勇者面接するってよ
「北条院悠人さんね。珍しい名前ね」
僕の履歴書を見て、店員のお姉さんはそう言った。
まさか、直談判してすぐ面接ができるとは。雨が止んだ後の晴天は気分爽快に幸先が良い。
ただ、履歴書の方には中学は省かせてもらった。理由は忘れてしまったからだ。学生証があって本当に助かり感激している。
「はい、よろしくお願いいたします。」
「あなた学生さんよね?」
「はい、そうです」
堂々とした声量で返すと、お姉さんは慌てて言葉を続ける。
「えっと、ごめんなさい。ただ、気になる点があって。それにこの年齢で一人暮らしって、ご両親はどうなさっているの?志望理由に、お金がなくて家賃が払えない為って書いてあるけど?」
相手は志望動機の欄に着目したようで、僕は思わずヘラヘラした笑顔になる。確かにお金がなく困窮している。それ以上でもそれ以下でもない。
とりあえず、質問に答えよう。
「そうです。お金が本当になくて。いや~、親とは一悶着あって喧嘩別れしちゃってまして。それでこの期に自立をすべきだと訴えかけて今に至ります」
「あー…そう。ごめんなさいね」
お姉さんは、とても歯切れが悪く申し訳ないといった感じだ。言わせてしまった僕が悪く感じる。
とはいっても、採用面接なのでなるべく努めて明るい笑顔を意識していこう。ビジネス笑顔ってやつだ。
「気にしないでください。健康面にはなんの問題もありません」
少しだけ語調を強めに言えば、相手の眉尻が下がった。これは同情だな。
お姉さんは、ふぅーとため息を漏らし、切り替えたようにキッとした目つきに変わった。
面接は淡々と続いた。途中、こちらを値踏みする視線があったけど、それは好調の証と言いたい。
真剣に相手は僕のことを採用しようと頭の中で弾き出しているのだから。
採算が取れなければ、人を雇うことなんてできない。僕が尊敬する貴族から学んだ大事な教えの一つだ。
「じゃあ最後に。何か特技はあるかしら」
「クレーム処理はお任せください。以前は、多くの部下を養い責任を取ってた立場でしたので、対応には慣れています」
「そ、そうなのね」
あれ、これ自分の中ではかなり優秀な特技だと思ったんだけどな。相手は、う、うんと困惑気味に相槌を打ち、メモ用紙に書き込んでいく。
「まぁ…いっか。じゃあ明日から来てもらえる?」
やっぱ雨が止むと良いことはある。これでようやく一安心だ。
「ありがとうございます!!沢山働かせてくださいっ!」
僕は嬉しさのあまり精一杯の拳を作って感謝を示した。頭を下げるのどんな時も大事だ。
「う、うん。…よろしくね」
こうして僕はバイトとして雇われることになった。土日にシフトを入れ込むことが出来た。明日から就労できる事実は素晴らしい以外言葉が見つからないない。
お姉さんの名前は桜井裕子というらしい。店長を務めており、祖父祖母のお店を受け継いでいるんだとか。
帰りの途中、雨がぬかるんでたのが原因だったのかもしれない。視界も悪くて大雨だった。
僕の背丈半分もない小さな子供が、信号が赤だというのに無視して走って通ろうとしいた。こちら側の手前車線が引き詰め合っていて死角になっている。反対から来る車のことなぞこの子は気にも留めなかったんだろう。
僕が気付いた頃には、時すでに遅し。静止をかける前にその子は轢かれそうになっていた。
僕は迷いもせず魂を稼働させた。
僕の世界は丸玉の雨粒がゆっくりと動く世界へと変貌する。人間の身で無理矢理神の如き奇跡を起こしたせいで、身体がとてつもない拒絶反応を起こしてくる。
今にも頭が弾けそうだ……!!全身に巡る不快感をグッと堪えて、僕はカッパ笠を着た子を対岸まで移動させた。
一瞬だけ使っただけなのにだ。口から血がドボドボ落ちてくる。
これ以上やるとまずい!すぐに駆動を解除した。
解除と同時に、不快感に耐えられず俯いて吐瀉物を撒き散らしてしまう。
涙目になった瞳で子供を見ると、5体満足のドン引き姿でこちらを見ているじゃないか。
良かった。とりあえずはほんとに。
「君、大丈夫?」
安否を確認すべく、声を掛けた。
でも、感謝もなく労りもなく子供は逃げ去っていった。
いきなりの出来事で怖かったんだろう。
僕は雨の滝に打たれ続ける。ヨロヨロと立ち上がって、倒した自転車を起き上がらせ、散乱したものを片付けていった。
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