番外編25 とある小妖精の恋物語10(全10話)



(視点変更 フェアリー小隊)


 ブランソンが率いるフェアリー小隊がパトリックを追って、リリーがいるであろう宙域に向かっている時。


 唐突に小隊員のヘルメットに司令部からの情報が響き渡った。



  

 ピピッ


『司令部より集結中の全ユニットへ。朗報です。敵艦隊の中枢である戦艦と空母が撃沈されました!』




 それは小隊にとっては良い情報だった。


 敵の艦隊が何かしらの攻撃を受けたという事はジョージとリリーが無事である可能性が高まったのだから。


 しかし次の報告で全員が顔を強ばらせる事になる。



  

『敵の中枢を撃破したのはです!』



 

 その報告に先頭を駆けているブランソンの口から思わず「えっ!?」と声が漏れた。

 

 当たり前だがフェアリー小隊とは自分達の事だ。


 しかも十二騎のうち、自分を含めて九騎はそばにいる。


 しかしその疑問も次の報告で簡単に氷解する事となった。

 


 

『現在までに集結済みの部隊は即座に進軍を開始してください。敵の艦隊に大打撃を与えた英雄たる『』を失う訳にはいきません』




 報告の中にあった『彼女』という言葉。


 それはリリーとジョージのことを指している事はブランソン達には瞬時に分かった。


 しかし、二人なら『彼女達』と言ったはずだ。


 司令部からの報告が正しいのならジョージかリリーが敵艦隊と遭遇し、艦隊の主力たる戦艦と空母を撃沈してしまったようだ。




 そこでブランソンは司令部のアクセスポイントに小隊長権限でリンクして戦場の広域情報を拾い、敵艦隊周辺のマーカーを確認する。



 

 その瞬間



  

「――!? 全騎最大戦速! そのまま戦場へ突入するぞ、マジで!!」


 ブランソンは小隊員に向かって怒鳴るように指示を下した。 


「「「「「「了解!!」」」」」」


 それに間髪入れずに他のパイロット達が応える。




 敵艦隊の位置する宙域まで残り約二十分。


 フェアリー小隊はさらに速度をあげると矢のような編隊のまま戦場へと進んで行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 司令部からの報告を聞いてから十分後。


 パトリックは騎体の中で盛大に舌打ちをしていた。


 今はブランソン達から数分先の距離を進んでいる彼は通信モニターを睨むように凝視していた。




 彼が見ているモニターはブランソンが司令部から取り寄せている戦場のリアルタイム情報が映っている。


 敵を示す赤色のマーカーが溢れるその戦場の中を縦横無尽に動き回る味方の青色のマーカー。


 その青色のマーカーには『フェアリー10リリー』の文字が踊っている。




 それを見ているパトリックは更に盛大な舌打ちをした。


 なぜならフェアリー10の後方でさっきから微動だにしない青色のマーカーがあったからだ。


 そこには『フェアリー2ジョージ』の文字があった。

  

 そしてフェアリー10のマーカーは敵の中を動き回っているが、それはフェアリー2に敵を近づけないような機動である事は一目で分かった。

  

 だから、それがパトリックには気に入らなかった。




『もし、俺っちの『仲間達』がアンタのせいで死ぬような事があったら――アンタを絶対に許さねぇ。……その前に軍を辞めろよ。お嬢さん?』



 

 そうリリーに吐き捨てた過去の自分。


 あの時は彼女のせいで誰かに被害が出ると思うと気が気では無かった。


 だから彼女をわざと威圧するように言ったのに。



 

 しかし、結果はどうだ?



 

 自分の大切な『仲間』のジョージを背に、あのお嬢さんは必死に戦っている。


 戦艦と空母を墜としたのもきっと彼女だろう。


 根拠は無いが確信に近い思いがパトリックにはあった。


 


 あの時、自分が小隊からリリーを追い出さなければ。


 一緒に小隊ごと基地に帰還していれば。




「――チッ!!」

 

 彼は自分自身に非常にイラだっていたのだ。





『あーしはアルグレン帝国宇宙軍『フェアリー小隊』所属、小妖精ピクシーリリー・マルレーン! いざ、推して参る!!』


 その時、国際共通通信帯で周りの宙域に響き渡るリリーの声。


 その声を聞いたパトリックの背筋がゾクッとする。



  

 それは“覚悟”を決めた者の声だったからだ。



 

