第6話(1)

 襲撃から一夜明けた。

 太宰、織田、広津の三人は昨日の襲撃について報告するため、首領執務室の前にいた。

「自分も入ってよろしいのでしょうか?」織田は戸惑いを隠せないでいた。

 織田のような最下級構成員がポートマフィア本部ビルに足を踏み入れることはまず無い。それが最上階の首領執務室なら尚更である。

「君もこの件の当事者なのだから問題ない。そもそも、君は私の護衛なのだから堂々としていればいい」

 扉を開けた。


「おや、珍しいのう。太宰」

 執務室には首領である鴎外の他に、遊女を思わせる出立ちの女性がいた。

 ポートマフィア幹部の一人、尾崎紅葉だ。

あねさんこそ朝からいるなんて珍しいね。随分と眠そうだけど大丈夫?」

「どこかの誰かさんにこき使われたからのう」冗談混じりに横目で鴎外を見た。

「昨夜遅くにまた別の襲撃が起きてね。その襲撃犯の尋問も紅葉くんにお願いしたのだよ」

「おかげで寝不足じゃ」紅葉は手で隠しながら、大きくあくびをした。

 なぜ紅葉が尋問を担当したのか?

 紅葉の部下には拷問専門の班があるからだ。

 ポートマフィアの中でも優秀な班であり、これまで多くの情報を引き出してきた。

「それは災難だったね、姐さん」紅葉を労った。「それで、被害状況はどんな様子なんです?」

「中也君の乗った車が襲撃されてね。中也君は無事だったが、運転を担当していた構成員がやられてしまった」

「襲撃に巻き込まれて死んでたら面白かったのに」太宰はボソッと呟いた。

「黙ってろ、クソ太宰」

 紅葉の横から、黒い帽子を被った背の低い青年が姿を見せた。太宰と同じく幹部候補の中原中也だ。

「あれ、中也居たの? てっきり小人が姐さんを労いに来てるのかと思ったよ」

「誰が小人だ。そこまで小さくねぇよ。喧嘩売んのもいい加減にしやがれ。っていうか手前ぇ、さっき入ってきた時に気づいてただろうが」中也は声を荒らげた。「そもそも、手前ぇがなんでここに居やがる?」

「私は森さん直々の任務を受けて、その報告に来たんだよ。誰かさんみたく、暇じゃないんでね」

紅葉は二人のやりとりを横目に見ながら笑みを浮かべた。「相変わらず、仲が良いのう」

「二人ともそのくらいにしたまえ。中也君、報告の続きを」鴎外は話を進めた。

 中也は鴎外の方へ向き直った。

「襲撃を受けたのは昨夜の任務終了後でした。迎えの車に乗っていると突然轟音と閃光に包まれ、直後に無数の銃弾が撃ち込まれました。銃撃が収まると、爆弾が投げ込まれました。慌ててドアを蹴破って車外へ出ましたが、それとほぼ同時に爆発しました」

「間一髪だった、というわけだね。運転手には申し訳ないが、君だけでも無事で何よりだよ」鴎外は冷静だった。「それで、襲撃者の情報に関しては?」

「襲撃者の人数はざっと二十名近くはいました。半分程は捕らえましたが、残りは逃げられました。申し訳ありません」報告を終えた。

「なるほど。太宰君、この襲撃についてどう思う?」

「これまでの敵と同じと見ていいでしょう。おおかた、昨日の襲撃で仲間が捕えられたことを受けて『幹部級が動き出した』と思ったのでしょう」昨日の襲撃を振り返った。「しかし中也、なに取り逃してるのさ。もれなく全員捕らえなよ」

「ああ? 手前ぇこそ一人取り逃してるって話だろうが。人に文句言う前に手前ぇの方こそ捕らえろや」

「二人ともそこまでにしなさい」鴎外は二人を嗜めた。「中也君、報告ご苦労様。下がっていいよ」

 太宰と言い合いをしながら、中也は執務室を後にした。

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