第七話 確保!!鉄パイプ女!


 「おわーーっっッ たか…」


 俺はガスでグラグラの脳を落ち着けるため、地面に 『ドサッ』座り込んで、深く息をはいた。

  そして顔を上げる。そこにある廃車を見るために。


 幻惑車は…動かない。

  さっきまでの颯爽とした走行が嘘のように、かつてのドライブを夢見るように…ボンネットはひしゃげ、ガラスは割れ、鉄クズになる運命を待つ身として、その歩みを止めていた。


 辺りには、同じように壊れた車たちがグシャグシャになって倒れている。


 『派手に荒らしたな…まるでスクラップ置き場だ』


 辺りを見回していると、ウロンダーマンが砲身にレイピアを戻しながら 「お疲れ様ですー をー」と、使ってない方の手で 『ナイス!』の親指を立てた。


 「あー お疲れさん」


 手をふらふらと動かして、親指に応える。

 

 「大丈夫ですかー? 幻惑剤の方はー」

 「キいてるよ かなり…」


 実際、視界は未だに若干揺れて、膜が張ったようにボヤけていた。

  俺は柱で横倒しになっているジュエリー女に声を掛ける。


 「お前は? ジュエリー女」

 「……Badな気分ぞ 気のせいか歯まで痛くなってきたような」


 ジュエリー女はそう言うと、頬をさすってぷくぷく膨らました。どうやら さっきよりはマシになったらしいが、それでも気持ち悪そうに首をもたげている。


 そんな2人して動けない俺たちを見て、ウロンダーマンは手を叩いた。


 「をー なるほどナルホドー じゃあ結果的に私の目標は達成できそうなわけですねぇ」


 ウロンダーマンが砲身を下げる。

  中から出てきたのは…銀色の手錠。


 「殺すんじゃなかったのか?」

 「とんでもない! をー そんな野蛮ごと ハシタナイですぞー」


 ウロンダーマンは関節が定まらないような軟体の指で、手錠をクルクル回した。


 「私だってねぇ 元同僚を殺したくないんですよー!?」

 「…そうゆう言葉はもうちょっと静かに言ってくれ 頭に響く」

 

 「…あぁ」


 後ろのジュエリー女が、感情を押し込むように息をはいた。


 「ここまでか…せめて空 見たかったのう」


 ウロンダーマンがジュエリー女に歩み寄る。

  身をかがめ、長く黒い手でジュエリー女の手首を取ると、そこに手錠をはめた。


 「をー 申し訳ないー なにぶん仕事でしてねぇ」


 『カシャン!』

  無慈悲な音。『ギリリ』と輪の調節をし、捕獲完了。

  同じようにして俺も、特に何の抵抗もせず、フラットに捕まった。


 「では行きますかね! 取り合えず報告のために上へ…」


 その時だった。


 「きいぃ」


 死んでいたハズの幻惑車が、ヘッドライトを微かに灯して、か細い唸り声を上げた。


 「おっと…生きてたか」


 俺はウロンダーマンの方を向いて、口を尖らせる。


 「どーすんだよ」

  

 ウロンダーマンは数秒悩むと、「まー 修理しても厳しそうですよねぇ」と言った。

  そのまま幻惑車に近づき、肩をグルグル回す。


 幻惑車は 『チカッチカッ』ヘッドライトを明滅させ、バンパーを死にかけの心電図のように上下に動かした。さらに、もがくようにタイヤを揺らす。

  しかし…ヘッドライトがウロンダーマンを照らした時、幻惑車は諦めたようにそのタイヤを止めた。


 「あ…」


 水面を打つように、ジュエリー女が声をこぼした。


 「…Repair…ホントに無理かの?」


 どうやら情でも湧いたらしい。

  言いづらそうにウロンダーマンに聞く。


 「うーん 本人の気概によりますかねぇ でも負け癖ついちゃってるしー」

 「負け癖?」

 「生き物ですからねー」


 それを聞き、ジュエリー女は目を伏せた。潰えたボンネットを覗き、ほんのり歯を噛んでいる。

  すると、自分で小さく頷いた後、意を決したように口を開いた。


 「のう…せめてBodyだけでも整えてやってよいか?」


 俺とウロンダーマンは目を合わせる。


 「おー いいぜ」 「をー 道徳心は立てますかねぇ」

 「…うむ ありがとう」


 幻惑車にゆっくり歩み寄り、手錠の付いた腕で前髪をかき上げたまま、ボンネットにおでこをピタッとつける。

  寒色の光が灯り、それが優しく目を瞑るジュエリー女の顔を照らした。


 次の瞬間にはもう…。

  車の破傷を覆うなり塞ぐなりして、真っ赤な車体を彩るように、輝く宝石が生え揃っていった。


 「をー 美しい 私もこうやって弔われたいですなー」

 「はっ お前にゃもったいねぇよ」


 生え終わると、ジュエリー女はボンネットに軽く唇で触れ、「もうよいぞ」と言って立ち上がった。


 「では をー」


 ウロンダーマンは 「足元お気を付けてー」と言うと、2人の手錠を繋ぎとめたロープを引っ張り、歩き始めた。

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