第27話 中型種巡洋艦型との戦い2
『マスター、中型種巡洋艦型との予想交錯ポイントまで残り十秒』
アルマの騎体、XIKU-25Cは減速しながら大きくJの字を描くように時計回りで機体を右に滑らせながら暗い穹を進んでいた。
「ふぎぃぃ~、こ、腰ミノ! 左! 左へのGがエグいんだけどっ!」
『ハミングバードです。我慢してください。ファイト、マスター、えいえい……あ、三・二・一、エンゲージです』
「……なんかウチのAIが私に冷たい件について!」
いつも通り(?)の掛け合いをハミングバードと続けながら、アルマの目と手は
予定の地点に近づくにつれて密度を高めていく小型種はとめどなく奥の空間からアルマに狙いを定めて突っ込んできていた。
普通のパイロットなら全神経を使って極限まで高めた集中力を削っている状況に、外から聞いたら自身のAIと気軽な感じで掛け合いをしている小さな少女のような女性。
彼女はそれでも額に汗の粒を浮かべながら、小刻みに背部スラスターと腰部スラスターを動かして騎体の進路を細かく調整していた。
そんな彼女の騎体の数m横を多くの小型種突撃型がビュンビュン通り抜けていく。
広大な宇宙空間で数mなどほぼ無いに等しく、普通の
そして、アルマの耳に届いたハミングバードのカウントダウンが響き、それがゼロを刻んだ瞬間――
暗い宇宙空間に光があふれた。
『中型種巡洋艦型からの攻撃です! マスター、回避をしてください!!』
「や、やってるよぉ! 腰ミノ!」
『ハ・ミ・ン・グ・バ・ー・ド、です!』
光が見えた瞬間。
アルマは左右の操縦桿をガクッと横に倒して、左右のフットペダルを小刻みに踏み分ける。
その挙動を正確に読み取ったXIKU-25Cは左手の先を軸にグルんと回りながら光の束を回り込むように避けていく。
光の正体は中型種巡洋艦型の陽電子砲。
直径数mの殺人光線は回避するアルマの騎体には直撃することは無かった。
が、高い耐熱性能を誇る塗料を施されたXIKU-25Cの表面は装甲板ごと僅かに溶けており、その威力が垣間見れる。
『中型種巡洋艦型の位置情報に若干の誤差を確認』
「じゃ、若干かなぁ……結構離れているような」
『……宇宙空間なら数十kmなど若干です。現在の速度でなら約百秒程で追いつけます。頑張りましょうマスター』
その間にもアルマに襲い来る敵の攻撃は熾烈を極めていた。
遠く先に、光学センサーが最大倍率で捉えた豆粒ににも満たない中型種巡洋艦型からは陽電子砲はひっきりなしに届き、彼女を近づけさせまいとする
もちろん牽制用といってもその中の一発が当たってしまっては
「え~。あの中に突っ込むのかぁ」
『なら、しっぽを巻いて逃げ出しますか? マスター』
「ありゃ。それは非っ常~に魅力的な提案だねっ、腰ミノ君! でもね……」
『ハミングバードです。スラスターのリミッターを解除します。限界時間は六十秒ですのでお気をつけ下さい』
少し面倒くさそうな顔をしたアルマの真意を汲み取ったハミングバードは騎体に施されていたリミッターを解除していく。
その瞬間、騎体の腹部に収まっているジェネレーターから獣の
「ふっふっふ。六十秒なんかいらいよ。バーッと行って、ガーって終わらせるんだからっ」
不敵に笑うアルマは一気に両足のフットペダル踏み込む。
その瞬間。
XIKU-25Cはその場から消え去った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中型種巡洋艦型が放った多様な光の奔流の中を一騎の流星が踊り狂う。
背中から吹き出す白い炎の筋はもはや爆発しているといっていいほどの熱量を示し、時に鋭角に、時に緩やかな曲線を描きながら踊り狂いながら迫ってきていた。
その
宇宙に咲く細かい花火のような光のシャワーは、しかし、迫り来る
計算上では何度も撃墜判定が出ているはずの小さな人型の機械はなぜ未だに健在なのか? と。
このまま攻撃を続けて敵の進行は止められるのか?
指揮下の小型種をけしかけ……いや、それはさっきからことごとく躱されていて無駄だろう。
しかし
あぁ。それでも自分が待ち望んだ相手と一秒でも長く一緒にいたい。
だって――
だって。この数分の
電子回路に様々な情報を流しながらその一角のほんの小さな空き領域を使って、そのように考えていた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「くぅぅ、や、っぱり、きっつい、なぁ」
『頑張ってください、マスター』
リミッターを解除した騎体の中でアルマがフットペダルを踏みしめた瞬間。
各スラスターから暴力的な推進力が彼女の背中を襲った。
それは高性能な補助AIであるハミングバードが制御する擬似重力発生装置を以ってしても打ち消すのが不可能なほどの挙動。
スラスターから溢れる青白い炎はさらに高温になり、既に白い光の筋に変化していた。
傍から見ればそれは空を駆ける一筋の流星。
騎体の大きさに不釣り合いな程巨大になった推進力の炎に押されて、アルマのXIKU-25Cは中型種巡洋艦型に向かって進んでいく。
もちろん向かう先に鎮座している中型種巡洋艦型も黙ってアルマの接近を許すはずもなかった。
先程とは比べ物にならない攻撃の嵐がアルマを襲う。
光の束に加えて、誘導性のある小型の飛翔物、人類側がミサイルと呼ぶ代物まで繰り出し、中型種巡洋艦型が周りに
しかし、その必死の攻撃をアルマの騎体は嘲笑うかのように簡単に回避をしていく。
アルマが操縦桿を倒せば先程と比べものにならないレスポンスで騎体を横に滑らせていく。
無表情に、しかし、決死の覚悟をにじませながら突っ込んでくる小型種突撃型をヒラッヒラッと躱し。
数えるのも難しいほどの誘導型飛翔物はあまりの機動性に目標を見失って迷走を始める。
そして、無数のレーザー機銃の弾幕の光の筋。その切れ目の間に騎体を滑らせていく様は常識では考えられない光景だった。
『マスター! 活動限界まで残り三十秒!』
「う、う、うひひひひ。らい、ひょうぶ、らいひょうぶでしゅ!」
豆粒に見えていた中型種巡洋艦型の姿は、既に特徴的な半分に切った円錐状の形状をアルマの目の前に現していた。
攻撃は既に常人では対応のしようのない速度でアルマを襲っていたが、彼女はそれを見て、そして全てを躱していく。
その代償として色々な角度から常に襲い来る強烈なGの中で、アルマは若干危険な話し方をになっている。
あまりに過酷な環境にアルマのちいさな鼻からは二筋の赤い血が流れ出し、ヘルメットの首の辺りに少しづつ溜まっていっていた。
それでも彼女は、ただの一発も敵の攻撃を喰らうことなく進んで行っていたのだった。
『中型種巡洋艦型との接触まで五秒!』
「お、っけぃ! 腰ミ、ノ! ヒュパ、イヒュ、へんはい!――ほうぶにひゃっ、はんしゅりゅ」
『ハミングバードです。足裏スパイク機構を展開。敵、中型種巡洋艦型後部に強制着艦します』
XIKU-25Cの脚部が前にでる。
中腰の姿勢のまま、中型種巡洋艦型に向けた足先が変化して突起物が現れた。
そして、殺人的なスピードのまま。
アルマの騎体は中型種巡洋艦型の後部の装甲板に自身の足裏のスパイクを埋め込んだのだった。
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