第8話

俺は左手の平を地面とは垂直になるように右へと向けて、陰陽異空間との接続を始める。

そして長刀を取り出した。


雷切―金政―


俺の家、上月一族が過去に相対した雷を司る大妖怪を封じこめてその力を行使している妖刀だ。

真実かどうかは定かではないが、同じ雷系統の妖怪の攻撃であるいかずちを切ることもできるとの逸話がある。

攻撃と防御代わりの牽制を幅広く行えるこの妖刀は使い勝手がいい。


俺が何もないところから武器を・・・それも力を持った武器を取り出したことによってヤマンバの対応が一気に変わった。

俺から一気に距離を取ったのである。

対して俺の行動は身体強化術式をかけてヤマンバとの距離を一気に詰める・・・ように見せかけた。

実際の目的は新一と香澄から落ちた結晶の保護だ。


これが無いと二人の人としての未来は一気に短くなってしまう。

この学園の中に限ったこととはいえども、友人となった者達の未来を捨て去ることは今の俺は未だしたくないし、

それが家の任務にかかわるとも思えない。

ならば拾い上げても問題ないだろうと思った。


肩透かしを食らったヤマンバは激昂し、今度は逆に襲い掛かってくる・・・が、


―――遅い―――


というよりも、今の俺が新入生の中では段違いに速いだけなのだろうが、身体強化術式と共に特殊な歩法で瞬間移動をした俺はそのままヤマンバの右腕を切り飛ばす。


激高していたはずのヤマンバはここにきて俺との実力差を感じ取ったのか一気に逃げ出そうと、俺に背後を見せながら駆け始めるがそれでも俺の方が早い。


俺は同じやり方でヤマンバに追いつき片手で頭上高くから一気に剣を振り下ろしてヤマンバを一刀両断した。


ヤマンバを倒した場所にはヤマンバの服と、歯と爪と思われる物と結晶が残った。

服と爪に関しては陰陽異空間に収納した。

歯に関してはそのまま収納すると何か腐りそうな感じがしそうだったため、ウエストポーチに入れた。

というか正直言うと呪いがかかっているのを感知していた。


とはいえ俺にとってみればこの程度の呪いに対抗する手段などいくらでもあるのだが・・・


結晶に関しては詩織・新一・香澄が落とした結晶とは色が違っていた。

あちらは白く輝く色だったのに対して、こちらは黒っぽい色の結晶だった。


1人になったが俺はそのまま歩みを進めた。

その後はダンジョンの1階層よろしくゴブリンと思われるものが襲い掛かってきたが・・・

ヤマンバに比べて数段どころか、数十段も劣った存在であるゴブリンを倒すのは難しいことでは無かった。


そうしてしばらく歩いていると懐かしい雰囲気を感じ取った。

「これは・・・神獣の気配か・・・?」

本家の実家にいたころに何度か神獣の来客があった。

彼らは基本的に自由な存在ではあったが、エネルギーとしても、その力にしても利用用途は高い。

それゆえあくどいことを考える連中から狙われる傾向があり、上月一族は一部の神獣と契約を行い、その恩恵を受ける代わりに彼らを守る契約を果たしていた。


感じ取った気配の元へ到着すると確かに神獣がいた。

しかしここまで接近するよよくわかる。

俺が小さいころから慣れ親しんだ神獣とは少し違うようだ・・・


「おや?こんなところに来客とは珍しいね」

能天気そうな声で反応している神獣?がいた。


思わず気になって問いかけることにした。

「お前、本当に神獣か?」

「おや、私のことを知っているという事は陰陽師の者かね?」


「ああ、上月一族の本家に連なる陰陽師、上月鋼だ」

「あー、あの一族か・・・」


「しっているのか?」

「勿論。臆病な同胞どもが彼らと契約していたからね。それは自由だけどそのせいで、私の自由が奪われることは我慢ならないね」


「それでお前はこんな辺鄙なところに一人でいるってわけか」

「そういうことだね。ここなら珍しいものも見つかるし、天国とも言えるね。天国門の中だけにね?」


「学園のシステムについても熟知してるってことか・・・」

俺の答えに満足そうにうなずく神獣。


「さて、それでは商売の話をしようか」

「商売?」


「先にも言ったが私はここで珍しいものを探すのが趣味でね。何か持ってないかな?」

「そんなこと言われてもな・・・殆どゴブリンを倒しただけだから黒っぽい結晶しかもってな・・・」


そういえばアレの歯はあったな・・・


「何かあるんだね?」


俺はウエストポーチからヤマンバの呪われた歯を取り出した。

「これなんかどうだ?」

「これは!?ヤマンバの歯か!?」


「そんな驚くようなものなのか?」

「ゴブリンをはじめとしたよくある異世界もののモンスターは別にいいのさ。しかし太古の昔から伝承になぞらえたモンスターはとても強い。中には神の能力を一部有した存在すらいる。」


「その力が欲しいのか?」

「まあ欲しいと言えば欲しいかな。とはいえそれで積極的に何かをしようというわけでは無いから安心したまえ。我々神獣は利用価値が高い。自分の身を守る防衛手段として使うってだけの話さ」


「ならいいが・・・もしこの世界の陽の部分はもちろんだが、影の部分にも悪影響を与えるならば・・・」

「わかっているとも。君たちに命を狙われるのは我々としても避けたいからね」


「『我々』・・・ね・・・。まぁそれならいいさ」

「おっと失言だったか・・」


と言いながらも笑っている。

まぁ恐らく俺に対する牽制の意味合いも含んでわざと言ったのだろう。


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