第11話

外から足音が近づいてくるが、一体いつまで時間がかかるのだろうか。

どうせ新入生の顔と部屋番号なんて個人情報として扱われず、俺の部屋の場所も分かってるだろうに・・・

と思っているとようやく部屋の前に辿り着いたらしく。


ガチャッ


とノックも無しに無遠慮に扉が開け放たれる。


「ん?何してんだお前?手を出さねえのか?」

「おやおや、潔癖君の入学ですか・・・」

「でもお手付きじゃないってことだろう?」

「これは期待できそうだね~?」


やはり詩織を獲物としてしか見ていない下衆なケダモノたちの襲来だったか・・・

ここからが今日の本番だな・・・


「先輩方、何か御用ですか?」

「おいおい、男子寮に女連れ込むってのはその男子寮に住む連中が全員手を出していいってことなんだぜ?」


「そうですか。それは初耳です」

「わかったなら、早くそこを退きな。俺たちだけじゃなく後が詰まってるんだよ」


「なるほど。ですが残念ながら先輩たちはお呼びではないのでお引き取りお願いします」

「あ?何調子に乗っちゃってんの?ダンジョン1回経験しただけの新入生君と、

1年間とはいえテメェを強化した俺たちとじゃ雲泥の差があるんだよ?

痛い思いしたくなかったら早くどけや」


と一気に感情を爆発させて大股に近づいてくる。




どうしてやろうかと考えて、結局俺は力技でねじ伏せることにした。

しかし同時に手加減も忘れない。

といっても鳩尾に即失神レベルの強烈な一撃を与える。


完全に躱すと怪しまれるので一応少しだけ掠らせておく。

だが逆にそれで相手の体をつかみ取り、その隙に鳩尾に一撃。


反攻され挙句負けると思っていなかったのだろうか・・・

襲い掛かってきた男子たちはそれだけで倒せた。


確かにダンジョンに出てきてたゴブリンよりは強かったが、ヤマンバよりは弱い。

この男子たちのレベルはそういう物だった。


本当なら陰陽収納に入れてどこかにポイすることもできるのだが、それをやるとマズイ。

何がまずいって言うと、いろいろと触れられると困る物があったり、陰陽師の血統を持たない物が触れることでこの男子たちが死ぬ危険のある代物もある。


そんなことを考えながらちぎっては投げ、時には殴りを繰り返していると、


「てめぇ!長組の生徒なのか!?」


と焦ったようにして叫んでくる生徒がいた。

面倒くさいな・・・と思いながらも、俺は襲い掛かられること自体を面倒くさがり、もはや新しく部屋に入ってきた男子たちを問答無用で意識を飛ばしてやった。


部屋の至る所に気絶&悶絶した男子たちが転がっている。

どこの世界の荒れ果てた教室だよ・・・ここは?


それにしてもやはり欲望の塊となった男子たちは厄介だな。

俺だからこそ詩織を守れるのであって、普通なら無理だろう。

その詩織を明確に裏切った罪は重いぞ?ルームメイトよ。



そんな光景を見ていた詩織はただ茫然としていた。

自分を目当てに部屋に侵入し、俺に襲い掛かってくることに茫然としているのか。

それともそんな先輩たちを根こそぎダウンさせている俺に対して茫然としているのかは分からないが、

確かに茫然としていた。


「えーと・・・・?これって・・・・?」

「見ればわかるだろう?全員詩織目的で襲い掛かってきた野獣どもだ」


「あ、いえ、それは見ればわかります。私が言いたいのはそうじゃなくて・・」

「俺の戦闘技術に関してか?」


無言で何度も頷いている。


「悪いがこれについても詳しくは話せない。あくまでも俺はそういう荒事が得意ってことだけしか今の段階では話せないな」

「・・そうですか・・・・」


「なんかマイナスに事を考えてないか?」

「え?別の意味があるんですか?」


「詩織も知ってるだろうが、この先輩たちは曲がりなりにもダンジョンで1年以上は俺たちよりも自身を強化してきた連中だ。

例え武術という物に長けていなかったとしても力技で一般人を下すことなんて大したことじゃない。

詩織も来年には下級生の女子生徒くらいは平気で下せるようになるだろうさ」


「そんなものなんですか?」

「そういうものなのさ。それでだ。

そんな連中を今日初めてダンジョンに潜ってロクに強化できていないやつが下したんだぞ?

ってことは俺には何か特殊な事情があるってことだ」


「!?」

「その特殊な事情が、表の世界である前の住まいとかで、より一般的な事情だと思うか?」


「それは・・・」

「普通に考えてわかるだろう?それが一般的では無いという事に。

その一般的では無い事情を知るということは、詩織は俺の関係者として見られることになる。

今ならあくまでも


そこまでの説明をした瞬間に詩織の表情には、俺に対する恐れと、そして無関係な人間という一言を説明されたことによる悲しみが見て取れた。

しかし心を鬼にしなくてはいけない。


ここで彼女を甘やかすと、のちにそのツケを支払うことになるのは彼女自身だ。




あれからも男子生徒たちは無遠慮に室内に侵入を繰り返してきた。

現在となっては部屋の至る所には10人近くの野郎共が横たわっている。

一応野獣どもの襲来は終わったと見て良いだろうが、いざとなれば追加が来たときに迎撃できるように椅子に座りなおしている。

ちなみに失神してる連中は予め調達しておいた縄で縛りつつ、目隠しをしている。

明日の朝にでも一人だけ解放して、そいつに他の連中の解放作業をさせようと思う。


ダンジョンの初体験と寮でのいざこざ・・・

そのショックが大きかったのが、詩織の疲労は限界に達していた。

そして俺のベッドで静かに寝息を立てて休み始めた。



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