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ゆめうめいろ
第1話
「好きです!付き合ってください!!!!」
無限にも広がる用に見える海岸。
燦々と照りつける太陽。
そんな中人類。
いや、世界最強の生物の告白の声が早朝の海岸に響き渡った。
そしてその答えに対して相手の女性はこういった。
「え、えっと……ごめんなさい。私……普通の人が…よくっ……て……」
「え……」
男は自分の体を見た。
筋骨隆々としたからだ。
手を握れば簡単に鉄を撚ることのできる万力の握力に一般英雄何人分もの実績。
少なくとも普通と言える肉体も実績もなかった。
「そん……な……」
今まで一度も地に伏したことのなかった男は初めて膝から崩れ落ちた。
「それじゃぁ……じゃあね!」
女性は心なしか足早にその場を去っていった。
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打ちひしがれた男の周りに一人の友人が駆け寄った。
「ははっ、何だよあのお手本みたいな振られ方。」
男は何も言わなかった。
「おーいメルシス。世界最強の生物さんよ。」
男はまた何も言わなかった。
「おーい。……ほんとに凹んでやがるこいつ。それにしたって普通の人がいいって……なんだそりゃ。普通がいいんだったらいっそのことお前普通になってみりゃいいんじゃねーの?」
冗談でいったその一言に男の目、メルシスの目は輝いた。
こうしてメルシスは。
努力の才能でここまで勝ち上がってきた男は普通になることに努力し始めた。
=====
男が馬車の何倍ものスピードでどこかに走り去っていくのを見ながら友人の男は考えた。
「それにしてもよぉ。あいつもなんで断りやがったんだ?」
男は昔のことを思い出した。
「あいつ別に……まぁちょっと行ってみるか。」
=====
ヘルメスは普通になるためにまず最初に自分にある名誉を捨てた。
もちろんのごとく世界最強の生物が自分の地位を捨てるといえば各国に同様と激震が走る。
もちろんそれに快く首を縦に振る国はなかったが、世界最強の男が暴れ出しでもしたらどんな兵器を持ってしても止められないことをわかっていたため渋々最後にはOKを出した。
しかし、ヘルメスの住んでいる国。
メルス王国だけは首を縦に振らなかった。
メリス王国はヘルメスの武力を牽制に使っており言うなればヘルメスの庇護下で栄えてきた国であった。
ヘルメスに普通になられてしまってはそれ以外に武今までヘルメスに頼り切り力を持たないメリスは格好の的となってしまう。
それだけはどうしても避けたかった。
そして話は平行線となり会議が開かれることとなった。
会議の前日。
「クソ!このままでは普通になれない!」
ヘルメスは明らかに怒っていた。
ただ、部屋にある食器や家具は何一つ壊れておらずその力を乱暴に使うことはなかった。
ヘルメスは世界最強の生物でありそれと同時に人格者であった。
たかが皿一枚家具一個ではあるが感情が高ぶっているときに何かを叩いたり地団駄を踏んだりすることもないというのは十分人格者足り得るだろう。
「どうすれば……国は俺がいないから武力がないんだろう?……それなら武力を作ればいいではないか。」
世界最強の生物というものは残念ながら脳筋であった。
=====
「それでは―――」
こうして一人対国とで会議が行われた。
「早速ではあるが我が国の結論から言おう。そなたの地位や名誉をなかったことにするということは我々にできない。私達だって嫌がらせではないということはわかってくれ。」
「あぁ。もちろん。それじゃ王様、ついてきてもらえますか?」
「え?……も、もちろん。」
そう言うとヘルメスは言うがままに国の重要な人を連れてあるところまで来た。
「これは……」
その場にいたものたちはその光景を見て絶句した。
そこには各国の兵器が何個も何種類も大量に並んでいた。
「ヘルメス様これは……?」
「これは?なにも兵器ですが。」
差も当然かのようにそう言い放った。
「そういうことではなくですねどうやって用意したのかを……」
「あぁ、そういうことですか。いままでのお礼として昨日の夜各国の魔物を討伐してきたのですよ。そしたらこんな兵器をくれたんです。」
「あーなるほど……ん?昨日の夜?昨日の夜にいくつもの国家間を移動してその上魔物を討伐したのですか?」
「はい。そうだが。」
「……わかりました。」
長年共に過ごしてきた王はそんなことではもうどうとも思わないようになっていた。
「ですがそんな兵器を我々がもらって大丈夫なのですか?」
他国の兵器を横流しにしたとなれば心象は良くないだろう。
もちろんそれに対する考えもあった。
「あぁ。多分どの国も僕との縁切り料としてその兵器くれたのだと思うので大丈夫ですよ。それにそんな兵器僕使えないですし。何なら兵器同士での戦いならこれらを使えばだいたい勝てると思います。」
「……まぁそういうことなら。まぁ……」
「だめですかねぇ?」
ヘルメスは王をにらみつけるようにして言った。
「……はい。わ、わかりました。それではヘルメス様の地位、名誉をなくすことを認めましょう。」
「ありがとうございます。」
「それで、一つ聞きたいことがあるのですが……なぜ急に地位や名誉を?なんのメリットが……」
「メリット?そりゃありますよ。僕は普通にならないといけないんです。」
そう言うとヘルメス以外が首を傾げた。
「普通になってどうするのです?」
「そりゃ、告白するんですよ。」
ヘルメス以外が更に首を傾げた。
「告白って……なにか重要なことでもするのですか?
