第19話

「早い話が俺が1層に潜っただけでも危険な兆候を見つけたという事だ」

「「「!?」」」


「本来、天国門ダンジョンと地獄門ダンジョンには陽エリアと陰エリアがある。

普段一般の生徒たちが探索してるのは天国門ダンジョンの陽エリアだ。

だが俺たちが入り込んだ場所は天国門ダンジョンの陰エリアだ。

そしてそこには人の手が入り込みにくい性質故に、普通では考えられない量のモンスターがいた。

ハッキリ言ってしまえば、もうキャパが限界になってるんだ。

それがあふれ出してしまえば・・・」


「「「・・・・・・・・・・・」」」


「その・・・陰エリアというのは・・・」

「ああ、簡単に言えば陰エリアというのは本物のモンスターだ」


「本物・・・?」

「天国門ダンジョンの陽エリアは天国門という、人が作り上げたシステムの中で構成されている。その中で構成されたモンスターが一般の生徒たちが戦っている相手だ。

対して天国門ダンジョンの陰エリアとは、一応天国門のセーフティーが届く範囲ではあるが、どちらかというと地獄門エリアの側面が強いエリアを意味する。

故に地獄門が単にセーフティーが働かないという話ではない。

天国門が人工的に養殖された軟弱なモンスターなら、地獄門は過酷な自然環境に打ち勝ってきた強いモンスターで構成されている。

天国門陰エリアとは、地獄門陽エリアで辛うじて天国門セーフティーが届いている場所とも言い換えることができるエリアだ」


「んで・・・俺達はそんなヤバイエリアに居たと?」

「まぁそういう反応になるよな。だけどヤバいのはここから先だぞ?」


「まだあるのかよ・・・」

「当たり前だ。天国門に陽エリアと陰エリアがあり、同時に地獄門で一括して表現せず、地獄門陽エリアと称したってことは・・・?」


「地獄門の陰エリア・・・・」

「その通りだ。

地獄門陽エリアとて過酷な自然環境を生き延びてる奴らだ。しかし地獄門陰エリアのモンスターはそんな環境で生き延びた者同士で戦いあって、生き延びた連中だぞ?」


「「「・・・・・」」」


「加えて今までの数日の調査の中で、モンスターランクにはノーマル・レア・ユニーク・レンジェンダリー・エキゾチックのランクがあるらしい。

レジェンダリー迄なら多分俺は何とか対応できると思う。

俺が倒した奴はヤマンバというやつなのだが・・・あれはレジェンダリーに該当するようでな。

だが問題はその先にいるエキゾチックだ」


「レジェンダリーでも問題だとは思うが・・・何が問題なんだ?」


「基本的に多くのモンスターは階層も固定されるし、新一の言うユニークのように階層移動をするモンスターもいることはいる。

だが地獄門の陽エリアにいるレジェンダリーが全体の中では例外的に、天国門陰エリアと行き来できる存在なんだ」

「つまり今までのように人気の少ない天国門陰エリアを探索するためには、

その地獄門陽エリアのレジェンダリーを警戒する必要があるってことか・・

頭が痛いな・・・」


「いや・・・それだったら、まだマシだ」

「マシ?なぜ?」


「先にも言ったがレジェンダリーであれば俺でも倒せる可能性は十分に残ってる。ヤマンバを倒した時のようにな。

問題はその上にいるエキゾチックランクのモンスターだ」

「なんか猛烈に嫌な予感がするが、一応聞いておく。何が問題だ」


「エキゾチックランクのモンスターには天国門だとか地獄門だとか、陽エリアだとか、陰エリアだとか、階層だとか・・・

とにかくそういう区域みたいな概念が存在しないことだ。

連中は天国門だろうが地獄門だろうがダンジョンの中であればどこでも彷徨う危険な奴らだ」


「・・・・・・・それでも天国門側に居ればセーフティーが届く可能性があるなら」


と香澄がその可能性を指摘し、詩織と新一も僅かに生気を取り戻すが、次の情報で一気に絶望することになる。


「いや・・・そもそも天国門のセーフティーの対象として保障されるのはレジェンダリーまでだ。エキゾチックは場合によってはダンジョンの産物とは限らない。

故に例え天国門の陽エリアであったとしても、エキゾチックランクに殺された場合、

天国門のセーフティーが働く保証は一切ない」

「「「!?」」」


「それじゃあ・・・ソレに殺されたら、私たちは本当に死ぬの?」

「その可能性がかなり高いと見て行動するべきだろう」


「「「「・・・・・・・・」」」」


全ての説明を終えた俺たちの間には困惑と絶望しかなかった。

なんせ今まで俺を除いた3人は基本的に命の保証がある世界だと思っていたはずだ。

例え寿命が縮んでしまったとしても今すぐに死ぬようなことは無い。

比較的安全なダンジョンアタックだと思っていたはずだ。


しかし蓋を開けてみれば、すぐに死ぬ可能性すら残っているダンジョンだと説明されたわけだ。

そうなると自分たちの考えの根本が崩れ去ってしまう。





根本が崩された人間は、人として壊れることもある。

3人はいまそういう状況に立たされていた。

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