第6話(2)

       ◆  ◆  ◆


「さて、太宰君。君の報告を聞かせてほしい」

 中也が去った執務室には、太宰と紅葉が残っていた。

「音響閃光弾による目眩しに、短機関銃による銃撃。これまでに報告されている方法と同じでした」昨日起きた襲撃内容を報告した。「しかし一つだけ、これまでの報告と違う点がありました」

「ほう。一体何かね?」

「襲撃犯を捕らえた後、別の人物に襲われました。それについては、実際に戦った彼から」太宰は織田に説明するよう合図をした。

「最初の襲撃者達を捕らえた後でした。太宰殿、広津殿に私の異能についてお伝えしようとしましたところ、建物の間からナイフを持った何者かが襲い掛かって来ました。男ということは確認出来ましたが、フードを深く被っており顔までは確認できませんでした。応戦しましたが、かなりの手練れで取り逃してしまいました。申し訳ございません」

「織田君、君の任務は太宰君の護衛だ。君のおかげで太宰君は死なずに済んだのだから、何も謝る必要はないのだよ」ご苦労様、と労った。「さて。太宰君と中也君を襲った相手だが・・・・・・。紅葉くん、何か分かったかい?」

わっちの部下をあなどってもらっては困るな。首領殿」紅葉は笑みを浮かべた。「奴らから得た情報をまとめてある。ちと、面白い内容となっておるぞ」

「さすが紅葉くんの部下だね」紅葉から報告書を受け取ると、次々とめくっていった。

 報告書をめくる鴎外の手が止まった。

「確かに面白い内容だ。北辰會にバレット、それに鴉。ここに記載されているのはどれも既に壊滅している組織だ。そして、それらと行動を共にしているのはGSS。これは一体どういうことだい?」表情が険しくなった。

「随分と懐かしい名があります。まさか、再びその名を聞くとは思いもしませんでした」

「北辰會以外は初めて聞く名ですが、どんな組織だったんです?」太宰は問いかけた。

「バレットは密輸した銃火器に物を言わせた過激派組織でした。それを使い我々の縄張りを荒らし、構成員数十名を殺害。抗争となり、壊滅しました」広津が答えた。

「鴉も我らのシマを荒らして壊滅した組織の一つじゃ。もとはどこぞの海外組織の傘下だったそうじゃが、我らと抗争になるや否やあっさりと切り捨てられてな」紅葉は懐かしそうに語った。「呆気ない最期じゃった」

「どれも先代の時に争った組織だよ。私も過去の資料でしか知らないがね」

「では、GSSがそれらの残党と手を組んだ、ということでしょうか?」

 広津は眉をひそめた。

「この件に関して、GSSは無関係じゃ。正しくはGSSそのものは・・・・・・・・、じゃがな。残党達と手を組んだのは、GSSの離反者じゃ。それに、この件には別に黒幕がいるようじゃ」紅葉は怪訝な面持ちだった。

「GSSの離反者に黒幕・・・・・・。思ったよりも厄介ですね」やれやれ、という表情を太宰は浮かべた。「で? その黒幕については何か分かったんですか?」

「黒幕の名前はおろか、顔すら知らないらしい。分かるのは“シャドウ”という暗号名コードネームで呼ばれ、常に黒い外套を纏い、フードで顔を隠しているということだけじゃ」

 紅葉の報告に、太宰は笑みを浮かべた。

「昨日我々を襲って来たナイフの男。当初は襲撃犯の仲間か監視役、あるいはこの機に便乗しようとした別組織のどれかと見ていました。しかし姐さんが得た情報と照らし合わせると、そいつは黒幕のシャドウということになる。まさか黒幕自ら襲撃してくるとは。ずいぶんと部下思いだね」

「いや、部下ではないらしい」紅葉が口を開いた。「奴らは自分たちを『同盟』と呼んでいてな。『ポートマフィアを倒す・復讐する』という共通の目的を果たすための協力関係、ということじゃ」

 しばしの沈黙が執務室を包んだ。

「同盟にシャドウ。分からない事だらけですが、最優先事項はシャドウの排除です。まず組織の頭を狙うのは鉄則ですからね。それが無理でも、他に手はいくらでもあります。所詮は烏合の衆。ちょっと突いてやれば綻びはでるでしょう」太宰は笑みを浮かべた。

「この件は君に一任している。引き続きよろしく頼むよ。織田くんも、彼の護衛を引き続き頼むよ」

「その件について、一ついいですか?」

「何かね?」

「彼を僕の護衛から外してください」

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