第31話

俺は莉緒ねぇと一緒に天国門ダンジョン陰エリアの1階層へと潜っている。

今頃新一たちは陽エリアでステータス強化を図っているだろうと思いながら少し心配になる。


というのも、ダンジョンドロップするのは結晶だけではなく武器などの類もドロップする。

当然結晶に比べれば実入りの良い収入源となるのだ。

加えて、新一たちは装備も少し整えており、初期装備の物では無い。


門に入るときに情報のセーブが行われるため、装備を身に着けた状態で死んでも装備を落とすことは無い。

しかし、死んでしまえば新一たちは自身の魂の結晶を落としてしまう危険があるのだ。


そしてこの際に重要なのは死の定義である。

魂を落とすような結果は全ての死によってもたらされる。

すなわちモンスターに殺されるとか他の生徒に殺されるとかそのあたりは関係無いそうだ。


本来ならば殆どの一年生は攻略を始めたばかりであり、日々の食事代などを必死に稼ぐのが限界であり、とてもではないが装備までは手が出せない。

当然のことながら初期装備から変わっている新一たちは、『ドロップ品で装備が変わっている』という風に認識されてもおかしくは無いのだ。


結果的に何が起こるかというと、モラルの無い生徒たちはその装備が手に入れたばかりの装備であるがゆえに『あいつを殺せば装備を手に入れられる』という認識で攻撃してくることがあるのだ。



「大丈夫だよ、がっくん」

「何の話?」


「大方、他の1年生から攻撃の的になるんじゃないか?って心配なんでしょう」

「なんでわかるの?」


「それは、がっくんが陽エリアの方ばかり気にしてるから気に掛けなくてもわかるよ」

「そっか・・・それじゃあなんで大丈夫なの?」


「今の1年生の殆どは陽エリアであったとしても敵を倒すのに必死なんだよ?

それがいくら1階層とは言えども陽エリアの敵なら難なく倒せる彼らとでは雲泥の差ができてる。

その彼らが他の1年生に攻撃されたところで負けることを想像する方が難しいよ」

「そうか・・それもそうだね」


「それよりも・・・・」

「うん。やっぱり莉緒ねぇも気づいたんだ?」


「そりゃあ私も陰陽師の端くれですからね!」


まだあの禍々しい雰囲気のもとに辿り着いているわけでは無いが、それでも雰囲気というか気配のようなものは莉緒ねぇでも感じ取れるわけだ。


そしてそこにそれはあった。


妖気の流れを見ることのできる俺たちの死角に阻害を掛ければ、あくまでも黒い穴がぽっかりと開いている程度のものだ。

しかしその阻害を解除すればたちまちドス黒い妖気を垂れ流している穴に変わる。


「これは・・・どうにも穴自体がこういうものってわけじゃ無さそうだね」

「そうなの?」

俺の呟きに対して莉緒ねぇが質問してくる。


あくまでもこの穴からは、穴の奥から漏れ出す妖気の断片みたいなものが漏れ出ている程度にしか思えなかった。

「とすると・・・この先にあるエリアは・・」

「地獄門ダンジョン・・・だね・・」


そう。それしか考えられなかった。

それに一部のモンスター、地獄門陽エリアにいるレジェンダリーや、エキゾチックランクモンスターは、

ここ、天国門陰エリアへも移動ができる。

厳密にはエキゾチックランクにはその移動制限がないのだが・・・


「莉緒ねぇ、調査とは言ったけど、もしかしたらかなり危ない戦闘が発生するかもしれない」

「その根拠は?」


「本来、天国門ダンジョンは地獄門ダンジョンを再現して作られたアトラクションのようなもの。

なら1階層のここから繋がっているであろう地獄門の中にいるモンスターは強さの差はあれど、原則としてゴブリンという事になる。

だけど、この異空間はおそらくあのヤマンバが作り上げた物のはず。

ゴブリンが作り上げた物とは思えない。

だとすると・・・」

「この先にヤマンバがいる可能性があるってことだね?」


「そう。それに通常ダンジョンの低階層は作り物の物語に出てくるようなモンスターだったはず。

けれどヤマンバはそれに該当してない。となるとヤマンバ自体がそもそも中層あるいは高階層のモンスターのはずなんだ。

いや、もしかすると同じランク帯での力は低かったとしても、ヤマンバはレジェンダリーではない可能性すらある」

「まさか・・・ヤマンバもエキゾチックだと?」


「可能性の話だよ。でもこれから地獄門に行くってことは当然天国門のセーフティーは働かない。

なら想定は悪い方向でやっておくべきだと思う」

「ごめん。確かにそうね。1年間安全なエリアでしか狩りをしてこなかったからか、浮かれていたみたい」



そうして俺たちは禍々しい雰囲気を出している穴の中に入り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る