第7話

「それよりも・・・」と新一が香澄に近づく。

「どうしたの~?」


新一はおもむろに香澄を引き寄せると、いきなり俺の目の前で盛り出した。


「え!?、そんな、いきなり!?」

「そう怯える必要もないだろ?お前さんだってこの学園がどう言う場所かはわかってるだろ?」


「それはそうだけど、心の準備ってものが・・・!」

「どうせ先に潜った連中も今頃は致してる頃合いさ。遅いか早いかだけの違いだろ」


そう言いながら新一は香澄との行為を加速させていく。


何とも言えない表情で俺は詩織と顔を見合わせる。

まぁお互いにこれから何をするのか理解しているのだろう。


「お前さんたちはやらないのか?詩織に手を出さねえなら後で俺が頂いちまうがいいのか?」

新一が聞いてくる。


内心は気が引けている。

特殊な家の事情もあるが、それでも一般常識を持ち合わせた身として、出会って1時間もしてない女子生徒とそういう行為をすることに対しての忌避感が存在する。

しかし、ここがそういうことに対して寛容すぎる学園だという事は初めから理解している。

そのうえでそれを拒めば怪しまれることになるだろう。


それにこの年代の普通の男子ならば、異性に興味を持ち始めても無理はないし、

それこそそういう機会があれば積極的に手を出してもおかしくはない。

その状況になりながら手を出さない方が怪しまれることになるだろうしな。


内心で気が引ける状況でありながら、一種の諦めとともに詩織に近づく。

「あ、あの・・・その、できる限りでいいので優しくしてくれますか?」

「ああ、なるべく努力するよ」


俺はそう言い、詩織の装備を外した。

外見でもわかってはいたがとても魅力的なプロポーションをしている。

詩織自身がそういう気持ちになっている様子もあり、俺はそのまま我慢できずに、さっきまで少し引いた目で致し始めた新一と香澄のことを言えないかたちで詩織とことに至ってしまった。


事が終わると俺も詩織も息があがっていた。

ふと気になり新一たちに目を見やると、既に新一と香澄は終わらせているようだ。

とはいえ、新一と香澄も息絶え絶えとなっている。



その時の俺は油断していた。

何をどう言おうが経験などなく知識の上でしかなかった故に、完全に気が散っていた。


「ガッ!・・・アグ!・・・」


そして詩織の胸に手が生えた・・・

それと同時に口から吐血する詩織。


その瞬間に俺は全てを思い出す。


ここは安全な学園内じゃない!生死を分けたダンジョンの中だ!!!


詩織の胸に生えていた手は少し戻ると、ブチブチと嫌な音を立てながら何かを取り出していた。

その手にはドクンドクンと脈打つ塊があった。

そのモンスターは笑いながらソレを一口に放り込むと咀嚼し始める。


詩織は全てをあきらめたような表情で僅かに微笑みながら光の粒子となって消えた・・・

それと同時に『カラン』と音を立てながら何かが転がる。


結晶・・・・?なのか?



目の前にいる『敵』の動作に注意しながら、その結晶に手を伸ばし拾い上げる。


「ヤバイ!!一か所ににとどまりすぎた!それにコイツはユニークモンスターだ!!!」


ユニークモンスター

殆どのモンスターが同じ階層にしかとどまらない中で一部のモンスターは階層という境界線を越えて活動する。

このモンスターはその一つなのだろう。


大きな声を出したことでそのモンスターの気が、新一の方にそれる。

慌てて逃げ出そうとする新一だが、モンスターの方が早く追い付かれ、詩織と同様に背中から手を刺されて心臓を抉り出される。

そして新一も光の粒子となり消えた。



香澄も

「あ・・・ああ・・・」

と怯えながら必死に逃げようとするが足に力が入らないようだ。

如何に死に戻りができるシステムがあるとはいえど、目の前に生命の恐怖がいるのだ。


僅かと言えど声を上げたことが仇となったのだろう。

モンスターは香澄を振り向き一気に距離を詰め前から一突きで心臓を抉り出された。


そしてその場に残ったのは俺とモンスターと二つの結晶だけとなった。


モンスターを前にして俺はたたずんでいた。

そのモンスターは首を傾げるような様子を見せた。

恐らくだが、そのモンスターにとってみれば俺も含めてこの場にいるのは全てが自分の餌でしかないのだろう。


故に恐怖するわけでもなければ、逃げるわけでもない。

ただ平然とたたずむ俺に疑問を抱いたのだろう。



―――お生憎様だな。俺はただの獲物じゃないんだよ―――


そう思いながら俺は右手に持っていた剣を放り投げる。

絶望しながら剣を落としたわけでもない様子にモンスター・・・いや老婆は首を傾げていた。


『ヤマンバ』

日本の妖怪話に出てくる一つだ。

元々は赤子を食べる妖怪である。赤子を食べるために妊娠中の女性を攫うこともある。また好むのは赤子ではあるが、別に成人も食べないわけでは無い。

あくまでも好き嫌いの話だ。


本来であれば妖怪や怪異というのは空想上の産物でしかない。

だが裏の世界においては確かにそいつらは存在している。

だからこそ俺の家を始めとし、いくつかの家が昔から存在し続けたのだ。



こちらも本来であれば今となっては空想上の産物として語り継がれる存在だ。

昔は存在していたが、今となっては空想上。

そう・・・表向きは・・


俺の家は陰陽師の家系だった。

国内で発生する妖怪や怪異による対応を生業とした一族。

それゆえ生まれついたときから国との関係性が捨てきれない。

しかし表向き存在していない問題を認知するわけにはいかない。

故に任務に失敗した陰陽師は存在そのものを消される。



そして天国門ダンジョンにおける俺の初戦闘が始まった。

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