野蛮人勇者and美少女勇者


 初バイトの帰り道。それは突如、僕に降り注いだ。


 近くの神社仏閣に押し入り、供物の食料を根こそぎ食い尽くして。捕まえたリスやらカミキリムシやらカブトムシやら蚊や……まぁ動くモノならなんでも手当たり次第食ってる最中だった。



 手の甲の球になった雨粒が、雲上の稲光が、その上の太陽が、さらにその先の惑星雲が、そこから先から先へ進む収束点の次元が。



 無限に続く回廊は、やがて僕に接続し、接木となって新たな道を作り出す。


 

 圧倒的デジャヴ。お帰りただいまだ。


 妹に絡み、己の魂に強制命令をかけたおかげで、僕は魂の繋がりを認知できるようになった。

 

 

 生まれは日本、青春時代その後は全て異世界な僕にとってこれを感じられる状態が平常運転そのもの。


 日本産転生者はどれだけ頑張ってもこれが分からないから悲しい。魂そのものが不純物だと応えてはくれない。生まれで差別なんでさらに悲しいものだ。


 



 ふむふむ…どうやらこの地からも言付けがあるみたいだ。珍しい、まぁ自然は一方的だから仕方ない。

 

 僕はその意図を汲み取るべく集中する。



 どれ、どんなことを言いたいのかなぁ〜?





 吹き抜ける風が行けと伝えて来る。


 ある者を生かせと。共にあれと。


 気まぐれな大地は、この地に降り立った者を愛したらしい。


 

 HOGE〜…はーん…ふーん……うるせええええええええ!!!!!



 なんですか…僕も一応異世界人みたいなものなのによ。僕には一切の帰還ボーナス与えず、魂の修復すら許さないうえに、ここでの文字の読み書きや記憶すらも喪失したのに。

 なんで他の人には好待遇なんですかねぇ〜。この不純な扱いはなんなんだろう。

 必死こいて日本サバイバルやってるのに、これ以上頑張れってか?

 巨万の富を得るか、広大な領地貰わないとやってられんわ。

 あれか?対象が女だからか?やってられんわ!!


 そんな意志なんて無視だ。無視。

 今日は疲れたなぁ。僕はかえるぞ!!!!

 何がなんでもGO TO MY HOUSE!!!

 蛙か鳴ったからかーえる。


 ん?……あれ?なんか稲光してる雲がこっちに。


「うおわああ!!」


 爆発音と共に身体が反射的にのけぞる。尻もちをついて、すぐそこで落雷したのだと理解した。

 その雲はまだ僕の頭上で止まったままだ。家に帰るべく足を進ませた結果これだ。

 大いに風は荒れ、飛ばされた木の枝やら石が頭上に降り注ぎ、さらに雨までもが滝のように来る。

 なぜだ。なぜ…こうも無慈悲なのだ。


 これ以上不興を買ってはならないと身体が分かった。だから、もはや従うほかない。


 天のお考えは本当によく分からん。天を祭る神聖な場所を幾らでも破壊略奪しても無関心、その上で自然環境の破壊やら大気地上汚染が酷くなろうが無問題にする。

 なのに、特定の人間には祝福し執着し、天啓にそぐわないとガチギレ。

 神に近かった僕といえどいまだに理解し難い。およそ人如きには分からんと改めて思い知った、


 さて、僕を待っている相手に会いに行くとしようか。


 やる気スイッチゼロ。

 僕は風の導くまま歩みを進めた。

 



 環を見つけた近く河川敷の土手。橋の下にその子はいた。正確には行き倒れしていた。衣服は汚れ、泥まみれで、風呂に入れてないから悪臭が漂ってくる。

 魂の繋がりから女なんだとは分かったたが、あぁこの子だったか。覚えてはいる。日本に帰る瞬間、僕の命を狙って術式に飛び込んできた少女だ。

 えーっと、確か勇者だとかなんだとか。


 何日も食事にありつけてないんだろう。もともと細かった腕はさらにやせ細っていて餓死寸前か。濾過せず水をそのまま飲んで嘔吐した形跡もある。救助してもらうための火起こしもされてない。

 こいつサバイバル経験ねえな。今時のやつは豊かになったなあ。



 やれやれ色々と因果な関係だ。


「……ぁ……お母さん」


 少女に触れると全く意識が定かではない返答をされた。あっちでの言葉でだ。

 それにしても、お母さんか。もうダメだと思うんだけどなぁ。

 それでも、この地はこの子を持って帰れと風が伝えてくる。ええ…自業自得だと思うんだけど。


 こちらに在来する魂もないのに無理やり世界を飛び越えて来たから、こいつは肉体魂ともに幽界と現世の狭間に捨て置かれて誰にも認知されない状態にある。


 ただ、人気のない場所とは言え、何もない壁として扱われるのは寂しい。これじゃ名誉や尊厳は残らない。


 つまり、ここで僕が引き取らない限り、例え死んだとしても魂がここに幽閉され生き地獄を味わう。


 全くよお…命狙いに来た奴がその対象から命救われるってなんですかねぇ。

 この世界に問題を持ってきた理由が僕なのは知ってる。だけど、天よ。怒り満点で雷降らさんでくれよ。


 はぁ…分かりましたよ。


 僕はその子を抱きかかえて家に引き取ることにした。僕自体、下水に浸かって悪臭を放つ物体みたいなもんだからそれほど彼女のものはさほど気にならなくはなった。

 

 家に連れ帰って顔を拭いて気付いたけど。

 頬がこけていなければかなりの美少女だった。プリュメッシュ人特有の銀髪に、綺麗な二重、長いまつ毛に、鼻筋も通っている。

 ただ一点、栄養失調特有の皮膚のかぶれや青あざが各所にできていた。かつて兵糧攻めをやられて躊躇せず人肉を食った記憶が懐かしい。

 

 

 起きたらたらふく飯でも食わしてやるか。

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