第15話

その日、俺たちのダンジョン実習はその時点で終了することになった。

自分でやらかしておいて言うのも変な話だが、とてもじゃないがそのままダンジョン攻略をできるような雰囲気ではない。


しかし俺たちには話し合わなくてはいけないことがある。

その日俺たちは詩織と香澄の寮の部屋に泊まることになった。

できることならば4人で話し合いたい内容がある。

だが、男子寮は言うまでもなく危険だ。


ちなみにではあるが、昨日の時点で俺が上級生を下した一件はやはり寮内では衝撃の話題になったようだ。

とはいえ俺の予想通り自尊心の塊となった上級生たちは、『自分達が入学したての新入生に負けた』という事実を公言することもできずにいるため、あくまでも寮内限定に限った話になっている。

学校全体には話が行っていないようだ。


新一は学校全体の情報網を何らかの方法で入手する手段があるらしい。

尤もその噂が学校全体に広まっているのであれば、今日の朝の段階で既に俺たちのクラスにも噂が届いていたであろうことから、新一の情報網が無くとも噂が広がっている可能性は限りなく低いとみて良いと思われる。




「それじゃあ妹さんとお姉さんが?」

「ああ・・・交通事故にあってから意識が戻ってねえんだ」


「そんな事故があったのか?そんな規模の事故ならニュースにもなってそうなものだが?」

「撥ねた相手が所謂上級国民ってやつでな。真実は闇の中ってわけさ。

流石に無罪放免ってわけにいかねえから処罰もあったそうだが、それでも取り返しができる範囲での処罰だ・・・」


「それは・・・なんともやりきれない話だな・・」



いざとなれば裏の世界の人間として動く俺も、普段は表の世界に身を置くものとして生きているので、基本的には表の世界にいる人間の感情を理解できるようにと日頃から務めている。


「そんな時にこの学園の話を聞いたのさ・・・」

「誰から聞いたんだ?」


「クソ親父からだ・・・」

「そんなに悪く言って良いものなのか?」


「仕方ねえだろ・・・クソ親父は撥ねた相手と同じように上級国民ってやつさ。

浮気して妾となった俺の母親を孕ませまくって俺も含めて3人の子供を産ませたんだ。

それも自身の家系の利権を守るための保険としてな」

「・・・・・・・・」


「結果的にクソ親父の本来の家系での子供たちには何も起きなかった。

だから保険であるはずの俺たちはいらねえ存在・・・いや、むしろ真実につながる証拠として邪魔な存在になったのさ」

「それじゃあ新一は学園で姉妹を目覚めさせる手段を手に入れるのが目的なのか?」


「ああ、一応ダンジョン産のポーションに最初は目を付けてたんだが、この島から離れると急速に力を失うらしくてな。だが特殊な条件をクリアするとダンジョンで得たスキルとかをこの島の外でも使えるらしいんだ。そいつが居れば命を売り払ってでもどうにかしてやろうって思ってたんだがな・・・」

「なるほどな・・・」


「それでその条件っていうのはわかっているのか?」

「ああ、『ダンジョンで一度も死んでない』ってのが条件になる」


「え?でもそれじゃあ一度でも死んだ私たちは?」

そこで香澄が気になったのか質問し始める。

「当然その条件を満たさなくなったってわけだ・・・」


「ちなみに死んだことが無い人はどんなことになるの?」

「簡単に言えばダンジョンでしか発揮できないはずの摩訶不思議な力を、ダンジョンの影響範囲外の場所でも使えるようになるってのが1つ目。

2つ目は超人の領域に達するがゆえに普通では考えられないほどに長生きするし、バンバン子孫を生み出しやがる」


「長生きに関しては分からなくもないけど、子孫を生み出すってのはどういうこと?」

「簡単に言うとこのダンジョンの影響を受けてる間は妊娠しないが、一度でも死んだ人間は子供を作れなくなるんだ。加えてダンジョンで死んだ人間は長生きできない・・・」


その言葉を聞いた香澄と詩織は一気に顔が真っ青になっていた。


「そ・・・その、どれくらいの寿命になるの?」

「長い奴で30歳を超えられるかどうかだ。基本的に25になる前に寿命になる」


「そ、それじゃあ私たちは卒業したら3年間くらいしか生きられないってこと?」

「ああ、そうなるな・・・

唯一の例外が、この学園の関係者として雇ってもらった場合だな。

その場合はダンジョンの影響範囲にいるために、子供を作れないのは変わらないが、寿命に関しては今までと大差がなくなるようになるらしい」


「学園に残るためにはどうすればいいの?」

「方法は男子なら1つ、女子なら2つってところだ。

1つは男女共通で各100階層はあると言われているダンジョンで、70階層以上を攻略できるようになったハイランカーの仲間入りを果たすことだ」


「もう一つは?」

「これは女子生徒だけになるが、早い話が奴隷扱いされるダンジョン職業を手に入れることだ」


「それって・・・」

「所謂、奴隷のような職業を手に入れた女子生徒は例外なく学園関係者として就職するか打診が来る。この学園の女性教師と女性職員はみんなそれ関係のダンジョン職業に就いている連中さ」


「どっちにしても地獄だな。前者は達成困難。

後者に関しては達成が困難迄行かなくても難しく、在学中にその職業に就かないといけない上に、それに就けば奴隷まっしぐらのコースか・・・」

ここで俺がその結論を説明する。


「なんでそんなことに・・・」

「簡単に言うと魂が欠けた存在なんだよ、俺たちはな・・・鋼を除くがな」


「魂?」

「ああ、ダンジョンで死ぬと魂の大部分が失われるって話だ。失われた魂はダンジョンに吸収されちまって原則取り戻せないとされている。例外もあるらしいが、その法則はわかってねえ」


ここで俺はある憶測を説明した。

「人間・・・というか生物の本能は、基本的に生存本能と子孫を残すことになる。

恐らくだが、失う魂はそこが関連しているのだろう。

生存本能を失うから長生きできない。子孫を残せないから妊娠できない。そういうことなんだろうな・・・」

「・・・・・・・・」


「じゃあこの学園の生徒は皆早死にするってこと?」

「いや、長組の生徒各学年2クラスだけが例外だ。連中は上級国民だからな。

ダンジョンに入る際もハイランカーの卒業生たちが護衛についてるから、安全にダンジョン攻略ができる。そのうえでこのダンジョンでの特殊な力も手に入れるってわけさ」


「じゃあ最初の実習は・・・まさか?」

「もう分かるだろうが、あれは切り捨てる一般生徒たちの魂を抜き取って、長組との決定的な違いを作り上げるための工程さ・・」


「・・・・・・・・・・・・」

「まあ生き残ったって言うなら、俺たちの目の前にある意味長組の生徒と同じやつが一人いることにはなるんだが・・」




俺だけが無事な状況。

本来であれば嬉しい知らせだが、絶望の方が大きい。

どうしようもなくその場はとても暗い雰囲気に包まれてしまった。


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