第八話 激突!!鉄パイプ女!


~地下1F→地上1F~


 俺とジュエリー女は残念ながらに、冷たい手錠の締め付けに屈しながら、ロープに引っ張られて階段を上った。気分はまるで処刑台を上るような、そんな感じである。


 と、真明るい蛍光灯の踊り場で、ジュエリー女が口を開く。


 「のう 報告のためとは言ったが 別にわしらを地下にCloseしてからでも良かったんじゃないかの?」

 「ほぉー そんなに閉じ込められたかったのでー?」


 ウロンダーマンは体は真っ直ぐ上に向かいながら、砲塔だけを不気味に180度回転させ、意地悪そうに聞いた。

  ジュエリー女は「そんなワケなかろ」とだけ言い捨て、顔を背ける。


 「をー 気を悪くしないでくださいー 実はですねぇ 各々方に会いたがってる人がいるんですよー」

 「あん? 俺にもか」


 俺はてっきり速攻処分されるもんだと思ってたから、これにはビックリした。


 『けど…会いたがってる奴?』


 頭の中で、候補になりそうな人間の顔を一人一人並べていく。が、よりにもよって全員ロクな奴じゃない。特に…一応の肉親ではあるんだが、アイツにだけは会いたくねぇ。

  その思いを胸に、恐る恐る聞いてみた。


 「誰だよ」

 「ボスです」


 「げぇ!」 俺は隠そうともせず、最大限の不快感をあらわにした。心臓の弁を歯ブラシで擦られた気分。


 「ありゃ 気の毒だの」


 隣のジュエリー女が同情半分 煽笑半分といったツラで、俺の顔を覗いた。


 『ボス!』…つまりは、ウチのグループで1番偉い奴。

  俺はスカウトって形でグループに入ったんだが、その時に一度だけ会ったことがある。当時イキがってた俺をメキャメキャにして、ほぼ拉致同然で引っ張って来た因縁の相手! 『しかもダメ押しに 性格まで合わねんだよな…』


 「わしは?」

 「さぁ ジュエリー女さんは分かりませんー」


 ウロンダーマンはUFOのように砲塔をクルクルさせ、エイリアンのように腕をクネクネ動かした。それを見てジュエリー女、「チッ」っと舌を打つ。


 「ともかくー! 人を待たすと悪いですからねぇ 皆さんキビキビ歩きましょー!」


 ピクニックの引率じみた掛け声。再度前に砲身を向け、意気揚々と出発進行。

  そして…そのフザけた姿とボスの顔を思い浮かべて、俺は覚悟を決めた。

 

 「スマン! ウロンダーマン やっぱ上に行くなら外に行きてぇ!」


 俺はウロンダーマンが次の段に足を掛けた瞬間。後ろから思い切りロープを引っ張って、その体ごと奴を仰け反らせた!

  さらに『グイッ』っと!バランスを崩した体を後ろから腕で掴み、押し倒すように階段から転ばせる。


 「をー 驚きですー! が ロープはどうするおつもりでー?」

 「安心しろ テメェは身長高すぎて気付いてねぇみてぇだがな…」


 俺はウロンダーマンが転げ落ち、やがてロープが…ピン! と張りつめた刹那、足でロープを切り裂いた!

  その足先には…キラリと光る! ガラスの破片!! すなわち、さっきこっそり刺しておいた、フロントガラスの破片があった!!


 「うむ! やっぱり頼りになるのぉ」


 ジュエリー女が褒めた。が、その称賛に応じる余裕は、残念ながらウロンダーマンが頭から落ちた時点で無くなっていた。


 「ヤベッ! ジュエリー女 走れ!」


 『ゴンッ!!』 ウロンダーマンが下まで落ち、その重量的な頭を速球で地面に叩きつけた!

  その…瞬間!!


 黒い波が、ザワザワと寄せ合ってはぶつかり合い、飛沫の代わりに蠅のような黒点を浮かせた。その波は、ウロンダーマンを中心に渦潮のように廻り、打っては跳ね、打っては跳ね、まるで水気の無かった階段下に、ドス暗いタール色の海を作り上げた。


 「ヲー」


 海とは、生命の源である。 

  だが深海の暗さは、いささか地上にあって深すぎる。


 俺はジュエリー女に目配せすると、お互いに示し合わせたように頷いて、一気に階段を駆け昇った!


 「なんぞありゃあ!」

 「知らん! ワッケ分かんねぇんだよアイツは!!」


 全速力で、次の段から一段トばしで次の段。さらにそこから次の次の段。


 「はっ 見えたッ!」


 まるで天国への扉かと思うほど、今までいた地下に比べて明らかに白い壁! 手錠のハマったままで心地は悪いが、生きて来れたんなら申し分はねぇ!


 俺は…弾き飛ばされるように、階段口から地上1Fへと足を踏み入れた。



~地上1F 『オフィスエリア』~


 

 「やっったのォ! 鉄パイプ女!!」

 「バカ! まだ太陽さえ見てねんだぞ」


 俺は飛び出した勢いを留めることなく、そのまま生かしてダッシュ! 明るさに目を慣らしながら、『観葉植物を蹴り!』『手あたり次第ガラスを破り!』『自販機を殴って出てきた缶を、ゴロゴロと無造作に転がした!』


 「おい! そんなハデに動いては…」

 「あぁ わんさかやって来るだろうな」


 予想通り…向かいの角から、大きな怒鳴り声が聞こえた! 


