第5話
夜になった。
夕食を食べた俺たちはそのまま新一年生専用の区画に向かう。
とはいえ2年生の区画の方へと聴覚強化をすると、時折如何わしい音や声が聞こえてくる。
やはりこの学園は当初の評判通り異質だ。
りおねぇも今までは無事でいられたみたいだけど、これから先はどうなるか分からない。
ならば今以上に強くなってりおねぇを守らなくては。
決意を新たにして、俺は眠りについた。
数日後、新一年生は入学式の為全員が講堂に集まっていた。
男子は白のワイシャツに明るめの紺のブレザー、そして黒いズボンをはいている。
今は校内の為、皆上履きだ。
女子は上は男子と大差なし、下はより深い色の紺のスカートを履いている。
長けは膝からかなり上で、角度によっては簡単に下着が見えそうな感じだ。
靴下代わりに黒の少し光沢があるタイツを履いている。
また女子に関しては黒のアームスリーブもつけている。
こちらもタイツに近い素材で若干の光沢を放っている。
女子生徒は夏場の半袖の際の日焼け予防という事になっている。
実はこの制服は警察の防刃チョッキと同じ素材で作られており、ブレザーやズボン以外は薄いことには薄いがとても頑丈だ。
これに胸当てなどを付ければダンジョンに潜る際の正式装備と変化するわけだ。
入学式自体は普通の学校のように思えるほどで、つつがなく終了した。
今日のところは入学式と簡単なオリエンテーションのみとなってる。
この学園では月曜日~水曜日までの午前中が座学の授業となっており、その午後と木曜日~土曜日丸一日はダンジョン実習の時間となっている。
一見すると世の中が週5の登校がメインとなり、土曜日に関しても半日授業などがカリキュラムとして盛り込まれるのが主体になった今の時代において、
週6での登校を必要とする学校は極めて異例と言えるだろうが、実はこの形は学生たちにとって大したデメリットは存在しない。
なぜなら基本的にこの学園・・・というかこの島の通貨は『ルビー』と呼ばれる独自の通貨が使われている。
このルビーと円の両替は不可能なため、地元に居たころからの小遣いを持ってきた生徒たちのお金は原則として意味を成さない。
そしてルビーはダンジョンでドロップしたアイテムを購買で換金することによって得られる。
そのルビーはダンジョンアタックの際の装備を整える資金として使うだけでなく、日々の食事においても使われるのだ。
従って生活の為にはダンジョンアタックや学園からのクエストをこなす必要があり、そうしなければ生活もままならない。
なおそのシステムを無視していると餓死寸前まで行くか、暴動を起こすかになるわけだが、どちらをとっても思想教育などが施されるためロクな未来は待ち受けていない。
特に男子生徒であれば思想教育を施したりする形になるが、女子生徒にはいろいろと用途があるため完全に道具扱いの未来が待ち受けるため悲惨としか言いようがない。
そこまで考えると、実質的に週3日の午前中だけが学生の本文である勉強であり、残り2~3日は稼ぎを得るために働くと考えれば世の中の働き方と似ている部分が出るため、これだけであればさほど理不尽なシステムでは無い。
そういった簡単な説明だけ行ってオリエンテーションは終了した。
正確には男子生徒のオリエンテーションに関してはだ。
女子はこの後、まだ説明が続くらしい。
もっとも、りおねぇから詳細な報告を聞いている俺はその内容も理解しているのだけれども。
初日に関しては入学式とオリエンテーションのみである。
俺たちは直ぐに自由時間となる。
俺は前日と同じ場所に行き、人払いと防音の結界、そして特殊な認識阻害の術式を展開する。
何が特殊なのかというと、認識阻害を掛けなくてはこれからやる術式が超常の力を使うことのできるこの学園では露見してしまう可能性がある。
しかしそれを危惧して術式が使えないとなると本来の目的が果たせない可能性が出るのだ。
術式を展開し続けること30分ほど・・・
りおねぇがやってきた。
この術式の組み合わせを行うことによって、俺の家の者だけが認識することができる波動を生み出すことができる。
要はこれが超常の力を扱う者たちの中で、俺たちの家の物を呼び寄せる一つの呼び鈴というわけだ。
「昨日は本来の予定通りだったけど、今日はどんな用件で呼んだの?
それとも昨日の言葉・・・私のはじめてをいきなりもらってくれるのかしら?」
「冗談はほどほどにしてほしいかな・・・」
「冗談なんか言うつもりはないわ。
今のところ一切手を付けられていないけれど、正直に言えば結構危ない橋を渡っている状態よ。
それに加えて私はガードが固すぎる女子生徒としてある意味有名になっているからね。
この学園で完全に事に至る女子生徒もいるっていう報告は聞いていると思うけど、私以外の普通クラスのそういう人たちは少数で、全員が無事なのは長組の生徒たちしかいないわよ」
「そんなヤバイ状況でよく守れたね?いや、良いことだとは思うけどさ」
「そりゃ私も分家とはいえ特殊な家系の家に生まれた存在よ。気配察知とかはできるし、ダンジョンアタックが始まるまではヤバそうな気配のする場所には近づかないようにしたわ。
ダンジョンアタックが始まってからは積極的にアタックするパフォーマンスをして、着実に力をつけるポーズを取っただけのこと。
そこまでやれば後は実力でねじ伏せても特に問題ないわ」
「そんなもんなの?あまりに暴れると怪しまれないかな?」
「確かにそれで跳ねのけても不自然に思われない力の領域は、中堅どころの連中を退ける程度よ。
だけどハイランカー達はすでに異性たちを道具として使うことに執着してないからね。
あくまでも趣味とかそういう領域でしかないのよ。
ハイランカーにもなれば追われる側の立場だからね。彼らも必死になるのよ」
「彼女らって言葉は出ないんだ?」
「はっきり言えばこの学園においては一部の弱い女子生徒は、男子生徒たちの一種の奴隷扱いよ。
相手も固定では無いしね。職業によっては完全な奴隷になる未来が待ち受けてるわ」
「それは、また・・・」
「それで?用件はそれだけ?」
「いや、今すぐにそれをやれば怪しまれるからやらないけれど、時期が整えばりおねぇとダンジョンアタックできるかな?」
「あら、デートのお誘いとはね・・」
「え?・・・そういう物なの?」
「この学園ではそういう物よ」
「・・・・・」
「まあいいや・・・それでこの場所の状況はどうなってるの?」
「はっきり言えば危険な状態よ。いつ、ことが起きてもおかしくはないわ」
うーむ・・・
それが起きてしまえば、なりふり構っていられなくもなる。
いざとなれば全力でことに当たるが、できる限りは怪しまれない範疇で対応したいところだ・・・
「わかった。とりあえずこっちもできる限り早く準備してみるよ」
そうしてこの場での話は終わりとなった。
明日の午後からはいよいよダンジョンアタックが始まる。
その日は早めに寮に戻り休むことにした。
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