第22-1話

《天国門ダンジョン 陰エリア:第一階層》

「昨日も来てはいたが、改めてくるとやっぱり重い雰囲気だな」

「雰囲気なのではなく実際重いのだろうな」


「どういうことだ?」

「今の新一たちはダンジョンでステータスを上げたことで、疑似的とはいえ俺達陰陽師の存在に近づいた存在だ。

ならば妖気や魔の力を感知できるようになるのは道理だろう。

その影響で、この陰エリアの異質さを体で感じるようになったのだろうさ」


「なるほどな・・・」


そんな会話をしながら歩いているとゴブリンの集団が現れる。

数は6匹。

流石に本格的な初陣としては数が多すぎる。


「全員聞け、まずは俺が3匹殲滅する。

その後は任せた。一人1匹をノルマにやって見てくれ」


そういうなり頷くの見る間もなく俺は身体強化等を施して剣を背中から抜く。

この程度の敵であれば雷切を抜く必要は無い。

ダンジョンアタックの為に渡された初期装備で十分だ。


俺は瞬時にゴブリンたちの集団に辿り着き、横薙ぎで大きな一撃をかまして3匹の首を一気に刎ねた。

そして残りが3匹になるや否や新一たちの元に戻る。


「・・・・・改めて見たけど、相変わらず目で追えねえ速さだな」

「心配するな。この程度の速さなら新一たちも割とすぐにそうなるだろうさ」


「そうなることを期待したいが・・・じゃあ行くぞ!2人とも!」

「うん!」「はい!」


香澄はそう返事をするなり、2人に対してバフを掛けた。

現段階では大したバフではないが、それでも各種身体能力が微量とは言え向上しているようだ。

戦闘時は微量と侮ることはできない。

敵を倒す差にその僅かに差が勝敗を分けることもある。

まして叶わない敵から逃げる際も、その僅かな差が生死を分けることもあるのだ。


香澄がバフをかけて、その支援を受けながら俺たちが突撃し、香澄は中遠距離から魔法で攻撃する・・・

うん、考えて見たけどなかなかにいい戦法だろう。

後方支援は数が多ければいいってものじゃない。

逆に後方支援がいないパーティーは全部近接戦になり苦戦しやすい。


これならば比較的ダンジョン攻略が捗りそうな気がしてきた。


新一は片方の短剣で攻撃を受け止めつつ、もう片方の剣で相手の首を串刺しにして倒した。

詩織は槍のリーチの長さを生かしつつ、遠心力を使って威力を増大させてこちらも首を刎ねおとして倒している。

香澄はというと魔力弾を作り出して何発か、同じ場所に集中して当てている。

数を重ねていくうちに脆くなり、最後には貫かれて絶命した。


「香澄。一つ聞きたいのだが、倒すのであればファイアボールやウィンドカッターの方が楽だったんじゃないのか?」

俺は気になったことを尋ねることにした。

そして帰ってきた答えは意外な物だった。


「うん。それはそうなんだけどね・・・聞けば職業ってその人の適性とか戦い方が影響するってことらしいじゃん?

新一の家族のことを聞いたときに私は思わず神官を目指したいと思ったんだ」


神官

それは言うまでもなく聖属性魔法を操る職業だ。

攻撃力を見込んだ魔法使いに比べると初期の段階では火力が圧倒的に劣っていてかなり苦戦するダンジョン不遇職。

それゆえ、初めの段階で自分の行動を縛りたくない者たちは、その段階で神官を目指すことをあきらめるという。

神官は各種ステータス向上のバフスキルを扱えるだけでなく、聖属性の攻撃魔法や、神官として醍醐味である回復役を担うことになる。


「これは・・・新一は香澄の将来の責任を取らなきゃいけないな?」

少し意地悪を込めて聞いてみると、

「んなことはわかってるさ。どのみち香澄には手を出してるしな。

身勝手な願いをした野郎の為に尽くしてくれようとしてるんだ。

ここで見放すなんてただのゴミがやることだろうが」


「おーおー、なんかよくわからんが急に汗が出てくるほど暑いなー」


揶揄われたと気づいた新一は顔を真っ赤にして掴みかかってくるが、本気で怒ってる顔じゃない。

あくまでも恥ずかしがっている顔だ。





それからも俺たちはダンジョンの2階層に向けて進み続けた。

その間もモンスターは度々出てきており、それらを新一たちは特に危なげなく倒していった。


なお香澄の方向転換を知った新一は香澄とモンスターの位置関係を気にするようになった。

それに伴って詩織も、新一と香澄の位置関係を気にするようになり、自然と新一がオフェンス、香澄がディフェンス、詩織が双方の側面支援を行う遊撃という役割を果たすようになる。


このフォーメーションの際一番きついのはパッと見では敵と真っ先に戦うことになるオフェンスのように感じられてしまうが、実際には違う。

実際は遊撃ポジションが一番大変なのである。


理由は簡単でただひたすらに敵を倒したり、敵の攻撃を受け止めたりすればいいだけのオフェンスとは違い、ディフェンスが危険な時はディフェンスの支援に回り、それ以外はオフェンスと一緒に攻め込むなど臨機応変な判断と対応が求められる。


しかし詩織は小さいころか周りの動きを注視しながら育ってきた影響もあってか、香澄と新一のそうほうをしっかりとよく見ており、的確に判断して支援を行っていた。




そうして俺たちは2階層に到着した。

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