第12話

夜が明けて日差しが差し込み始める。

正直言えば寝ずの番に近いことをやっていたため眠いと言えば眠いが、陰陽師としての術を使えば1日くらいはどうとでもなる。

俺たち陰陽師が戦う相手は必ずしも丸一日かければどうにかできる相手とは限らない。

場合によっては3~4日くらいぶっ続けで戦闘を行うこともある。


相手が神の領域に近づけば最悪の場合、交代ありとはいえど1か月近く戦闘を行うこともある。

言ってしまえば陰陽師と妖魔との戦とは一種の戦争なのだ。

それだけに疲労回復を促進させる術式などもあり、比較的容易に回復しやすい。

とはいえ起きながらそれを使ったところで回復という領域は得られないが・・・

それでも、それ以上の疲労を得てしまうことが無いくらいの回復力向上につながる。

簡単に言えば回復力がプラスで、疲労がマイナスならば、日常生活レベルならば打ち消しあうことが可能だ。


勿論戦闘中となれば疲労度の方が上回るためいつかは限界が来る。

しかし俺たち陰陽師には回復力を高める術式や、一時的に肉体の持久力を高める術式がある。

尤も後者を使えばその分の反動を大きくなり、術式の展開終了時には失神するレベルでの疲労が襲い掛かることになるが、それは今は余談だ。



どちらにせよ、一夜の間詩織のガードを務め夜が明け始めたころに詩織は目を覚ました。

本来であれば致しあった結果どうなってしまうのかとか気にするところなのだが、ダンジョン付近となるこの学園の島は特殊な力が働いており、原則としてその心配をすることは無い。


「鋼さんって意外と紳士なんですね・・・」

若干非難が籠った目で言ってくる。


「そんなものだろうか?」

「ええ、でもちょっと残念ですけどね?」


「なぜ?」

「私に価値が無いのは私自身が知ってますから。でも手を出してくれるなら私の体自体に価値はあるということでしょう?」


「それは・・・」

「フフ・・・冗談です。でも関係ないと言われてちょっと傷ついたのも事実なので、少し仕返しをしようかと・・・」


「・・・・勘弁してくれ・・」

「実のところ・・・

私は一切汚れの無い女では無いです。

母親の再婚相手とその息子は私を娘や妹としては見ませんでした。

2人は私を女としてしか見なかったんです。その2人から性的な虐待を受けるのが私の日常でした」


それは悲惨な日常だろうな・・・

俺たちのように特殊な環境下に初めからいたのであれば、心理的には拒否感はあっても、

理解の話としては『仕方がないことなんだ』と諦めることもできる。


しかし一般的・・・といって良いのかは分からないが、少なくとも詩織は普通の世界で生きてきたはずだ。

そんな女の子にとって男から暴力を受ける日常が普通となれば心は壊れていく。


「鋼さんも、私の胸とか色々見ていましたよね?」

「あ、いや・・・・それは・・・」


「いいんですよ、別に。それに関してはどうしようもないことだって理解してますから」

「・・・・」


「本当ですよ?

自分でも思いますから。同年代では大きいって。中学時代でも男子たちの気持ち悪い視線が胸のあたりに集中してるのはわかってましたから」

「よくわかったな?」


「女子っていうのは男子に限らず人の視線に敏感なんですよ?」

「そ・・・そうか・・それは済まなかった」


――だから別にいいですって・・・――と笑いながら許しくれる。


「中学に入りたての頃は割と控えめの体だったんですよ?

それが養父や義兄に毎日のように悪戯された結果こんなはしたない体になったんです。

2人からが私に向ける感情はあくまでも性欲そのもの。

でも鋼さんからは不思議と欲望の視線を向けられてる気があまりしなかった。

それどころか愛情を向けられているような感じがしたんです」

「・・・・・・・・」


「だからこの学園に入っても何も変わらない日常なんだな・・・って思ってたんですけど、

鋼さんと出会えて幸せだと私は思っていますから、そんなに気に病まないでくださいね?」

「わかった・・・なるべく努力する・・」


正直いえば完全に気にしないのは無理だ。

過酷な環境で育ってきたのであれば、俺はそれを加味したうえでの行動を心掛けるべきだった。

しかし結果的にいい方向に働いただけで、逆の方向へと働いてしまう可能性も十分にあったのだから。


俺に寄りかかっていた詩織はふと周りを見渡して・・・


「え?えええ!?」


あー・・・そうなるかー・・・


「そんなにビックリすることか?昨日の夜も見てただろう?」

「それはそうですけど、こんなに大人数だとは思ってなくて・・・」


「それだけ詩織を獲物として見る目が多くいたという事だ。今回は連れ込んだ俺が悪いが、今後は気を付けることだ。いいな?」

少し恐怖心をあおるような警告だが俺は詩織に対して好感を抱いていた。

故に思ってしまったのだ。


『詩織を他の男に奪われたくない!』


すでに『りおねぇ』だけでなく『詩織』もその対象に入っている俺は、昔はあんなに嫌っていたハーレムの主というものを受け入れ始めていた。

そして現段階では2人を奪われたくない気持ちでいっぱいになっていた。



そうして俺たちは男子生徒の1人が意識を取り戻すまで待ち続けて、意識を取り戻したところで後始末をそいつに全て押し付け、本格的な騒ぎになる前に寮を出て、学校へと向かった。


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