第32話

穴を潜った俺たちはそれまでとほとんど変わらないダンジョンの内部にいた。


外見上は・・・

見た目だけで考えるならば天国門ダンジョンとさほど変わらないように思えるような構造のようだ。

しかし妖気圧がまったく異なっている。


「これが・・・地獄門ダンジョン、なのか?」

「間違いないよ。一度だけハイランカー達に体験してみろって言われて地獄門の1階層に入ったことがあるけど、それと似たような妖気圧だもの」


「似たような・・・?」

「厳密には違うけどね?こっちの方が遥かにヤバイよ」


「となると考えられる可能性は、別階層ってことかな?」

「それも違うと思う。聴覚強化すればわかるけれどゴブリンの鳴き声がかなり遠くの方からしてるでしょ?」


言われて術式を展開して確認してみると―ギギッ―、―グギャ―など確かに天国門ダンジョンで出くわしたゴブリンと同じような鳴き声が聞こえる。

「確かにモンスターの強さと種類が段違いに変わる10階層と11階層であればここまでの差も頷けるよ?

でも同じゴブリンが出てくるってことはここは間違いなく1階層~10階層までのどこかの地獄門ダンジョンのはず」

「でも以前莉緒ねぇが体験した地獄門の1階層とも段違いの妖気圧・・・」


「わからないことだらけね・・・・」

と莉緒ねぇもお手上げの様子だ。


そしてそこで俺は思い当たってしまった。

とある可能性についてだ・・・

「もしかして・・・」

「何?何かわかったの?」


「いや、わかったっていうわけじゃ無いし、正直に言えば考えられないし、考えたくもない可能性だから」

「でも想定は最悪の方向でっていってたでしょ?なら教えて頂戴」




「ここが1~10階層なのはほぼ間違いないとして、俺たちはもう1つ地獄門にヤバイエリアがあるのを知ってるはず」

「地獄門陰エリア・・・か・・・・・」


そう。それしか考えられない。

そうだとするならここはあまりに危険だ。

なにせ地獄門の陽エリアですら、ハイランカー達が大規模グループを編成したうえで挑むエリアだ。

なのにそれよりもヤバイエリアにいるとなれば危険だ。

これ以上の調査は危険だと判断した俺だったが、その判断は既に遅かった。


―――ドガアァァァン!!!―――


凄まじい轟音と共に数十メートル先の壁を破壊しながらが出てきたからだ。

数は軽く20を超えている。

あまりの事態に莉緒ねぇは既に臨戦態勢だ。


――あのヤマンバは群れを成していて、群れからはぐれた個体だったのか!?――


内心舌打ちしていた俺だったが、そこで違和感を感じた。


――待て。あのヤマンバは一体どういう風に出てきた?自分から壁をぶち破ったようには見えなかった。ようにして――


そう思った俺は気配察知を広げてみて愕然とすることになった。


――いる!あの穴の向こう側にもっとヤバイが!!――


「莉緒ねぇ、あのヤマンバの何体かを相手にできる?」

「ちょっ!?まともに戦う気なの!?正気!?」


「正気だよ。多分だけどは逃げて来たんだ。もっとヤバイ上位者から・・」

「それって・・・」


そうしてが姿を見せる。


小烏

日本の妖怪として知られる1つだ。

千年の年を重ねた烏が化したもので、生前に意地の悪かった人の死骸を掘り出して食うとされている妖怪だ。


本来は四国地方に伝わる妖怪のはずだが・・そんなことは今はどうでもいい。

問題なのはあの小烏からとてつもなくヤバイ妖気が漏れ出ている。


《雷よ!あまねく雷撃を切り裂き、万物をその雷撃で焼き尽くせ!》


俺は祝詞を唱えて雷切の本来の力を顕現させる。

それと同時に刀が青白く輝きながら雷撃をバチバチと帯電させ始める。


新たな闖入者にヤマンバも小烏も一瞬目を向ける。


対応は一気に分かれた。

小烏はより強者と判断したのか迷うことなく俺に攻撃を仕掛けてきた。

ヤマンバの一部も同様の行動を起こしている。

そして一部のヤマンバは向かってくるように見せかけて逃げ出そうとしているようだ。

残ったヤマンバはどうしようかと慌てている様子。


俺は雷切に妖力を流し込み雷撃を作り上げる。

作り上げた雷撃をそのままヤマンバの集団に叩きつけて感電させる。

さすがにあれだけでヤマンバを倒せるわけでは無いが、それでも動きを数秒止めるには十分だ。

そしてその数秒があれば・・・


―――ザンッ!!!―――


そう。莉緒ねぇの方で仕留めることができる。

そして俺はというと鋭く大きなくちばしを閉じて、串刺しにしようと突撃してきた小烏の攻撃を歩法で瞬時に躱すと同時に、同じく鋭く長い爪をもった手?を切り飛ばした。


「ギャアアアア!!!」

たちまち悲鳴を上げながら一度上へと逃げる小烏。

妖怪になったとは言えど流石は元鳥類だ。


その間にも俺と莉緒ねぇは瞬間移動の歩法を繰り返し、動けなくなった一団のヤマンバを倒していく。

俺たちを倒そうとした奴らとあわよくば逃げ出そうと考えた15匹のヤマンバを難なく仕留める。


そうしているうちに小烏が急降下と共に攻撃を仕掛けてくる。

しかし狙いは俺ではなく莉緒ねぇの様だ。

「莉緒ねぇ!」

「っ!?」


俺は莉緒ねぇに警告を飛ばしながらも練り上げた雷撃を再び残っていたヤマンバの5匹に向けて飛ばしつつ、


――ガキイィィン!!――


莉緒ねぇと小烏の射線上に立ちふさがり剣でその突進を止めた。

攻撃が止められると思っていなかったのだろう。

少し驚いた雰囲気だが、同時に建て直すのも早かった。

直ぐに残っていた手の爪で攻撃を繰り出してくるが、避けつつも攻撃をそらす。


ちなみにではあるが、それとほぼ時を同じくして莉緒ねぇは俺の意図を理解しており、雷撃を食らった追加のヤマンバに止めを刺していた。

すなわち攻撃を逸らしたところで、もはや攻撃が当たる相手がいない。


2度目の攻撃も失敗しつつ、他の敵がいなくなったことで己の不利を察したのだろう。

徐々に距離を取り始めている。

恐らく逃げ出す腹積もりなのだろうが、そうはさせない。


――莉緒ねぇに手を出しておいて逃がすわけねぇだろうが!!!――


俺は再度雷撃を練り上げて一度上へと放出する。

放出された雷撃は落雷となって小烏へと命中し地面に落ちた。


「ギャアァァ!?」


今まで雷撃を自身に向けられなかっただけにこの攻撃は予想していなかったようだ。

俺は雷撃を纏わりつかせながら静かに歩みを進める。


「グギッ!?ギャア!!ギギイイイ!!グギャアア!!!!」


何かを叫んでるようだがそんなものは知らん。


そして俺は小烏に深々と剣を突き立て


「俺の女に手ェ出したんだ!逃がすわけねぇだろうがよ!?」

「グギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


今の俺が溜めることなく瞬間的に出せる妖力の限界を出して、雷撃で殺した。



そうしてあたりに静寂が戻った。

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異能の少年 ~ダンジョン学園で無双する~ きよすいようはねた @jckmlivly

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