第6話
月曜日に入学式とオリエンテーションを終えた次の日。
火曜日である今日は本来のカリキュラムに沿って、午前中は座学授業を受けることになる。
そして午後。
いよいよ、この学園の本番とも言うべきダンジョンアタックが開始される。
最初のダンジョンアタックは基本的に4人一組で行われる。
一クラスの人員が40人で構成されているため、一クラス10のグループが形成されるわけだ。
学園からの支給物は+αといって差し支えない程度の物だ。
ある程度の物を入れられるウエストポーチに、質素な剣と盾、そして膝当てと肘当てと胸当てだ。
ルビーが貯まれば装備を整えて全身鎧も可能になるそうだが、最初の支給はこんなものだ。
それに、この1回目のダンジョンアタックは学園にとって大きな意味合いを持つ。
この学園のダンジョンはとても特殊なものとなっている。
ダンジョンの入り口には天国門と地獄門が設置されている。
地獄門は本物のダンジョンで一切の保険が用意されていないエリアとなる。
地獄門側はモンスターを倒せばそれだけに莫大な経験値を稼ぎ、より効率的な自身の強化につながる。
しかし、『倒せれば』の話だ。
保険が用意されていないという事は地獄門の先のダンジョンで死ぬという事は、現実世界における死を意味することであり、基本的にハイランカー達が大規模なグループを構成して挑む場所だ。
天国門は仮想的なダンジョンであり、保険が用意されている。
詳しい原理に関しては表向きに公開されていない。
表向きは生き返りができるダンジョンエリアという説明になっている。
だが実際には天国門に関してもとても危険なものとなっている。
人間を構成する物が、魂とそれを入れる器で構成されているとする。
天国門をくぐるときに魂の一部をセーブする。のこりはそのまま器に残る。
一度セーブされた魂の一部はフルコピーされ、コピー元そのまま天国門のシステム領域に残留し続ける。
コピーしたものはダンジョンアタックの際の肉体へ戻されて活動できる。
器に残った魂の大半はダンジョンで死ぬと失われてしまうが、天国門で器が再構成される際にの魂の一部分がコピーされて保管されており、そのコピーを器に上書きされる形で肉体へと戻される。
また天国門においてはダンジョンの中で最終的な損傷を受けるのは魂の部分だけになっている。
ダンジョンの中で死しても、肉体は一度分解され、天国門で再構成されるという仕組みだ。
魂の方は、本来は全てがダンジョンに吸収されてしまう。
しかしそうなれば生き返りというシステムが存在しないことになる。
それを天国門のシステム領域に残留し続ける魂の一部分が担うことになるのだ。
再構成された肉体に、もともと保存されていた魂の一部が合流することによって生き返りを『疑似的に』再現するというわけだ。
しかしここまで説明すればわかるだろうが、天国門に死に戻りしてきた生徒たちには、魂の一部のみが残されており、本来の大本である大半が欠如したものとなっている。
当然だが、その未来を歩んだ生徒たちにはこの学園の外での長い未来は存在しない。
表向きは安全なダンジョンアタックということになっているが、実際には地獄門だけでなく天国門に関してもとても危険な構造になっているのだ。
しかしそれを知るのは、本来は長組の生徒だけだ。
俺は特殊な家の任務の関係によりそれを知っていた。
他の生徒たちの表情を見れば期待と不安が入り混じった表情だ。
まるでこれからアトラクションにでも乗って出発する子供たちにしか見えない。
俺も表面上はそういう表情を取り繕ったが、内心はとてもピリピリしたものになっている。
ダンジョンアタックをするにあたって俺も合計4人のグループ構成になった。
4人の構成は男女2名ずつ。
この2名は基本的一番最初の寮のルームメイトとなる。
従って相手方の女子たちもお互いにルームメイトという事になる。
クルーズ船の中で一緒になった【富勇 新一】
そして女子の方からは【
島内の方は女子にしては割と長身だろうと思える。制服を着ていても分かるほどにスタイルが良さそうだ。
反面、醸し出す雰囲気は少し内気に思える。
赤金の方はこの年代の女子の中では平均的な身長だ。胸の部分も少し膨らみが窺える。将来は大きくなる可能性もあるのだろうが、今のところは年相応のスタイルといったところだろうか。
「よろしくねー二人とも」
「よろしくお願いします」
先に挨拶をしたのが赤金だ。あとに挨拶してきた島内は見た目の性格予想通り律義に丁寧な挨拶をしてきた。
4人で天国門を潜る。
少しの浮遊感と、器から魂が一時的に抜き取られる感覚を得る。
そして自分の物とは思えない魂が混ざり込む感覚に不快感を覚える。
普通の生徒であればこの不快感を感じ取ることは無いのだろうが、特殊な家の家系に生まれたからこそだろう。
俺にとっては凄まじい不快感となって襲い掛かってくる。
転移したダンジョンの中は予想に反して意外と明るいところだった。
明かりも灯っている。
詳しい原理は俺にも解析できないが、少なくともダンジョン内のエネルギーを利用して明かりを灯しているのだろう。
「ねー、新一、初日のダンジョンアタックってどれだけの意味があるの?」
「いきなり呼び捨てかよ・・・まぁ変に気をまわされるよりかはいいか。なら俺は香澄って呼ぶぜ?」
「うん。それでお願いー」
「そっちも鋼と詩織って感じで呼び捨てにしてもいいか?」
「ああ、俺は構わない。俺も新一、香澄、詩織と呼び捨てで呼ぶことにしよう」
「私も呼ばれるのは構いませんが・・・しばらくは『さん』づけで呼ばせてもらってもいいですか?」
「固いね~、まぁその辺は自由だ。無理に合わせる必要も無いだろ。失礼なわけでもないしな」
「そうだね~」
俺も声には出さなかったが、詩織に顔を向けて静かに頷いた。
「それで初日のダンジョンアタックの意味合いか?」
「うん。だってダンジョンアタックっていう割には簡単な装備だけ渡されて、引率もつけないでお前たちだけで行ってこいって放り出されたんだよ?こんなのに何の意味があるの?」
「まあ長組ならまだしも普通科の生徒たちに1グループ1教師で引率付けられるほど人材が潤沢ってわけじゃ無いんだろうよ。ダンジョンで死んでも現実で死ぬわけじゃ無いし一度経験してこいってことだろうさ」
「ぶーぶー」
まぁ気持ちはわかる。
言ってしまえば一種の校外学習のようなものだ。引率もロクにつけないで、現実で死ぬことは無いとされているとは言え、ダンジョンの中で死に戻りを経験して来いっていうのは常識的に考えれば色々問題がありすぎる。
痛覚などだって別になくなるわけでは無いのに・・・
だが、そこは現実世界からすればダンジョンという産物自体が一種の非常識の塊だ。そこに存在する学園に対して常識を求めたところで意味も無いだろう。
そんなことを考えていると新一が動いた。
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