 「んーーーーーん? 何事だぁ!?」


 視界に存在するドアが次々と開け放たれ 『ウラウラウラ』と、我らがグループ! 構成員が身を乗り出して馳せ参上!


 「あ、鉄パイプ女!」 「わお、ここまで来れたのかよ」

  「マジか…アイツ強ぇんだよな」 「隣の女は殺すなよ。ジュエリー女だ」


 俺は…指紋が擦り切れるほど、親指、人差し指、中指を、思いッきり弾き、軽快で積み木を叩き合わせたような音を立てた。


 宙に出現したのは、濁った銀の、アイアンの管!!


 鉄パイプを握り、脳に野生を滾らせて、俺は食いしばった歯の力みを全身に覆って、連中に跳び掛かった!


 「うらァッ!!」


 先頭の! 頭蓋カチ割って、とうとうに、倒れゆく肩を踏んで後ろの敵へ!!

  乱戦極めしかし、闘気を折ることなく、次へ次へまた次へ。叩いてはツいた血を振るってハラい、『クルン!』と回しては鉄パイプの真ん中の方を握り、先端だけでなく柄でも殴って、連戦!


 廊下にはギチギチに人が溢れ、まるで肉の川を渡るように、俺は人の頭、肩を踏みつけてはその川を繋いだ!

  だが… 『ヅルッ!』


 「!」


 誰かの肩を踏みしめたとき、そこに付着していた血に滑って、俺は大きく体勢を崩した。


 『ヤバ…』


 暴力の川に…溺れかけた、その時。

  虹色の宝石群が四方八方の壁を彩り、まるで虹の筒中のように辺りを美しく飾った!


 「わしも 戦力に数えてくれて構わんぞ」


 構成員が 「わぁッ!?」足元を宝石に取られ、身動き取れないまま棒立ち。上半身だけを辛うじて動かしたり、声だけを張り上げて精一杯足掻いている!

  俺は道を通りやすくなる程度にブン殴って倒していくと、宝石を撫でて振り向いた。


 「ナイス! でかし…」


 『た』の、一音が出る前に…俺は気付いてしまった。

  俺たちが通って来た道。その道筋を這うようにして、黒い道が、絨毯のようにノペー…と垂れてきている。さらに、その少し後ろからは、黒い煙がモクモク…


 誰かが叫んだ。


 「う ウロンダーマンだ!」


 まだ生き残っていた宝石の残党が、明らかに顔をヒクつかせて、恐れ慄いた。

 

 「てっ 鉄パイプ女! テメェ 何てこト「「ウルセェ! 事故だったんだよ!」


 「ヲォオオオオオ! ッホッホッホ ヲォオオオオオオォォォォォ!!!」


 まるで…トンネルの向こうで得体の知れないバケモノが吠えたような声が、轟き、空気を震わせる。

  肌には鳥肌がざわめき、全身の神経から明らかな緊急シグナルが発せられては、ついぞ体が 『ブルルルッ!』身震いをした。


 それは他の奴らも同じだったようで


 「Crazy…アレが奴の本性かの」


 ジュエリー女は服を掴み、やはり緊張した時の癖なのか、下唇を噛んでいた。

  一方、宝石に捕まっている構成員が、ジタバタと動いては叫び混じりの声を上げる。


 「おいッおいッ 鉄パイプ女」

 「犬死には勘弁だ! 頼むからコレ解いてくれ!」


 「…ジュエリー女!」


 俺は震えるジュエリー女の肩を掴んでほぐすと、「解いてやってくれ」と耳に囁いた。

  ジュエリー女は 「わッ!」っと体ごと揺らし、若干跳ぶ。


 「止めんか! 耳は慣れとらんのぞ」


 そう言って真っ赤な顔で、おでこを近くの壁へと付けた。

  すると、やがて宝石はシュルシュルと萎み、逆再生されて地へと吸い戻されていった。 『便利な能力だな』


 「あー シンドい」


 構成員が次々と解放されていく…と、威勢のいい大声が、廊下中に響き渡った。


 「鉄パイプ女さんっ!」


 振り返ってみると、後ろから若い男が、まるで博物館にでも飾られていそうな日本刀を持って、バネでも仕込んであるかのように走って来た。

  俺は手錠を 『ギッ』っと張り、その男の刀を受け止める。


 男は…そこに目掛けて日本刀を振り下ろした!

  まさにザックバラン。しなやかとは真逆の、豪快な切り口。


 「よぉ ムシン男」


 刀は、鎖に真っ直ぐ振り下ろされた…が!

  「ダメか」 鎖は切れる様子を見せず、俺の手首を少し下げただけで終わった。


 「ダメッッ!! っすか!?」

 「まぁこれで切れるなら俺の腕力でも千切れるわな」


 俺は刀を振り払うと、そのままムシン男の顔をぶん殴った。

  ムシン男は止まりかけのコマみたく弱々しく回転して崩れ落ちる。


 「遊んでる場合かよ」

 「おい! 鉄パイプ女 後ろ結構Dangerぞ!」


 ジュエリー女が後ろで叫ぶ。ところが残念、せっかく助けた奴らはほとんど逃げ出して、もうスッカラカン。唯一残った奴は…


 「よぉネンチャク男」

 「鉄ゥーパァーイープゥ女ッ!」


 俺は鉄パイプを握りなおすと、手錠をジャラジャラと鳴らして挑発した。

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