第六話 爆走!!鉄パイプ女!
幻惑車が、吠え! 叫ぶ!!
「なんッ…だコレ…!?」
幻惑車の! その身そのものをアンプとして、駐車場内を轟く耳を覆いたくなるような…異音!
音は俺の鼓膜をドラのように叩き、そのまま脳ミソへと直撃! ガぁツンッと来た衝動の後で、残ったのは真紫色の世界だった。
「をー どうやら幻惑剤を吸い過ぎたようですねぇ」
未だ配管にぶら下がる真っ黒なテルテル坊主が、「やれやれ」と砲身を振った。
「駐車場内に充満したガス 吸い過ぎると特定の周波数の音で 視界が歪むんですぞー!」
「はっ Hurry 早く言わんか…」
どうやらジュエリー女もかなり吸っていたらしい。地面に突っ伏したまま床を這いずり、目をしゅぱしゅぱさせている。
俺は辛うじて立ち上がり、ジュエリー女の体を柱にまで持っていった。そして目の前に指を1本立てて、「これ何本に見える?」と質問。
「む…
『結構ヤベェな…』
体が小さい分、ガスの周りが早かったのか? 瞳孔も定まらず、気持ち悪そうに細かく呼吸を繰り返す。
『結構いいガス使ってんなぁ』
かくいう俺も、さっきから物の輪郭がブレブレ。さらにはフクロウのように顔全体が回っているのかと思うほど、視界そのものも傾きだした。
この隙を…作った馬鹿は、ドコのドイツだ!?
「キィイイイイいいいいいいい!!!」
再び幻惑車が吠えた!
その場で地面を掻きむしり、イナナくままにホイールを全力回転。やがてフルパワーこそ満ち満ちて、薬莢を叩かれた弾丸のように発射! その狙いのマトは、どう考えても俺らのいる柱だった!
「やっべ…」
俺は柱に手を付いたまま、辛うじて反対側にまで回り込む。と、次の瞬間にはもう! 柱に重たい鉄球でもぶつかったような、鈍く重い衝突音が聞こえた。
「ウロンダーマン 手ぇ組まねーか?」
『ボォン!!!』 車のバックする音。その後に聞こえる、パラパラと瓦礫の崩れる音。
それらが止んだかと思えば、再びの再び。地面との軋轢、摩擦を…ギュルギュルギュル! 掻く掻く掻く! エンジンの音!!
ブロゥゥウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ……!!! ブロッ ブロゥッ ブロゥゥウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ……!!!
「をー ホントは貴方達を殺しに来たんですがねぇ」
「やっぱりかよ ボケ」
「まぁまぁ いいでしょう このままだと私も殺されちゃいますー」
吊り下がっていたウロンダーマン。ほっそい足でシュワッと着地!
「何か策がおありでー?」
「引き付けろ 俺が壊す」
「ブラボー! その自信に賭けましょう」
拍手をし、一礼するようにウロンダーマンが砲身を下げる。すると中から 『するするする~』と、ウロンダーマンと同じくらい細いレイピアが出てきた。
「久しぶりに見た ソレ」
カランと落ちたレイピアをつま先で蹴り上げ、大道芸人のように派手にキャッチ!空気で 『ヒュヒュッ』っと試し突きし、改めてポーズを取った。
「さぁ! 面倒ごとを片付けましょう」
幻惑車……発射!!!
『ルート案内を開始。目的地は今しがた降りてきたノッポの砲台人間→轢殺』
スタイリッシュな流線系の車体。空気抵抗を泳ぐようにして、滑らかに駆ける!
標的はもちろんウロンダーマン。今まさにひしゃげた臓物塊にすべく…爆走!!
「をー」
相対するウロンダーマン。正面に構えるその立ち姿は、さながら三銃士が一人。時代が時代なら、その振る舞いだけで名誉賞が貰えるだろう。
手に持つレイピアも、まるで中世の骨董品のようにヒストリカルな紋様が刻まれた一品。スレンダーな刃は駐車場の蛍光灯に晒されメタリックに反射。串刺しの風格を漂わせた。
その…レイピアの先端を前へ。
体は右肩を前に出し、左手を後ろ腰へ回す。それに合わせて右足を前、左足を後ろへ。
古風でいて洗練された構え。体の重心を前に寄せた、突くこと一辺倒の、愚直とも取れるフォーム。
剣士と車。ヒトとテクノロジー。
先に動いたのは…ヒトだった!
今! まさに!! 軽やかな、重さを感じさせない足さばきで剣先を前へ!!
「いざ…尋常に!!」
そうして突き出されたレイピア根元が、まるで風船のように 『プクーーっ』っと膨らんだ。
「キいッッッ……!?」
ストローで吸い上げられるように、その膨らみが大きくなりながら先端へと移動。
やがて剣先の限界まで達した時、レイピア全体がまるで…! 卵を丸呑みしようとして失敗した蛇みたく大きくしなり、何かを吐き出した!
吐き出されたのは…砲弾!!
「キィイいイイいいいいいい!??」
幻惑車は当然か、急ブレーキをかけて車体を止めようと踏ん張る。
しかし…既に最高速で爆走していた鉄の塊が、踏ん張り程度で止まるのか?
「油断しましたねぇ ありがとうございましたー!」
砲弾は見事に命中!
辺りに爆炎と煙をもたらした。
…しかし!
「キぃイイィイいいいィィィィィィィィイ!!!」
煙を切り裂き、虎のカラゲンキ!
視界をよくするためか、あるいは自分を鼓舞するためか。ヘッドライトを『チッカチッカ!』点灯して、ベッコベコに凹んだ車体でこちらに突っ込んで…
「廃車が 頑張ったな」
ヘッドライトのおかげで分かりやすかった!
ウロンダーマンの前に立ち、釣り上げるように幻惑車を寄せる。
腕に力を。まるで鉄パイプと一体化するほど、強く強く握りしめた。
そして…我慢と力みが最高潮に達したその時!
思いっきりッ!ボンネット目掛けて鉄パイプを振り下ろした!!
「キィいいィィイいイィィィィィィ!!! キィ!キィ!! きィィイイイイィィぃぃぃ…」
幻惑車は地面に前のめりに埋まると、やがてカラカラと後ろタイヤを回し、ついにはヘッドライトさえ消えて 『ガタン!』潰えた。
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