 過去の戦場で何回も聞いてきた、“死ぬ覚悟”を決めたパイロットの声だったからだ。

 

 彼は無意識に限界まで踏み込んだフットペダルをさらに踏み込んだ。



 

 ――そして




 パトリックの騎体の光学センサーがギリギリ戦場を捉えた時、リリーの騎体は大勢の敵に囲まれていた。


 ボロボロに傷つき、火まで吹いているリリーの騎体。



 

 その光景を見たパトリックは目を見開くと、すぐさま自身の持っているロングレンジライフルを構えて、ろくな照準をつけないまま発砲した。


 敵との距離はまだ開いていて、光学センサーもおぼろげな像しか結んでいない。


 しかしそれでも。


 放たれた銃弾は綺麗な光跡を宇宙に描きながらリリーの真正面にいる敵に迫り――




 見事にコックピットの真ん中を貫いてみせたのだった。




  

「……俺っちの『仲間』をよくもいいようにやってくれたっすね……」


 突然の味方機の爆発にうろたえる周囲の敵機達。


『た、隊長機が!』


『敵!? 一体どこから!!』


『見つけた!!――ってあんなところからなんて!?』


 そして一機の機械兵士マシーナクークラがパトリックの方を指さして、全機がそちらの方を見た。




「てめぇら全員ひき肉にしてやるっすよ!!」



 

 騎体の中でパトリックが吠えるとIKU-21の頭部センサーが青く光り、続けてロングレンジライフルから高速弾が立て続けに放たれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ブランソン達が戦場に到着した頃には、敵は既に十機を下回っていた。



 

『くそっ! さっきの敵より遅いんだ! なんで落とせない!?』


『僕達の攻撃だって当たってるのに!!』


『頭に赤いライン……そ、そんな。奴は――』



 

 敵機に包囲されながらロングレンジライフルを撃ち続けるパトリックのIKU-21は、装甲に多くの傷を刻みながらも次々と敵を葬り去っていた。


 その鬼気迫る姿にフェアリー小隊の仲間でさえも一瞬、近寄るのに躊躇ちゅうちょしてしまう。



 

『あ、あぁぁ……ま、まさか敵のエースの『赤帽子クラースヌイシャプカ』がどうしてこんなとこ、ギャア!!』



 

 そして最後の一機が爆散すると、やっとパトリックは動きを止める。


 その隙にパトリックの横にブランソン達が騎体を滑り込ませた。


フェアリー11パトリック! 騎体を止めるな、マジで!」


 そして、ブランソンは装備していたマシンガンを連射すると自分達に迫っていたミサイルを撃ち抜いてみせたのだった。


「っ!?」


 パトリックは確かに機械兵士マシーナクークラを全滅させた。


 しかし、フェアリー小隊の周りには無傷の敵の巡洋艦や駆逐艦がまだ多くいたのだ。



 

 敵の艦艇は味方の機械兵士マシーナクークラが飛び回っている戦場に下手に手出し出来ないでいた。


 しかし、全滅した今となってはそのかせは完全に外れてしまった。


 全ての艦艇がフェアリー小隊を囲むように回り込むと全ての武装を忌々しい敵に対してゆっくりと合わせ始めていた。

 

 今のフェアリー小隊は機械兵士マシーナクークラ戦を想定した装備しか持っていない。


 対艦艇用の重装備をしていない彼らにとって多数の艦艇に囲まれているこの状況はとても危うい状況だったのだ。







 そう、この時までは。







『ひゃっはー!! パトリックの兄貴の前だ!! 全員気合い入れていけよぉ!!』


『『『『『『ガッテンだ!!』』』』』』


 突如通信に響き渡る陽気な男達の声。


 その声と共に、今まさに砲塔をフェアリー小隊に向けて砲撃を開始しようとしていた駆逐艦が爆発を起こしてしまう。



 

「な、なにが……」


 突然の出来事に敵からの攻撃に身構えていたブランソンが慌てて周りを見渡すと、こちらに向かってくる十二騎の機動騎士ガーディアン達が目に映る。


 全騎が対艦用の巨大ミサイルを肩に装備した重装備の機動騎士ガーディアン達だ。



 

