を持つ」
太宰の言葉に、織田は驚きの表情を隠せなかった。
「君には申し訳ないが、少々調べさせてもらったよ」腕組みを解いた。「ポートマフィア最古参の広津さんなら、赤髪の少年暗殺者の噂は聞いたことがあるんじゃない?」
「噂は存じています。ニ挺拳銃を使い、無感情に対象をただ殺す冷酷な少年暗殺者。拳銃の扱いに関しては超人級で、その腕前はまるで“未来が見えている”とでも言うかのようにどんな体勢から撃っても絶対に外さないほどだったとか」
「まぁ実際には“見えている”ではなくて“異能力で見ていた”が正しいだろうね」
「ここ数年は何も聞きませんでしたが、まさかこの者がその暗殺者だったとは・・・・・・」広津も驚いていた。「このことを首領はご存知なのでしょうか?」
「そうでしょうね。じゃないと、最下級構成員と呼ばれる彼に幹部候補の護衛任務なんて命じる筈が無い。おそらく、僕がさっき進言することも分かっていたんじゃないかな? 何にせよ、全ては森さんの計画通りだろうね」やれやれ、という表情だ。
3人を乗せた昇降機は、まもなく地上へと到着する高さまで降りてきていた。
「織田くん。凄腕の暗殺者だった君がなぜ殺しをやめたのか? それについて詮索するつもりはないし、殺しを強制するつもりもない。けれど──」昇降機のドアが開いた。「自らが危険と感じたときや仲間が命の危機に瀕しているときは、迷わず撃ちなよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます