第16話
翌日、今日から3日間はダンジョン実習を推奨している日にちになる。
ダンジョン実習を加速させるために、寮で出される食事は基本的に朝食と夕食のみが出る形になる。
昼食も出なくはないのだがこちらは別途ルビーの支払いが必要だ。
もちろん学園の食堂に行ってもこれは変わらない。
日頃からこまめに稼ぎを作っておけば、これと言って特に1日2日くらいは焦ることなくルビーを支払えばいいのだが、毎日ギリギリを渡るような生活をしている生徒たちは否応なくダンジョンに向かうことを余儀なくされる形になるわけだ。
尚、朝食時俺たちも女子寮で食事を摂らせてもらうにあたって、俺の方から2人分の食事として1人500ルビー、新一の分も合わせて1000ルビーを支払っている。
本来であれば1000ルビーなど入学してから3日しか経っていない新入生にとっては大金だが、思わぬ大口の収入があった俺からすれば、50万ルビーから1000ルビーを1回支出することぐらいは大した負担にはならない。
それこそ500回分の支払いができる金額があり、このままダンジョンアタックをしなくても大体1年半弱くらいは暮らしていけるくらいの金額がある。
まぁ結局のところどこかで必ずダンジョンに潜り込むことになるわけだし、足りなくなることは無いだろう・・・・多分・・
それにあのいけ好かない神獣の居場所は既に特定できるようにしてある。
購買部で大口の換金ができないとしても、あの精霊のところでルビーに交換すればいいだろう。
どのみち奴も奴とて、コネクションの維持のためにも、ダンジョンモンスターの・・・
つまり異質なエネルギーの塊を供与できるとなれば、奴にとってもメリットがあるはずだ。
供与する量にもよるが、少しずつくらいならば断わられることも無いだろう。
そして俺たち4人はダンジョンへと向かった。
ダンジョンに到着すると俺をパーティーリーダとした登録で天国門を潜る。
前回同様に人目に触れることなくことを済ませるために、人気の少ない表エリアでの狩りを行うつもりだったからだ。
ここに来るにあたって3人の武器を新調している。
新一は刃渡り30cmくらいの短刀を2振り装備している。機動性と手数を重視したスタイルだ。
詩織は全長が1.5mくらいで、刃渡り20cmくらいの刃を付けた槍を装備している。
香澄は杖と呼ばれるもので殴るスタイルとなる。本来杖は魔法使い職が使う物なのだが、杖を持った状態で攻撃することによって魔法使いの職を手に入れやすいとのことだ。
近接攻撃を用いるならばいっそのことメイスなどの方が攻撃力としては高いはずだが、将来的に魔法使い職を目指したいという香澄はこのスタンスで頑張ることになった。
ちなみにであるが、俺は武器を増やしている。
具体的には表向きの移動の際は、学園から初期装備で渡された剣を腰に差し、背中に布で包まれた棒のようなものを背負った状態で移動し、
ダンジョンに入るなり、布をはぎ取り鞘ごと腰にもう一振り差している。
簡単に言えば雷切も即座に抜けるようにしている。
基本的には学園から渡された武装で戦おうとは思うが、何分裏エリアの敵だ。
表エリアの敵のように想定という言葉の使用を多くすれば多大な危険が伴うはずだと考えたからだ。
そうして俺たちはダンジョンを彷徨う。
《天国ダンジョン:陰エリア 第一階層》
最初に見つけた・・・というよりも遭遇したのはゴブリンが1体だけ野良でうろついている敵だった。
例によって各種強化を施している俺は、近くの敵がどの方向に居て、どれくらいの数がいるのかとかそういう情報を感知することができる。
ゲームのようにマップ表示をさせて明確に数を判断することができるわけでは無いのだが、それでも何も情報もなく行き当たりばったりとなるよりかは大分マシな方だろう。
俺自身は現状この階層の敵であれば裏エリアの敵であろうと、ノーマルやレア程度のランク帯のモンスターであればこれといって苦戦することなく倒せる相手だ。
ユニークに関してもただの憶測ではあるが、さほど苦戦しないものと思っている。
根拠は俺が倒したレジェンダリーであるヤマンバだ。
確かに奴は速かった。
普通の・・・と称していいのかは分からないが、少なくとも表エリアを探索している1・2年生では荷が重い相手だ。
1年生なら逃げるだろうし、2年生でも死に戻り覚悟といったところだろうか・・・
だがそんな相手でも俺が各種強化をすればこれと言って苦戦することなく倒すことのできる相手だった。
もちろん同じレジェンダリーでも階層によっては強さの質が違うのだろう部分があるので、そこに関しては慢心するつもりはない。
しかし地獄門と天国門との差ならわからなくもないが、レアがレジェンダリーには簡単には勝てないだろう。
そういう考えのもとで下した結論なわけだが・・・
それはあくまでも俺の話だ。
新一たち3人からすれば表エリアのゴブリンとてはっきり言って脅威の存在だ。
その表エリアのゴブリンよりも元々1段か2段くらい強化されている裏エリアのゴブリンとなれば、3人にとっては現段階で決死の状態だろう。
既に1度死んでしまっているということがらからか、ある種のあきらめなのかそこまでの恐怖心は見えない。
だがそれでも、表エリアのゴブリンよりも強い、ゴブリンが周囲にいるという事で緊張感は高めの様子に見える。
そして件の野良ゴブリン1体を見つけるや否や、おれは身体強化を使って一瞬で距離を詰め、腕を切り飛ばし足を払い、頭を踏みつけた。
そこまでの状態になれば起き上がることも困難になるだろう。
「それじゃあ刺すなり殴れ」
「い・・・いや、刺すなり殴れって・・レベル上げってこういう物なのか?」
「安全にレベルアップできるのだから文句を言うな」
と新一からのクレーム。
「でもこれってパワーレベリングだよね?」
「それとも力でも劣った状態で自分の力だけで戦いたいと?」
と香澄からのクレーム
詩織はこれといってクレームを言ってくることは無い。
むしろ俺のいう事は絶対と思い込もうとしているようだが・・・
『言うべきことなら言って良いのだが・・』
と思いながらも楽でいいな・・・とも思ってたりする。
そして3人で斬るなり殴ろうとするが・・・
「ゴンッ!」「「サク!」」
と鈍い殴打音と軽い刺殺音が聞こえるだけだ。
「クッソ・・・刃が通らねえぞコイツ!?」
新一が敵に対してもクレームを言っている。
そして3分ほど刺したり殴ったりしていると、「グギャアア!!」と一際大きな悲鳴を上げてゴブリンは散った。
そこには小さな黒っぽい結晶と、ゴブリンが持っていた剣が残った。
こちらは両方とも収納箱で確保しておく。
「うむ。俺が足を止めて、皆が止めを刺す。初戦にしては良いコンビネーションだ」
と皆を褒めたたえようとするが、
「いや・・・どう見ても違う物だろう・・・コレ」
と新一からクレームを受けた。
まぁ気にせず次に行くことにしよう。
そしてその次からはゴブリンは意外と生命力が高い様子なので俺がいきなり、両腕両足を切り飛ばし地面に倒れて一切抵抗できなくなったゴブリンを3人が止めを刺すという単純な工程となった。
まぁ確かに技術は身に着かないだろうが、力が増す分より安全に狩りができるようになるというものだ。
技術が未熟で力も未熟なのと、技術だけが未熟なのとであればどちらが、より一層不利な状況なのかは言うまでもないことだろう。
最初は戸惑いながらもやる気を見せていた3人だが、単純な工程を延々と繰り返すことによって、
今となって6つの瞳からは生気が失われて感情が一切見えない。
――やりすぎたか?――
と思う部分もあるにはあるのだが、これも3人の為の愛情だ。
そう思って無理やり自分自身を納得させることにした。
結果的に見ればその日俺たちは1人当たり10匹、計30匹のゴブリンを討伐した。
まずまずの成果だろう。
ちなみに第一階層は現実との時間軸の差は無いに等しい。
これが階層が深くなってくると現実での1分の計測が、ダンジョンでは1分10秒の計測になったりとかそういう風になってくる。
なお加速倍率の計算は一部例外領域を除いて、
【攻略中エリア階層数×0.5倍】となっている。そのうえで減速という概念は無いらしい。
従って加速するエリアとしては速くて第3階層からとなる。
セーフティーのある天国門ダンジョンではダンジョン内に居られる時間についてだが・・・
原則として攻略者の受け入れを午前6時とし、午後8時には全員が強制排出される。
とはいえ第3階層としても一日の最大探索時間である14時間を費やしたところで、21時間に伸びているというだけの話だ。
これが噂されている100階層ともなれば14時間潜っていると、なんと約30日間のダンジョンダイブ時間に相当することになる。
そのためハイランカー達はダンジョンから戻ってくると人格などが変化していることがあるらしい。
30日間という過酷な環境は人の人格や性格を変えるには十分すぎる時間という事だろう。
もちろん一部の例外領域もあるにはあるのだが今の俺たちにはさほど関係ない話だ。
とはいえだ・・・
余裕を持った行動が必要とは思うで、今日のところはこれくらいにしといてやることにした。
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