怪文書


 郵便受けを開けると、今日もその封筒が入っていた。

 うんざりしながら、なんとなく手にとってしまう。

 その封筒には、差出人も書かれていないし、切手も貼られていない。

 そんな真っ白な封筒の中に入っているのは、手紙だった。

 赤い金釘文字で書かれた、はっきり言うと、怪文書。

 ここ最近、毎日それが入っている。一体誰がなんの目的でやっているのか。

 手紙に書いてある内容は、毎回変わらない。

 気をつけろ、災いが起こる、備えろ。そんな内容だ。

 一体何の意味が有るのだろう。

 何に備えれば良いのやら、さっぱり分からないではないか。

 そう思って封を開ける。

 今日は内容が違った。

 

 備えろ。

 後三日だ。

 

 今までと違い、具体的な日数が書いてある。

 なにか変わったことが有るのだろうか。しかし薄気味悪い。目を通した後、昨日までのものと同じようにくしゃくしゃっと丸めて、部屋の中に入ったゴミ箱に捨てた。

 翌日。仕事から帰ってきて、郵便受けを開ける。

 今日もまた内容が変わっている。

 

 備えろ。

 後二日だ。

 

 その翌日は。

 

 備えろ。

 明日だ。

 

 明日、一体何が起こるというのか。気になってしまう。気になってはしまうけれども、何をすればいいというのか。備えることなんて出来るわけがない。

 気味は悪いが、何も出来ない。

 いや、こんなもの、いたずら以外の何だというのだ。

 翌日。

 同じように仕事から帰ってくる。足を止めて、郵便受けを開ける。当然のように封筒を取り出して――

 その時だった。

 ずどん、と音がして、目の前に物が落ちてきた。見るとそれは、人間だった。ぐしゃりと潰れて、人の形を保っては居ないが、それは間違いなく人間、女の体だった。

 隣のマンションから飛び降りて、風に流されてここまで落ちてきたのだろうか。悲鳴を上げそうになりながら、携帯電話で救急と警察に電話をかけた。

 ……一通り処理が終わって、部屋に戻ってきた。

 眼の前に落ちてきた女は即死だったらしい。隣のマンションから飛び降りたのも間違いない。遺書があったとのことだ。

 遺書、ということで思い当たって、例の封筒を開けて、中身を読んだ。

 いつもと同じ赤い金釘文字で、そこにはこう書いてあった。

 

 巻き込まなくて良かった。

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