妹に拒否られちゃいました
すすきと藤を使って蓑笠を作成したは良いものの、雨というのは憂鬱そのものだ。
だが、今日は記念すべき初出勤。
労働を行える幸せを噛み締めなければな。
脳みそを空っぽにして荷物を詰め込み、いそいそと蓑笠を着込み外へと出ていく。
手を乗せて様子を伺った。一見ポツポツした小雨が手の甲でダマ状の池を作る。
なるほど、自転車をダメにしてしまうかもしれない。徒歩で向かおう。
雨には似つかわしくないほど優しく暖かな風だ。川沿いだからなのもある。こういうのは大体荒れがちになる。
うん?あれは…環か…なんで傘も差さずにこんな悪天候に。
雨は川が増水するから危ないというのに。あいつは何をしているってんだ。
川辺に座って俯く妹は、顔を手で擦りながら、髪の毛を風に煽られるがままにしている。
いつもの僕ならなんかいる程度で何も見なかったことにしていたが……
環は泣いていた。
…縁が切れかかってるとはいえ身内だ。
放置はできない。
何も得られないと分かっているのに気付いたら急ぎ足になっていた。
蓑笠を上に被せてやって環はやっと僕の存在に気付いた。
誰だと一瞬顔をハッと見上げたが、すぐに俯かれてしまう。ついでに蓑笠も投げ捨てられた。
「環、この前ぶり。元気にしては…いなさそうだね」
「…あっち行ってよ。アンタには関係ないでしょ」
「そうかもしれないけど」
この前とは違い、返事が返ってきた。嬉しい。
心が少しジーンときたが、環の服は濡れていて髪の毛も雫が垂れている。風邪をひくといけない。
再度蓑笠を環に被せようとするも、手を払われてしまった。バシンと勢い良く弾かれた手がヒリヒリする。
環の目からまたポロリと涙が落ちる。うーむ手痛いな。
おっと。雨が急激に振り出してきた。そろそろ移動しないとまずいってばよ。
僕は手首を掴んで強制的に立ち上がらせようとする。
「何すんのよ!」
「風邪引くだろ。早く帰ろう」
「……っ!ほっといて」
すごく憎しみのこもった睨みだ。なんとも不甲斐ないな。でも僕は環を強引に立ち上がらせた。
「や、やめて……離せ…離して!!!」
「ダメだ」
「……ほっといてってばっ!ふざけないでよ!急に消えて急に現れて!何なんだよ!!」
泣き声が混じった金切り声が辺りに響く。そんな彼女の心に呼応するように雨はドバドバ降り注ぎ、川の流れも濁流へと変わりつつある。
「ふざけんな!ふざけんな!!ふざけんな!!!」
「やめろ!!落ち着け!」
環は掴んでいる腕を握り拳で何度も殴ってくる。傷つけるわけにもいかないと強く握らなかったのがいけなかった。
滑った手のひらは容易に振りほどけてしまい、妹はそのまま後ろから川へと落ちていく。
しまった……珍しく僕は血の気が引いていく。
「環!」
急いで川へと駆け寄り。僕はカッパを捨てて飛び込む。
足場がとても悪く、あいつはすぐさま流れて行ってしまった。僕は必死にもがき、妹を探す。
見つからない!!!ちくしょうが!
ザバザバと水をかき分け、必死に妹を探す。すると少し離れた場所でブクブクと泡が立ちのぼるのが見えた。
急いでそこに向かい潜る。水が濁っていて見えない。
あんまりこういうのを使いたくないがもう仕方ない!!
一瞬だけ魂を動かし、彼女がどこにいるか当たりをつける。
映る色彩が消えうせ白黒だけの世界となる。
黄色い光が水面の近くから立ち上る。色が小さくなり魂が徐々に徐々に消えかかっているのも分かる。
頭が重しをつけたようにクラクラするが耐えるしかない。
光の下まで一瞬で移動すると川底まで沈んだ環がいた。服を掴み手繰り寄せてから、抱き上げる形で浮上させていく。
「環!大丈夫か!?」
環は目をつむりぐったりとしていて意識がない。
肺にまでありったけの水を飲んでしまっている。
これは…まずいな。とりあえず今すぐにどうにかしなきゃ。
僕は息を止めて環だけでも地上に上がらせてやった。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!どっこいせええええ!!」
雄たけびを上げ、力の限りを振り絞って妹をぶん投げる。
妹を放りなげ、いざ自分も這い上がろうとすると、流れが更に強くなり石と根っこに頭と身体を強かに打ち付けられた。
痛みで悶絶しそうになるが流れは止まらない。下流へと連れ去ろうとするように巻き渦を作り、方向を変えてまた逆流したりを繰り返す。
そして、やっとの思いで陸へと上がり切った頃には土砂降りの雨は更に勢いを増しており、川の水かさも増していた。
「クソクソクソ!環!環!おい!!」
返事が返ってこない。
僕は随分とまた流されていたようで環との距離もあった。しかし、妹は意識なくまた流されようとしていた。
僕はまた魂を使わなければいけなくなった。
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