ザリガニ勇者

 

 翌日、お金もないので、いつも通り食料探しの一環として公園でバッタ探しとセミ探しに興じ、河で食べられる野草を漁っていた。


 驚くべきことにサボテンが河口付近に生えていて、ネギや小さな人参にも出会えた。



 虫かごと網で早めの収穫祭だ。


 僕の遥か彼方の記憶では、小学校低学年の頃が最後だった。



 バイト先も早く決まってお金もあれば、収穫したものをママチャリの籠に入れるなんてことはしない。あの頃の僕はたぶん純粋無垢な少年だった。


 今はどうだろうか。少なくとも、食べる目的で虫取りする今の僕に純粋さはないね。


 川でデートしていたカップルは、血眼になってザリガニ取りに励む僕のことを見るなり逃げていった。


 あっちの世界じゃ、僕は魔王討伐やら国家転覆やら職長やってたんだぞ!って声高らかに言ってやりたかった。が、警察と追いかけっ子しては意味がない。


 ……なんでこの僕が市民の目をビビらなあかんのだ。

 

 を使うのは最終手段として、魔術全般なーんにも使えないのは痛すぎた。


 強者から社会的弱者にバックトゥザフューチャーするだなんてアンビリーブル過ぎる。



 



 みんな何してるかな…仲間の転移者。西園寺京、南淳紀、東田浩介、彼らも戻ってきてるはずなのに全く音沙汰ない。


 仲間であるから多分見捨てはしないだろうが、このままじゃ見つかる前に僕が飢え死にしそうだ。

 

 

 少なくとも……ヒロの存在がなければ僕はとっくのとうに飢え死にしてたな…盗賊してて良かったと今初めて思う。

 

 




 自転車には次々と僕の糧となるものが積まれていく。さて、虫類は寄生中の宝庫だから糞抜きしないと。


 あと、野草類は洗わないと食べれないから公園の水道を借りよう。

 怪訝な顔をして見ていく人が多いが僕だって生きるためなんだ。


 ちょっとうっとおしい。  


「あれ、悠人か?なにしてんだよ」


 声をかけられたので振り返ると、そこには腕の細い男子と顔だけは良いポニテの女の子がいた。


 いや、どっちの名前は忘れた。というか知らない。


「えっと。こんにちは。」と、とりあえず挨拶をした。


「いや、どういうことだよ」


 挨拶から返ってきたのは的確なツッコミ。口を梅干しのようにすっぱくした反応だ。


 確かに意味がわからない。挨拶の必要性は分かるけど、僕にも分からない。


「いや、ご飯集め?うん、食べれるものをね。ちょっとばかし」


 ありのままの回答をすると彼らは呆気に取られている。そういえばアリって食べられるかな。向こうでは散々お世話になったのでここでもそうしたいところ。


「お、おおぅ。そうか」


「うん、そうだ!その通りだ」


 名前の分からない彼等は後ろに足を引いてる。顔からも得体の知れない生き物に話しかけてしまった戸惑いが伺える。


 キッパリと僕が言い張ると、彼は用事を思い出したとか言って立ち去っていった。この公園における食物連鎖の頂点として君臨した瞬間だった。

 でも、名前ぐらいは聞いておくべきだったな。

 




 しばらくして、夕暮れとなり空腹感が募ってきたので、食料を持ち帰るために公園を出ることにした。汗をわりとかいてしまったので、水道で水浴びをしていたら、またしても誰かに声をかけられた。


「え、うそ……兄さん?」


 ポツリと細い少女の声。振り向くとそこには僕がよく知る人物がいた。二重のまぶたから縁やままつ毛がくっきりと見える。

 ああ、環。お前を忘れたことはない。


 いやはや、こんなところで妹に巡り逢えてしまうとは思わなんだ。

 懐かしさからマジマジと少女の顔を見てしまう。彼女の返答は眉間にシワを寄せた睨みだった。そっか。仕方ないよな。


 僕は恨まれるだけのことをしたんだし。


 最後に見た姿は髪が長かったけど、今はショートセミで前髪をピン留めで止めているんだな。


 似合ってると伝えるとよく不機嫌になるのを今でもしっかり覚えている。


「お前、大きくなったなあ。ご飯ちゃんと食べてるか?これから夕飯にするけど来るかい?ザリガニが沢山取れたぞ、ほら。今日は、ザリチリだからうめえぞぉ」


 籠に敷き詰められたザリガニを見せて一匹取り出す。ウニウニ動くそれを持って近寄ろうとすると、妹はなにも言わず後ずさる。


「そっか。僕はもう行く。ごめんな。また今度ゆっくり話したいな。それじゃ」

 

 妹との再会を通じて、僕は初めて自分がこの世界に戻ってきたことの実感が湧いた。

 正確には罪悪感だ。

 

 謝りたかったのは山々だった。でも、それをするのは無責任過ぎる。


 人生を償うにはどうしたらいいのか。奪われたものを贖わせるにはどうしたらいいのか。そんなものは形あるお金でしか解決できない。


 彼女からすれば僕の謝罪なんていらない……これからはもっとお金が必要になる。


 ガタガタなる自転車に荷物を整理して乗り込む。妹が送る視線には気が付いていたけど、僕自身の疲れもあったし、算盤弾きで忙しい。



 僕が踏み込んで良いことはない。家に帰るとしよう。



──────────────────────


あとがき




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