第18話

天国門ダンジョンの入り口に戻った俺は、先に戻り5時間近くも待ってくれたパーティーメンバーに話しかける。

「待たせたな」

「ホントだぜ・・・どんだけ待たせりゃ気が済むのかと思ったぞ」


「心配してくれたのか?」

「当たり前だろ・・・今となっては俺たちは一蓮托生の仲間だぞ」


「俺が事情を話してなくても・・・か?」

「オメーに何か特殊な事情があるのは、もう俺たちにだってわかってるさ。

それでもオメーがいなきゃ俺たちは死人同然の存在だ。

命の恩人を仲間外れなんてできるわけねーだろうが」


「そう・・か・・・ありがとう」


「それで?どこに行ってたんだ?」

「いや、ここでは人が多い。寮に戻ったら話そうと思う」


そういって俺たちは寮へと行く。香澄と詩織にとっては『戻る』という表現が正しいものではあるが、俺たち二人は本来は部外者だ。

部外者が『行く』という表現を使うのは間違っているだろう。


昨日と同じくして男子二人が入ってきたことで寮内はピリピリした雰囲気になってしまう。

まぁ無理もないことだ。

一部女子生徒を食い物にしてるのが、ここの男子生徒たちの常だ。


そんな視線を受け流しながら俺たちは香澄たちの部屋に辿り着く。


「そんで?ここなら話せるのか?」

「ちょっと伝手を当たっていてな・・・黒い結晶をルビーに交換してきたんだ。

というわけでお前たちの取り分の6000ルビーだ。

均等に分けるなら一人2000ルビーといったところだろうか?」


「受け取れるわけねーだろうが・・・」

「なぜ?」


「なぜって・・・お前が動けなくして俺らは安全に倒しただけだぞ?

それの報酬を受け取れって言うのか?」


見れば香澄と詩織も頷いている。


「心配するな。

俺はあの後100体ほど倒してそれも換金してるから2万ルビー稼いできてる。

それに最初に倒したヤマンバのドロップもかなり高値で売れてな・・・

こっちに至っては50万ルビーで買い取ってもらってるから俺の懐は温かい。

しばらくはお前らの食費は俺が出すからそこも安心しろ」


「100・・・2万・・・50万・・・・」

香澄が茫然と呟いていた。


「そんなに派手にやらかして大丈夫か?」

新一が聞いてくる。


「お前の心配も分かる。だが俺が当たった伝手は購買では無いぞ?

だから足がつく心配も少ないのさ」

「・・・・お前ってやつは・・まぁ、いいさ。でも気を付けろよ?」


「言われなくてもそうするつもりだ」

「それで明日もダンジョンに潜るか?」


「いや、明日は俺の事情の説明と会ってほしい人がいる。

ダンジョンは・・・まぁ時間的な余裕があれば、だな。」

「わかったが、その説明は明日じゃないといけないのか?」


「今日はもうだいぶ遅いがいいのか?」

「俺たちからすればお前は不思議の塊だ。その不思議が解かれないのは不安なのさ」


「それもそうか・・・」


そうして俺は部屋全体に防音の結界を張り説明し始めた。



「はぁ・・・・すげえ奴だとは思いはしたが、そんな特殊な事情が絡んでるとはな・・

それじゃあお前さんがこの学園に来た理由は?」

「もう察しているだろうが、基本は調査のためだ」


「基本・・?基本も何もなくそれが理由なんじゃないのか?」

「何事も無ければそれで終わる。だが、それ以外の何かがあれば本格的な実力行使が必要になる」


「・・・・何が起きる?」

学園に関係している人間を親族に持つ新一でも恐怖を隠しきれていない。


「簡単に言えばスタンピードが起きる可能性がある」

「スタンピード?」


「ざっくり言えばダンジョンからモンスターが溢れかえることだ」

「それってそんなに危険なの?」

ここで香澄が質問してきた。


「危険どころか日本崩壊の可能性もあるぞ」

「崩か・・・!?」


「考えて見ろ。俺たちが割と安全にダンジョンへと潜れている理由はなんだ?」

「それは・・・疑似的に生き返るから・・・」


「そうだ。そしてそれは天国門ダンジョンに限った話だ。しかし地獄門ダンジョンは?」

「報酬は多くもらえるけれど、一度の死がそのまま当人の死に直結するから、天国門で30階層に行けないうちは地獄門には行くなって・・・」


「そう。つまりリセットボタンなんか一切存在しない。だから絶対に生き残れるだけの力量を身に着けてから行けってされてる。

スタンピードってのは天国門・地獄門問わず、ダンジョンからモンスターが溢れかえって外に出てくるわけだ。

当たり前だが、セーフティーが働いているのは天国門の内側だけだ。

普段俺たちが生活している学園の校舎はセーフティーは働いてないぞ?」


「「「!?」」」


「もう分かるだろう?セーフティーの働いていないエリアに溢れたモンスターが襲い掛かってくる。その光景を想像してみろ。

ああ、当たり前のこと言うが光の粒子になって消えるなんて言うおとぎ話は起きないぞ?」


「「「・・・・・・・・・」」」」


一様に顔を青ざめさせている


しかし今まで俺と一番近くにいた詩織が辛うじて質問してくる。


「でも、あくまでも調査なんですよね?そこまでの危険はないのでは・・・?」

「ただですら国が厳重に情報統制をしている島に対して、昔からお付き合いがあるとはいえ陰陽師の家に調査依頼を出すんだぞ?

つまるところ国としてもスタンピードの前兆を感じ取っているってことだ」


今度は詩織も絶句した。


反面新一が何とか立ち直ったようだ・・・


「国としてもっていうのはどういうことだ?」




ここからが本題になるな・・・

そう思いながら説明を続けた。

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