第二話 共闘!!鉄パイプ女!


 デタラメに折れ曲がった骨々に、わき出る黒よりの赤! その赤は死体を中心として、花が咲くように床を広がっていった。


 「あーいあいさい…たまらんね全く」


 ラッキーにも開いたままの扉。鉄パイプにこびりついた血を、振るってはらう。

  俺は気合を入れるため、頬をペチペチ! 叩いた。


 「らッ!」

 

 思考をクリアに! 気合と根性。どうせここに居ても何もねぇ…!

  微熱の山盛りミンチを跳び越えてドアの向こう、電灯が点滅する廊下へと出た。

 

 廊下はコンクリートの打ちっぱなしで、まるで冷酷な薄灰色。地下にあるクセに曇り空みたいだ。それが左右に際限なく伸びて、無数とも思えるほど鉄扉が付いていた。

 『俺みたいなのが、いっぱい捕まってんのかな』

 とはいえ助ける義理も無い。俺はよーく考えて さっきの男の靴音が左から聞こえたのを思い出し、左へ行くことにした。


 『グループの拘留施設だな』


 辺りを見渡し、防犯カメラにピースする。

  悪いことした人間をオシオキするところ。地下にあるってこと以外は秘密にされてたが この感じ、カビくせぇ嫌な雰囲気。死に場らしく、殺風景な場所だな。


 「ンでこんな場所に捕まってたんだ俺は」

 「へいyou そこのgirl!」


 俺が向こうに歩いていると、場に似つかわしくない快活な声が聞こえた。横を向くと重苦しい鉄扉の小窓格子から、クリクリの青い目が覗いている。


 声は少し上擦ったままで、目をパチパチと言葉を続けた。


 「ぬし 頼む わしをここから連れ出しとくれ」


 出来る限り体をこっちに寄せたのか、扉がガタッ…っと揺れる。

 

 「テメェさん誰だい?」

 「待て その前にYesかNoか」

 『頼んできたくせに生意気な』


 ところが名乗って貰うまでもなく、この声にこの目。どうにも覚えがあった。


 「…あ 思い出した お前 ジュエリー女だろ」

 「! なんと」目が考え事するように細まる。「旧知の仲だったかな?」

 「いや 一方的に知ってるだけだが…しかしスマン 俺は急いでるんだ 他当たってくれや」

 「他!?」


 扉がガシャン! 音を立てて跳ねた。


 「他なんぞおるか! 長いコトここに捕まって初めて! 初めてのチャンスぞ!!」

 「分かった分かった じゃ 待ちぼうけには慣れただろ」

 「待てぇ! 頼む 礼だってするし…それにぃ…」


 格子越しに見える指が1本下がったっきり、瞳孔がグツグツと震えた。おそらく脳ミソの回転と連動している…と


    『プィィイイイイ!!プィィイイイイ!!プィィイイイイ!!』


 空気をひっかきまわす奇音! サイレンが回り、効果的にパニックを誘う赤が『緊急事態』として耳から脳へと入り込んだ!


 「なんぞ!?」

 「遅いくらいだな お優しいこって」


 とはいえ困った。さらに困ったことに 『『ゴォシャーーーン!!!』』

  俺の前と背後から、分かりやすく鉄扉のひしゃげ、壁にぶつかる音が聞こえた。


 「おぉほっほ 殺人 久しぶりねぇ」

 「…ヒュッヒュッ」

 

 中から人…いや、まぁギリギリ人の変な奴ら。


 前。

  すなわち「おほほ」今俺の向かっている先からは、巨大なハサミを持った足が鳥の逆関節ババァが出てきた。


 後。

  すなわち「…コヒッ」俺の居た部屋から見て右手から、目の部分にだけ穴が空いたアサ袋を被った処刑人コスプレの男。手にはこれまた典型的な処刑斧を持っている。


 「おほほ」『チョキチョキ』

 「…コヒュ」『ズズ……』


 『結構強いな…』


 前のババァはそうでもない。が、後ろのテンプレ処刑人が強ぇ。単純に体もデカいし、持ってる斧ぬきにして鉄っぽい匂いがする。

  2人は俺をすり潰さんと、割とテンポよくこちらに歩み寄った。


 「…おい ジュエリー女」


 格子に向け話しかける。


 「さっきのYesかNoかってやつ まだ生きてるか?」


 唾をのむ音が、こっちにまで聞こえた。


 「……うむ…ウム! Yes!! もちろん生きとる 生きとるよぉ!!」


 格子越しに、ジュエリー女は しかと俺の目を見つめる。

  青い瞳が揺れて、唇を舌で潤すのが見えた。


 『賭けるにしちゃ頼りねぇが…悪くねぇ目だ!』

 「開けるぞ! 離れてろ!!」


 そう聞くと、ジュエリー女は大急ぎで扉を離れた。見届けて確認し、腕に力を入れる。

  俺は扉の取っ手部分を乱雑に打ち壊すと、押し出すようにして鉄パイプの先で突ッ叩いた。


 『ガン!!!』


 荒療治を波にした、ガサツな鈍い音を立てて扉が開く。

  内側に開いた扉。その先には


 さっき見ていた通りの青い目。中学生ほどの背丈。オレンジみのかかった金髪が肩まで伸びて、その上から薄手のカーディガンを羽織った、細い女…や、そんな特徴よりも驚いたのが

  見えている限りの片足、さらにジュエリー女からして左腕が、まるっきり虹色を放つ宝石になっている。


 『ジュエリー女、本物の宝石の生る人』


 ジュエリー女はカーディガンを握って、震えたまま何とか立っている。


 「いけんのか?」

 「…う うむ」

 「足のことじゃねぇ 気持ちのことだ」


 「……も ももももも」


 下唇を噛み、首を振る。


 「もちッ ろん」

 「…よし!」


 俺はジュエリー女の肩をバシバシ! 叩くと、「頼りにしてる」と言って廊下のテンプレ処刑人を見やった。

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