『兄貴!! お待たせしやした!! ゴールデンコームス小隊全騎ぶっぱなせ!!』


『『『『『『汚物は消毒だー!! ひゃっはー!!』』』』』』


 そして、その機動騎士ガーディアン達は肩から巨大なミサイルを計二十三発を敵艦目掛けて放った。




 連邦軍艦艇はフェアリー小隊に合わせていた照準を迫り来るミサイルへと変更し対空兵器で迎撃を開始する。


 駆逐艦なら一発で沈めてしまう巨大ミサイルなのだ。


 必死な迎撃で一発、また一発とミサイルが艦艇に届く前に爆発していく。


 そして全てのミサイルが迎撃された時だった。




『目標前方の連邦軍艦艇! 主砲三連射。撃てぇぇぇぇえええ!てぇぇぇぇえええ




 近づいてきていた機動騎士ガーディアンの更に後方から光の筋が何条も伸びてきて、連邦軍の艦艇に突き刺さったのだった。




 目まぐるしく変化する状況に唖然としていたブランソン達がレーダーに目を向けると、そこには戦場に突入してくる多くの帝国軍の部隊が映っていた。


『ふんっ! こちら第一二〇駆逐艦隊。暇だったから助けに来てやったわよ! 感謝しなさいよねっ、パトリック!』


『ぎゃはは、姐さん素直じゃねぇな。さっきまで誰よりも心配してた癖に。ゴールデンコームス小隊参戦するぜ』


『お前ら遊ぶなら帰れよ――コホン。こちら第二十一Sフィールド方面防衛艦隊。遅くなってすまないフェアリー小隊』


『さすが伝説のフェアリー小隊だな! 第一独立遊撃機動翔機ファルケン大隊、全機突入! フェアリー小隊の援護を開始する!!』


『全騎フェアリー小隊に遅れをとるな! 現地軍の意地をここに示せ!! フェイト機動騎士ガーディアン大隊、攻撃開始!!』


『おーおー、みんな張りきっちゃって。って、伝説のフェアリー小隊の援護だ。俺達第三遠征打撃艦隊もいっちょやりますか!』


 大小様々な艦艇と多くの機動騎士ガーディアン機動翔機ファルケンの部隊がそれぞれの武装を放ちながら戦場へと突入していた。



 

 突然の援軍の登場に焦ったのは連邦軍艦隊だ。


 すでに制宙権を維持する為の機械兵士マシーナクークラは全滅している。


 初めに切り込んできた機動翔機ファルケンの部隊を足止めする味方など誰も存在しておらず、その機動に翻弄されては多くの艦艇がその身にミサイルの雨を食らってしまう。


 その対処に追われる彼らを嘲笑あざわらうかのごとく殺到する帝国軍の艦艇からの砲撃に、駆逐艦や時に巡洋艦が横っ腹に痛撃をくらい次々と沈んでいく。


 そして、トドメとばかりに機動騎士ガーディアンが傷ついた艦体にへばりつき、対艦用の重武装を容赦なく叩き込んでいった。



  

 まさに一方的な蹂躙劇がフェアリー小隊の前で繰り広げられていたのである。




「す、すげぇ、マジで」


 その光景を呆然と見上げているブランソンの目の端で動く影があった。


 パトリックの騎体だ。


 パトリックは自分の騎体を火を吹いているリリーの横に付けると、コックピットを開けてパイロットスーツ一つの状態でリリーの騎体へと飛びつく。



 

「フェアリー11! フェアリー10の騎体は危険だ!! すぐに引き返せ!! マジで!!」


 リリーの騎体は全身がボロボロになって各所から火や煙が出ていた。


 いつ爆発してもおかしくない危険な状態であることは明白だった。



 

「ここまで一人で戦ってた『仲間』っすよ!! 回収部隊を待ってたら絶対間に合わないっす!!」


 ブランソンからの通信をコックピット横の操作盤を叩きながら応じるパトリックは中のボタンを操作するとリリーの騎体から少し離れる。


 次の瞬間、リリーの騎体の胸部装甲が弾け飛んだ。


 それはパイロット保護の為の緊急装甲排除装置だった。



 

 そして開かれたコックピットから勢いよく吹き出る煙をかき分けてパトリックが進むと、シートの上で力無くもたれかかっているリリーの姿があった。


 ベルトをガチャガチャと強引に解除するとパトリックはリリーの体を持ち上げる。


 既にシート裏から炎が吹き上がり一刻の猶予もない。




 そして、リリーを正面から抱き上げる格好のパトリックは腕に力を入れてしっかりと彼女の体を固定すると力いっぱいコックピットの縁を蹴り上げた。


 次の瞬間にリリーの騎体から激しい炎が吹き上がって、一瞬でコックピットを火の海に変えてしまう。 




「こちらフェアリー11。フェアリー10の救助完了っすよ。ふぅ」


「ったく、無茶しやがってフェアリー11……しかし、よくやった! マジで!」


 その様子に冷や汗をかきながら自分の騎体に戻ったパトリックは、すぐにコクピットを閉めてリリーの騎体から離れていく。


 するとそれを待っていたかのようにリリーの騎体は核融合炉から眩い光を放ち爆発してしまったのだった。



 

「おわっ! マジ間一髪だったすね……うん?」


 片手で操縦桿を握っていたパトリックは、もう一方の腕で抱いていたリリーの方から何か声が聞こえて来る事にその時気づく。

  

「お、父様……お……様……あーし……あーしはぁ……」


 ヘルメットのバイザー越しに見るリリーは嬉しそうな、それでいて寂しそうな顔をしていた。


「さみし……かったぁ」


 そして閉じられていた目から一筋の涙がこぼれていた。




「……よく頑張ったっすね」



 

 その表情を見たパトリックは目を細めて優しい顔になるとリリーの体をギュッと力を入れて抱きしめ、操縦桿から離した手で優しく彼女の頭を撫でた。


「えへへ……」


 パトリックにヘルメット越しに頭を撫でられたリリーは子供のような笑みを浮かべると、一度パトリックの体に頭をこすり付けた後、力が抜けるようにくたっと完全に気絶してしまう。




「こちらフェアリー11。これより基地に帰還するっすよ」


「おう。フェアリー2はこっちで回収するから早く嬢ちゃんを病院に連れて行け、マジで」


 パトリックは騎体を操縦し、援護に来た帝国軍とボロボロの連邦軍との戦闘に背を向けて基地へと進路を取った。


 嬉しそうな笑顔を浮かべて気絶しているリリーをその腕に大切に抱きしめながら。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(視点変更 リリー)



 

 あの対連邦戦線への応援から一ヶ月が経ったよ。


 っていっても、あーしはあの戦闘の後ずっと病院にいたんだけどね。


 それで先週、帝国軍の再編が完了したって事でここ惑星SE-49S198の軍官舎に帰ってきたんだ。




 病院にずっといたから楽なんじゃなかったのか、って?


 と、とんでもなかったよ!!


 毎日偉い人達が病室に来てあーしは気が気じゃなかったんだ。


 どうやらあーしは最終的に戦艦一隻、空母一隻、巡洋艦三隻、駆逐艦九隻、機械兵士マシーナクークラ三一〇機撃墜の戦果が認められたらしくて、いろんな勲章を貰えたんだ。


 単日の戦果じゃ妖精小姫フェアリーを圧倒的に上回ったらしいよ、ふふん♪



 

 でも毎日押しかけてくる偉いさんを最後はキレたパトリックさんが全員追い返したりしてたけどね。




 あ、そうそう。


 ジョージさんも無事だった。


 あーしと同じ病室に入院してたんだけど一週間もしない内に退院して復帰しちゃったよ。


 でも、その間にいっぱいお話したし、いっぱいメイクを教えてもらっちゃった。にひっ♪




 それとパトリックさんもよく病室に様子を見にきてくれたんだ。


 最初は警戒してたんだけど、あーしによく笑ってきてくれるようになったんだ。


 ……どうやらジョージさんを助けた事であーしも仲間って認められたらしい。


 それは嬉しかったんだ。


 ――嬉しかったんだけど……

 

 パトリックさんが来た時は、いっつも後ろの物陰から気の強そうな銀髪の綺麗な女性があーしを睨んでいたのは怖かったよ!


 ぴぃっ!?


 


 そんなこんなでバタバタした日々を過ごしてたんだけど、やっと帰ってきたこの官舎であーしは玄関の前でウロウロしていたんだ。


「はぁ~、ちょいやっさぁ、ちょいやっさぁ~♪」 


 目の前にはダボダボのジャージの裾を折って、腕まくりした亜麻色の髪の毛の女の子がホウキを持って掃除をしている。


 ……てか、なんでアルマ隊長はいっつも玄関掃除してるんだろ?




