第13話

「よー鋼!昨日は楽しめたか?」


学校に着いて席に着いていると投稿してきた新一が声をかけてくる。

ダンジョンに入るなり割とすぐに香澄に手を出したお前なら、この学園のことにはある程度の領域で精通しているであろうに。

詩織を生贄にしたことなど微塵も感じさせないかのように、軽い挨拶を飛ばしてくる。


「ああ、まぁそれなりには楽しめたよ」


確かに楽しめたさ・・・

久々の人間を相手にした荒事だ


努めて冷静に優しい笑みを浮かべて言ったつもりだ。

実際、天狗になっている先輩男子生徒の鼻っ柱をへし折ってやる行動は、少し爽快感もあったしな。


―――次はお前の鼻っ柱を折ることになるかもな―――


そんなことを考えながら返事を返した。

そしてその返答を聞いた香澄は、詩織に対して一瞬ではあるが気の毒そうな視線を向けていた。

やはり、そういう事なのだろう。


りおねぇが警告を飛ばしてきていたということは、女子生徒はなんだかんだ言いつつも、女性教師から警告を受けているのだろう。

この学園の女性教師や女性職員は皆、特殊なダンジョン職業を持った元卒業生で構成されている。

その職業故に彼女らは学園の関係施設以外に就職する未来を閉ざされている。


ということは香澄も分かっていて詩織を見捨てたという事だ。

新一だけでなく香澄に対しての評価も少し下がった瞬間だ。



水曜日である今日までは午前中は座学を行い、午後はダンジョン実習だ。

今日も例によって俺たちはダンジョンへと潜る。

パーティーリーダーを決めるときは俺がやらせてもらった。


前回ダンジョンに潜った時に俺たちは天国門側とはいえ、表ダンジョンと裏ダンジョンの2種類のエリアの中で、地獄門ほどの危険はないとは言えども、全体的に妖気が強くモンスターの強さも段違いに上がっている裏ダンジョンに入ってしまっていた。

基本的にダンジョン攻略は天国門にしても地獄門にしても表ダンジョンを利用するのが通例だ。

地獄門には一切の保険が掛けられていないとは言えども、それでもダンジョン内の構造が簡単に変わったりしないという点では、ある意味安定したエリアとも言える。


しかし裏ダンジョンは構造が変わったりと色々と危険な要素を孕んでいる。

とはいえ、これから俺が新一に対してやろうとしていることを考えれば、できる限り人目につかない方が良い。



新一も香澄も詩織も、自分たちが通常の攻略ルート外である裏ダンジョンに入っているとは思っていないようだ。

新一と香澄はダンジョンに入るなり、昨日と同じく30分くらいで盛りモードに入った。

詩織も視線で問いかけてくるが、俺は小さく首を振る。


「おい、鋼。今日は詩織に手を出さねえのか?いらねえなら俺がもらっちまうぞ?」

「誰がそんなことを言った?お前は女子寮で安全に事に及んでたんだろ?

そんなヘタレだからが安全に事に及ぶことができるように俺が見張っておいてやろうって言ってるんだが?」


「あ?何調子に乗ってやがる?この学園の女は基本的に男子の所有物扱いだ。

それとも夢物語でも見てるのか?」

「どうだろうな・・・俺はこれでも人を見る目はある程度養っているつもりだ。

夢物語を見たがっているのは新一のほうなんじゃないのか?」


「知ったような口をきいてんじゃねえぞ・・・・?」

「詳しい事情に関しては知らないし、知るつもりもない。加えて興味も湧かんな」


「てめぇ・・・」

「けどお前はそれでいいのか?そこで諦めて?」


「現実を知らねえガキが偉そうなことを口にするんじゃねえよ」

「現実を理解してないやつに言われてもな・・・?」


「なんだと?」

「実際そうだろう?お前は現実を知ってるのかもしれないが、あくまでも見聞きしただけの話だ。

お前が何に悩んで苦しんでいるのかは俺にはわからないが、お前の事情は俺や香澄、詩織にはどうしようもない。お前があきらめた瞬間にお前が描いた夢物語は、本当に夢で終わることになる」


「なにも知らねえ奴が言うんじゃねえ!!!もうどうしようもねぇんだよ!!!」

「どうにかなるならないは俺が今言える事じゃないが、もう一度答えを言っておこうか。

お前が『どうにもならない』と思った瞬間に、『どうにもならなくなる』んだよ。

逆を言えばお前が『まだどうにかなるかもしれない』と思っているうちは僅かであろうと可能性は残ってるのさ」


「言わせておけばこの野郎!!!」


売り言葉に買い言葉で頭に血が上った新一は殴りかかってきた。

そして俺はそれを躱せなかった・・・

身体能力だけで言えば新一の攻撃など一般人に毛が生えた程度で躱せる。

だが、ここで俺が躱せば恐らく俺たちはもう元には戻れない。

そして新一も闇へと飲み込まれることになるだろう。


――ドゴッ――


新一の渾身のパンチが顔に当たる。

「痛いじぇねぇか!?この野郎!?」

実際痛いのだから嘘は言っていない。

本音の言葉と共に、俺は新一を殴り返す。


「なんだよ?何にそんな怒ってやがる?女を多くの男に手を出された事が腹立ってやがるのか?」

「さてな?どうだろうか?そういうお前も何をそんなに怒ってるんだ?

まさか自分の知らないうちに、俺が香澄に手を出したことを怒ってるのか?

昨日の夜にダンジョンで遊んだ時とは違って、本気で愛した女が既に別の男の手つき状態だったことに腹を立ててるのか?」


「なんだと?」

信じられないような目で新一は俺と香澄を交互に見ている。

「ま、待って新一!私、そんなの知らない!」


「ああ、新一はもちろん、香澄も知らないのは無理もないさ。

初めてダンジョンに潜った時に1番最初に詩織が殺されて、2番目に新一が殺されたからな。

3番目に殺された香澄と2番目のお前との間に時間があってその間に俺の手が触れていたなんてことは、死んで記憶をダンジョンでの記憶を失ったお前には知る由もないことだろうさ」」


俺は真実と嘘を練り混ぜて言った。

嘘というのは100%嘘にするとすぐにバレる。

だからベースは真実にしつつ、隠したいところを含めて一部に嘘を練り混ぜることによって真実味を持たせる。



その言葉に新一も含めて3人とも驚いて絶句してた。


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