「もちろん。好きな子に告白するんですよ。」
ヘルメス以外の首が180度くらい曲がりそうになった。
「つまり色恋のためにここまでやったと?」
「……何か?」
「い、いえ。」
ヘルメス以外その場にいたもの全員の首が折れそうになって会議は終わった。
=====
次にヘルメスは体をどうにかしようと考えた。
まず自堕落な生活をしてみた。
いざ自堕落な生活をしてみるとどうにも体に合わずむしろ体を壊した。
このままではいけないと思って少しは鍛えることにした。
だがそうして一週間が立った頃、ふとヘルメスは考えた。
こんなに自分に甘くして良いのだろうか。と
自分に甘くしてフィルスは自分に振り返ってくれるのか。
ヘルメスの出した答えは否だった。
その日からヘルメスは自堕落な生活をすることにした。
そして一日中家の中から動かない生活が始まった。
二週間後には目に見えてわかるほどヘルメスは弱体化していた。
何なら命の危機に瀕していた。
しかしそんな状況になってもヘルメスは自堕落な生活をやめることはなかった。
なぜなら彼は努力の才能の塊だったからである。
そうして一ヶ月が立った頃……あんなに筋骨隆々としていた体はある程度一般人の範囲内くらいには収まっていた。
ある程度。
筋力はまだ一般人とは言えないが前ほどではなくなった。
ただ、顔色は病人のように青くなっていた。
しかし、明らかに前よりは普通に近づいていた。
こうして準備は整った。
ヘルメスは死にそうになりながら、フィルスのもとへかけていった。
=====
ヘルメスが玉砕した日の夜。
その玉砕を1番近くで見ていた友人は世界最強を初めて倒した女の元へと出向いた。
「おーいフィルス、いるかー」
そう言うと中から黒髪に青い目を持った女が出てきた。
「いるけど……何?」
「どうもこうもない。単刀直入に言うぞ。なんであいつを断ったんだ?あいつ今何しでかすかわかんないぞ?」
「…………とりあえず入って。」
彼女の部屋に入ると椅子に座らされ話が再開した。
「それでなんでなんだ?別に俺はお前に望まないことをさせようとしてるんじゃない。ただ、俺は聞きたいんだ。お前アイツのこと……」
「だって……」
「傾国の美女どころか国を傾かせようとしてる女さんの好きな人が普通な人?そんなわけないだろ?おま……」
その後を言わせずにフィルスは捲し立てた。
「だって!びっくりしちゃったんだもん!急に呼ばれてなにかと思えば告白!私ずっと好きだったんだうよ?小さい時からずっと。しかもヘルメスあんなにかっこいいし肩書もあるからとうの昔に彼女なんていると思ってたしそれに…………」
その後何分も彼女はヘルメスについて語った。
それを聞いている間、友人の男は思った。
(まぁ、なんだヘルメスよ。お前は幸せだよ)
と。
=====
ある日フィルスがドアを開けると青い顔をした少し周りよりもガタイのいい青年が訪ねてきていた。
だがたとえ少しくらい見た目が変わっても彼女にはわかった。
彼がヘルメスだということを。
「ヘルメス!どうして、というかその体……」
「フィルス!俺は普通になったぞ!」
「えぇ?普通って……なにが?」
困惑が困惑を呼ぶ中ヘルメスは説明を続けた。
「地位も取っ払ったし体もできるだけ普通にした!これでどうか!」
そこまで説明されてフィルスは理解した。
普通ならそんな説明だけでわかるはずもないが長い間ヘルメスと過ごしている彼女にはわかったのだ。
彼はあれから自分のために普通になったのだと。
「え?あぁ、そう。そうなの?そうだったのね。えぇ!もちろんいいわ!合格よ!」
もちろんフィルスはそんな傲慢な性格ではない。
色々なことが急すぎてテンパっているだけで。
「ッ!ほんとうか!」
ヘルメスはフィリスに抱きついた。
その光景は英雄の。
一家の主としての、フィリスにとっての英雄の登場を示していた。
h ゆめうめいろ @yumeumeiro
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