 不思議そうにその光景を見ていると、あーしは「くしゅん」とくしゃみをしてしまっちゃったよ。


 この官舎がある地域も気温が下がってきていて、季節でいえば秋の中頃だったからだ。



 

 今日のあーしは黒いショートブーツにミモレ丈のチェックのスカート。


 うぅ、タイツ履いてくればよかったよ。


 さっきから隙間から冷たい風が素足に当たって正直寒い。


 でも上半身はニットのトップスであったかいから我慢だよ!



  

 で、なんであーしがこんな所にいるかって?


 そ、それは昨日の夜に極秘情報を掴んだからなんだっ!!


 ニルスさんに賄賂ビールを送った甲斐があったってもんだよ。


 その極秘情報っていうのは――



 

「あら? リリーちゃんおめかししてどうしたの?」



 

 ジョージさんがお買い物に出かけるっていう重要情報だったんだよ!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 官舎から出てきたジョージさんはスラッとしたパンツに黒いパンプス、胸元が大胆に開いたニットシャツに体にピッタリのコートを羽織っててとっても大人の女の人って感じで綺麗だった! 

 


 

「あ、あの、ギ、ギギ、ギオンモールに行こうって思ってて。さ、最近服が小さくなって、それで――」


 って、うぉい!


 あーし何言っちゃってんの!?


 服が小さくなったって、それってあーしが太ったって自分で言っちゃってんじゃん!


 ……で、でも、最近服が小さくなったのはホントで。


 訓練で筋トレするようになってから胸の辺りがきつくなっちゃって……


 って、違う違う!


 あーしは慌てて話を変えたよ。



 

「ジ、ジョージさんはどこかお出かけです、か?」

 

「うふん♪ ワタシは冬の新作コスメを見にね。リリーちゃんと同じ、ギオンモールに行くのよ♪」


 にぱっと笑うジョージさんを見て、ニルスさんの情報に間違いはなかったって心の中で感謝したよ。


 だから、この後は昨日の夜にシミュレーションしたように、ごく自然に、自然に――


「あーしも! あーしも一緒に行ってもいいですか!? ふごっ!」


 って、うぎゃああぁぁ!


 さ、最後興奮して「ふごっ!」って豚の鳴き声みたいな声出ちゃったじゃん! あーしのバカっ!!


「あら! いいわね。女の子同士ウィンドウショッピングと洒落こみましょ♪」


 でも、やっぱりジョージさんは大人だよ。


 そんなあーしの失態をさらりとスルーしてくれたんだ。



 

 しかもそれだけじゃなかったんだよ。



  

「それ、リリュウの新作リップじゃない? いい色してるわね」


 わたわたと慌ててるあーしの顔を覗き込んできたジョージさんは嬉しい事を言ってくれた。


 この官舎に帰ってきてから通販で買った新しいリップに気づいてくれたんだ。


「うふ♪ リリーちゃんにとっても似合ってるわよ。少女のような初々しさに少し大人の色っぽさがあって――」


 あーしの顔をまっすぐに見てくれたまま――



  

「とっても綺麗よ? 今日のリリーちゃん」



 

 ニコッと笑ってくれたんだ。

 

「――ぴぃっ!?」



 

 あーしは女の子に生まれてきて本当に良かったって思うよ。



 

 だって――


「は、はひっ! ありがとうございます!!」



  

 だって。大好きな人の、こんな小さな褒め言葉ひとつで女の子って世界一幸せになれるんだから。



 



「うふふ♪……あらやだ!? もうバスが出ちゃうわ! 急ぎましょ! リリーちゃん!!」


 そう言って、ジョージさんはあーしに向かって右手を差し出してきたんだよ。


 


 ジョージさんは男性だけど女性だ。


 あーしなんて絶対恋愛対象に見てくれない。

 妹のように見ているに違いない。


 きっと将来は素敵な男の人と結婚してしまうんだろうな、って思ってる。



  

「はいっ!」


 あーしはジョージさんの大きな手を掴んだ。




  

 でも――


 

 だからこそ――




 この瞬間はジョージさんの隣にあーしがいてもいいよね? 神様。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


これにて番外編『とある小妖精の恋物語』は終了となります。

読んで頂いてありがとうございました。


次回は登場人物紹介と設定資料を挟んで本編を再開していきます。


引き続き宜しくお願い致します。

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