第三話 勝利!!鉄パイプ女!


 「で の…わしはどっちとFightすれば良い?」


  俺はテンプレ処刑人と逆関節鳥ババァを交互に見た。


 「あっちの…鳥ババァだ 行けるか?」


 ジュエリー女は怯え、首ながら鳥ババァの方を見つめた。そして意を決したように、ウンと頷く。

  俺はその姿を見て、鏡合わせにウンと頷くと、自分の方の獲物へと体を向けた。


 男は…目出し帽の格好をつけたアサ袋を被り、三百眼の瞳孔がギョロ。巨体、通路の天井スレスレの高身に、口から一定間隔で管を吹いたような「コヒュ」と言う音が鳴る。手には その巨体に負けず劣らずの大きな斧が持たれ、引きずられるたびに床にギィとしたブレ線が引かれていった。


 「さて 死体になろうか」


 俺は持っていた鉄パイプを、万力がごとく握りしめた。

  鉄パイプの中の空洞を直接握りしめるほど、強く強く強く握って、腕には葉脈ハったような血脈と、今にも暴発しそうなリキみだけがレモン果汁を絞るようにギューーーッ! っと!! 残った。


 『相手は死体 逆算して死に返すだけ 俺はただ確定した殺人をすればいい』


 カチ合うため、前向きに俺も歩む。

  互いの距離が徐々に縮まっていき、やがて13m、12m。測定器があったなら、からからと空虚に回っていたろうに。11m、そして…10m!!


「コヒュ…ッ、ッ、ッ…ヒュッ!!」


 加速! 巨体そのものを砲丸がごとく、まるで火薬ではじき出されたようにテンプレ処刑人が一気に行った!!

  その…! デカい体。持たれた斧が、通路の天井をほぼ擦って掲げ、やがて重力任せに破壊そのものと名乗りを上げて振り落ちてきた。


 『遅ェ!!』


 そう、威力は置いても、鉄パイプの方が軽い。『機動力』その点なら最も、鉄パイプに分がある。

  落ち行く刃塊を、抱き寄せたほどの近距離で避ける。その隙に巨体の脇下を辻斬るように通り、間に腹を叩いた。


 「コ…」


 過ぎたる刃塊が、床のタイルをメキメキと割って、やがて地面にエグり込んだ。

  それを見届けて回り込んだがままに、処刑人の背中を駆けて空へ! ハツラツとしたままに、処刑人の肩を鉄パイプの濁り銀で殴打。しかと骨の割れる感覚が、鉄パイプの内管空気を揺らした。


 「コキョ…!?」

 「死ッ体がなぁ…とっとと帰れ!」


 大船が沈没する。その様を想起させるほど『グラッ…!』巨体が傾いた。沈みユく体を台座にして、より高らかにジャンプ。己の体をさっき見た斧じみて、自重に任せて落下。頭に向けて、スイカ割りかの要領で両手で鉄パイプを振り下ろす。

  頭蓋は砕けて、アサ袋の中で散った。


 「よし…!」


 斧から先に地面に、音を立てて落ち、次に体。べちゃッと血まみれの図体を寝かしつけた。凹んだアサ袋から、とくとくと赤いシミが通路を広がっていく。

  そして向こうから来た同じ赤いシミと混じった。


 「Ha…スマ…ん」


 血の源流に、四肢のちょん切られたジュエリー女が這いつくばっていた。だが、何もできずに負けたかと思いきや、すぐ側の壁には、豪華絢爛に壁に拘束された逆関節ババァがいる。


 『流石に厳しかったか』


 まぁ殺されてないのは御の字。グループの金策要因だから殺されはしないと思ったが、四肢欠損で済んだなら、思った通り安く済んだ方か?


 『正直 時間稼ぎになりゃ立派だったが 思いのほか上手くやったな』

 「おう! 上出来だ」


 俺は鉄パイプに付いた血を振り払うと、肩に担いでちゃぷちゃぷと血溜まりの床を歩いた。


 「やるな てっきり殺されるかと」

 「待ちおれ…ぬし…」

 「『ぬし』じゃない 鉄パイプ女だ。よろしくな」

 「鉄パイプ女…う…」


 ジュエリー女が身をよじらせて、真っ赤な顔で叫んだ!!


 「後ろ!! ハサミがお前を狙ってッ!!」

 「! ナルホドッ!!」


 急いでしゃがむ。と、頭の上で、俺の首を挟み込むようにしてサイレントに開いていたハサミが、バツンッ!!と閉じた。その瞬間を狙って、ハサミの交差した留め金部分を思いっきり叩き壊す。


 「!?」


 バラけた片方の刃を、ホームランバッターよろしくフルスイング。通路を切り裂くように飛んだ刃が、壁に拘束されていたババァのおデコにピタリと命中し、ブッ刺さった!


 「ほッ…」


 ババァは痙攣し、やがて電池が切れたように止まると、そのまま力無く だらんと死んだ。そして吹き出した血が、自らを拘束する色とりどりの宝石を、面白みの無い鉄臭い赤に変えていった。

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