第14話
「まさか?初のダンジョンダイブを生き残ったっていうのか!?てめぇは!?」
「ああ、相手の心臓を食らうユニークモンスターが出てきてな・・・詩織もお前も香澄も、3人全員心臓を食われてたっけか?」
「んで、てめえはそいつから逃げ延びたっていうのかよ?」
「いや?逃げたんじゃなくて逆に殺してやったが?」
「ありえねえ!!ゴブリンに勝ったっていうなら、まだ信じられる。でも殺し方を聞く限りどう見ても1階層に出て良いレベルのモンスターじゃねえ!ユニークらしく別の階層から出てきたモンスターだぞ、そいつは!?」
「そうか?そんなに対して苦戦しなかったがな?」
苦戦はしてない。これは事実だ。
尤も油断しきっていたところを襲撃されて詩織を殺された怒りは未だに捨てきれていないが・・・
「そ、それじゃあ、テメェは俺らよりも・・・」
「ああ、新一のパンチ、確かに効いたがそれだけだ。当たり所がお前にとって良かったんだろうな?」
陰陽師の出自であるという点を除いてみたとしても、ダンジョンで敵を倒し生き残ることができた俺は、自身の強化ができており、確実に新一よりも強い存在と言える。
同学年でありながら一段なのか二段なのかは知らないが、確実に新一よりも上の存在であることに気づいた新一は確実に怯えが見え始めていた。
そろそろだな・・・仕上げに入るとしようか・・・
「俺は、お前が自分の見ている現実の為に全てを捨てきれる男だとは思ってない。
もしお前がそうならば今すぐ剣を抜いて戦え。
それともただ夢物語だけを見る軟弱物か?」
そう言われて咄嗟に剣の柄に手を掛ける新一。
しかし新一の体は完全に怯え始めており抜けなくなっていた。
「そうか・・・それがお前の答えか・・残念だ・・・・」
そう言って近づこうとしたときに
「待ってよ!詩織のことも悪かったと思ってる!今更やり直したいなんて言うのも虫のいい話だってのも理解してる!だけどもう一度だけチャンスを頂戴!!!」
その香澄の言葉に一度、わざと足を止めた俺は・・・
少しの間をあけて剣を少し持ち上げながら近づいていく。
「教室で俺と新一との会話を聞いた香澄は、詩織に対して同情する顔を一瞬向けていたな?
なら真実を知っていた香澄も新一と同罪ってわけだ・・・」
そういいながら香澄の前に立ち剣を振り上げる。
そして身体能力強化と視力強化と動体視力強化、最後に聴覚強化を使用して・・・
「クソッ・・・カスミーーーー!!!」
咄嗟に香澄を庇おうと必死に走る新一を・・・
いや、新一の後ろから虎視眈々と機会を狙っていた深緑の汚いモンスターを上から一刀両断する。
3体いるうちの中央を切り倒した俺はそのまま自身の体を右へと一回転させながら、その回転力を生かした状態で体一つ分後方にいた残り2体のゴブリンの上半身と下半身を2つに分ける。
そして聴覚強化をしている俺には既に分かっていた。
他のゴブリンたちを囮にして詩織の後ろにも近づいているゴブリンがいるのを。
身体強化と高速で移動する歩法を併用し、俺は瞬時に詩織に切りかかろうとしていたゴブリンの武器を真正面から、左から右へと振りぬいた一度で弾き飛ばす。
勢いに押されたゴブリンはもたつき始めるが、体勢を立て直す暇なんぞくれてやるつもりはない。
右へと抜けた剣をそのまま左へと勢いよく振り返して、上半身と下半身が分かれたゴブリンの死体をもう一つ作り上げる。
接近されていたはずの詩織は、てっきり俺が二人を切り殺そうとすると考えていたらしく、逆に今起こったことに対して訳が分からないというような顔でポカンとしている。
―――そしてその表情も中々に可愛げがある―――
そんなくだらないこと思いながら意識を外に向ける。
どうにも他のゴブリン集団も近づいてきているようだ。
「詩織!武器を構えろ!そこの二人は恐らく使い物にならない!
俺が迎撃するが、万一取りこぼしたら時間稼ぎで抵抗するんだ!」
俺は詩織の反応を待たずに駆け出す。
通路の向こう側から既に10匹にも及ぶゴブリンが走ってきている。
表エリアならばここまでは湧かないだろうに。
裏エリアとして人の手が入ってないがゆえにここまでの数が沸くのだろうか?
と今考えるべきことでは無いと思い、すぐにその考えを一時的に棄てた。
結論を言えばゴブリンとの戦闘はただの作業だった。
奴らは思い思いに武器を振り上げて下ろしてくるだけのただの動物と変わらなかった。
確かに一般人にこの数を相手にするのはキツイと思われるが
陰陽師として常人を超えた身体能力を持った俺には対して苦労もしない相手であった。
そうして10匹近くいたゴブリンは全て俺に倒された。
俺は歩いて詩織たちの場所に戻った。
ゴブリンたちとの戦闘を見ていた3人は改めて俺の強さを理解し、
そして俺との立っている位置の違いに愕然とした様子であった。
その場にはなんともいえない静寂が訪れる。
「新一、お前が自分自身で汚い人間の仮面を被ろうと、結局お前はそういう人間だ。
自分が大切だと思った存在を心の底から切り捨てることができない、優しい人間なんだよ。
だからこそ俺はお前たちが詩織を生贄にしたときに怒りを感じつつも、
それでもお前たちの真意を引き出して、昨日初めてパーティーを組んだ時のような関係に戻すためにこんな似合わない真似をしたんだよ。悪かったな。」
「・・・・・・・・んだよ、そりゃ。それじゃあ俺は独り相撲じゃねえか。だっせぇな・・・」
無言に包まれるダンジョン。
裏ダンジョンなだけあって付近に生徒たちはいないのだろう。
それに加えてモンスターも一度倒した。
故に近くにモンスターがいないことは聴覚強化で確認済みだ。
「それで?どうする?」
「何がだ・・・?」
「仮にダサかろうと、お前が望むなら俺はお前を友として支えようと思っている。
ダサくても地面に転がりながら立ち上がって現実に立ち向かうか、
それとも全てを達観して諦めて夢の世界に逃げ込むか・・・どちらかを選べ」
「ダチと言ってくれた奴を裏切り、俺に着いてきてくれた女を裏切り、一緒に組むことになった仲間の女を裏切った俺を、お前は救い上げるってのか?」
「悪いか?一度切り捨てたはずの女を救い上げようとしたお前に文句を言われる筋合いはないと思ってるんだが?」
「ハハハ・・・・そりゃ、確かにそうだ・・」
「はぁ~・・・わかったよ。直ぐに全部を割り切ることなんて俺にはできねぇ。
だけど少しずつ現実を受け入れて、でもあきらめずに立ち向かうようにするさ・・・」
「そうか・・・なら、改めて自己紹介だ。上月鋼だ。よろしくな新一」
そう言って俺は剣を仕舞い、新一に右手を差し出す。
ポカンとした表情の後に、一瞬泣きそうな顔をして、でも直ぐに何かに挑むような決意の顔をした新一は、俺の手を握り返してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます