第9話

話が一度逸れてしまったが、再び商売の話に戻る。


「さて・・・これに見合うだけの報酬を渡さねばならないね。

ん~・・・アイテムボックスとシステムコンソールはどうかね?」

「なんだそれは?」


「アイテムボックスは言うまでもないが、ありとあらゆるものを収納できる。

生物も一応は収納できるぞ?それに容量も無限だ」

「無限か・・それならありがたいが、一応とはどいうことだ?」


「妖魔の類であれば生きたままでも収納できるけど、人間を収納するのは現段階ではお勧めできないね」

「なぜだ?」


「答えは簡単で人間が長時間生存していられる環境では無いからさ、現段階ではね?」

「ということは、いずれは生存可能にもなるという事だな?」


「そうだね」

「それで?もう一つのシステムコンソールは一体なんだ?」


「簡単に言えば君たち学園生は経験値を稼いでステータスを強化する。そのステータスを覗いたり、一部の情報であればその先の選択肢を選ぶことができるようになる」

「選択肢を選んで何の得がある?」


「君のような陰陽師のように生まれ自体が特殊な存在にとってみれば、あまり関係は無いかもしれないがね。

この学園の生徒たちは、最初はただの人間だ。それがダンジョンに潜ることによっていずれは職業を手にする。

その職業だが、選定を受けて得られるものであり、本人の性格や行動に起因して与えられるんだ。」

「つまり、その選定は任意で選べるものではない。ということか?」


「その通り。君は陰陽師の力を自由に扱えるから困らないだろうが、君の仲間になりうる者たちはそうはいかない。

その時にロクでもない職業が与えられれば彼らの未来は閉ざされることになるよ?」

「・・・・・」


この学園は正直言って一般常識に照らし合わせれば腐っている。

聞いている限りで職業は必ずしも戦闘職や戦闘支援職だけとは言えないのだ。

奴隷としか思えないような職業の類もある。


「なるほどな。それならそれももらおうか」

「価値が直ぐにわかる頭のいい子は好きだよ?ちなみに操作できるのはあくまでも自分に対して友好的な人間だけだ。モンスターの類まで操作できるわけでは無いからそこは注意してね?」


「お前に好まれても俺は嬉しくないがな。しかし俺もここで一人でやっていけるとは思っていない。

協力者もいずれは作らなければならないだろう」

厳密に言えば既にりおねぇが協力者なのだが、そこまでの情報をこの神獣に与えてもいいとは思えなかった俺は、その情報をボカすことにした。


「あと、黒い結晶も買い取ろう。買い取りはルビーでいいね?」

「それは良いが、ルビーを持っているのか?」


「私のような冒険心の強い神獣が何の後ろ盾もなくダンジョンに住めると思っているのかい?」


なるほどな・・・学園、あるいはそれに通じる権力者とのコネクションがあるというわけか。


「わかった。ならそれも頼む。

購買で買い取りがしてもらえるのは知っていたが、初日から生き残って結晶を売り払えば目立つからな。

今日のところは、稼ぎは諦めるつもりだったから助かる」


「そうだね・・・これだけの量と、質のいいヤマンバの結晶だ。50万ルビーでどうかな?」

「ずいぶん高いな?レートは円と変わらないと聞いているが?」


「それだけヤマンバの結晶は純度が良いというわけだよ」

「なるほどな。とにかくこちらも今回は良い取引ができた。一応礼を言っておこう」


そういって俺は歩き出そうとした。


「ああ、最後に一応警告しておこうか」

「警告?」


「君たちが入ったエリアは陰の部分だから気を付けたまえ」

「どういうことだ?」


「この世界そのものに陰と陽の側面があるように、ダンジョン内にも陰と陽のエリアがある。

そして天国門ダンジョンの陰は、地獄門ダンジョンの陽とのつながりがある」

「なんだと?」


「例えば君が倒したヤマンバだけどあれはレジェンダリーモンスターだよ?」

「レジェンダリー?ユニークでは無いのか?」


「ユニークはあくまでも天国門ダンジョン内や地獄門ダンジョン内のそれぞれのエリアであれば階層の限定が無いというだけの話。

レジェンダリーは天国門ダンジョンの陰の階層の境界線と、地獄門ダンジョンの陽の階層の境界線と、天国門ダンジョン陰エリアと地獄門ダンジョン陽との境界線が無いだけだよ」

「『だけ』って・・・それだけでも十分脅威に思えるのだが?」


「だけどね、その上にエキゾチックがいて、これは全ての境界線が無い。

平たく言えば本来地獄門ダンジョンの陰エリアにエキゾチックランクのモンスターがいたとするならば、そのモンスターは天国門ダンジョンの陽エリアにも入れるからね?」

「それは・・・アリなのか?」


「アリナシの話をしても仕方ないと思うよ?実際に入れる奴は入れるわけだし。そんなことを考えても意味無いと思うよ?」

「それもそうだな・・・」


「なんにしても警告も感謝する。一応頭に留めておくとしよう」

「ちなみにだけど、エキゾチックに天国門で殺された場合、天国門のシステム保護が正常に発動するかは分からないから注意してね?」


「・・・・・分かった」




そう言って今度こそ俺は歩き出す。

そして歩くこと30分ほどして再度あの浮遊感に加えて、何かが魂に上書きされる感覚に襲われたのだった。


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