第2話(2)
◆ ◆ ◆
「お待ちください」
正面口を出た太宰達の前に、ベージュのコートを着た赤毛の男が現れた。「幹部候補の太宰殿ですね」
「何者だ?」広津が太宰を守るように前に出た。「ん。貴君はたしか・・・・・・」
「広津さん、彼を知ってるの?」
「構成員リストで何度か見た顔です。たしか、名は──」
「織田作之助です。太宰殿護衛の任務を仰せつかり、参りました」広津の言葉を遮るように織田は名乗り、要件を告げた。
「護衛だと? そのような話は聞いていないが? それに、貴君のような最下級の構成員にそのような重要任務が与えられるはずがなかろう。ふざけるのも大概にしたらどうだ?」広津の目つきが鋭くなった。
「いいよ広津さん。森さんから護衛を付けるという話は聞いているから大丈夫」
「・・・・・・承知いたしました」広津は後ろへと下がった。
「織田君といったね。来てもらって早々申し訳ないが、私に護衛役はいらない。森さんには私から言っておくから、帰っていいよ」
「いえ、自分は護衛役を命じられて来ておりますので、任務を放棄して帰るわけにはいきません」
「君も頑固だね。でもね、私がいらないと言えばいらないのだよ」
そう言うと、太宰は織田へ近づき懐へと手を伸ばした。
「──ッ!」
その瞬間、織田は何かを感じ取った。そして、太宰の手を払うと距離を取るように後ろへと跳んだ。
「──ッ!」
再び織田は何かを感じ取ると、体を横に回転させた。
それと同時に、一発の銃声が響いた。
織田は体勢を整えると、左脇のホルスターから銃を抜いて正面を見た。
「へぇ。君、なかなかいい動きをするね」目の前には笑みを浮かべる太宰の姿があった。「それとも、優れた危機察知能力でも持っているのかい?」太宰の手には銃が握られていた。
「そこまでだ」
広津の声を合図に織田の周りを広津と黒服たちが取り囲み、広津は太宰を守るように前へ出た。「銃を置いて、両手を上げろ。従わねば撃つ」
黒服たちの手に握られた銃が一斉に織田へと向けられた。
織田は指示に従い銃を置くと、両手を頭の高さに上げた。
「貴様、幹部候補に銃を向けるとは一体どういうつもりだ? 返答によっては──」
「いいよ、広津さん。みんなを下がらせて」広津を静止した。「威嚇のつもりで撃ったのだが、まさか避けられるとはね。しかも、それに反応して銃を向けてくるとは。君、なかなか面白いね」太宰の顔に笑みが浮かんでいた。「先程の発言は取り消そう。護衛役、よろしく頼むよ」
「よろしいのですか?」広津が口を開いた。「確かに腕は立つようですが、幹部候補に銃を向けるような者を護衛につけるのはいささか不用心では?」
「急に撃たれれば誰だって警戒はする。今回の場合、銃を撃ったのが私で、撃たれたのが彼だった。ただそれだけのことだよ。それに、広津さんも彼の危機察知能力を見たでしょ。あの能力が有れば僕は安全だ」
太宰は織田の元へと歩み寄ると、織田へ銃を渡した。「一発無駄にしてしまって悪かったね」
織田は右のホルスターを触った。そこにあるはずの銃が無くなっていた。
太宰が差し出した銃を見た。持っていたのは、織田の銃だった。
「先ほどの身のこなし、見事なものだね。期待しているよ、織田くん」
太宰は残った部下たちを率いて調査へと向かった。
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