番外編24 とある小妖精の恋物語9(全10話)


 あーしの目の前に葉巻型のずんぐりした巨体が見えてきた。


 後ろを見ると大回りしていたミサイル達がやっと首をこっちに向けてきたところだ。


 到着までもう少しだけ時間がありそうで安心だったよ。




 葉巻型の巨艦の正体は準二キロメートル級戦艦“アドミラル・レコノフ”


 全長一八〇〇mの戦艦で、あーしは同じ形の戦艦をゲーム内で嫌になるほど見てきたんだ。


 だからどんな武装がどこに付いてるなんて把握済み。


 伊達にゲームでトップランカー張ってないんだよっ。


 そんな情報を頭に叩き込むのだって上位になるには必要だったんだ。




 でも、こんな所で役に立つなんて思ってもみなかったけどねw



 近づくあーしに対してどんどんと攻撃が飛んできていたけど全部回避して進んでいく。


 戦艦からもまるで花火のように色とりどりの火砲が放たれるけど、最小限の動きで避けていくよ。



 

 それであーしも両手を前に突き出すと、持っていたライフルで攻撃を始めていったんだ。


 対空レーザー機銃やレーザーターレットくらいならライフル弾でも十分壊せるしね。



 

『敵機動騎士ガーディアン射撃開始。三番機銃沈黙! 九番機銃沈黙! 五番、十一番機銃もダメです!』 


『四番から八番のレーザーターレット沈黙! こちらの攻撃を回避しながら、な、なんて射撃精度なんだ……』




 ふふん。


 敵の通信を聞いてあーしは鼻を鳴らす。


 って主砲がいつの間にかこっち向いてるじゃん!?




 ドォォォォオオオオオ!!!!




 あーしが思いっきり横飛びをすると、あーしのいた場所を三条の極太のレーザーが通り過ぎていった。


 あ、あぶな~。


 後ろを見るとあーしを追っていたミサイルの三分の一が蒸発していたよ。


 油断大敵だね、ホント。




 あーしは前を向くと落としてしまった速度を取り戻す為にまたスラスターを全開にして戦艦に向かって進んでいく。




 敵までの距離はあと少し。


 もうほんの僅かで手に届く距離まで来ていたんだ。 


 後ろのミサイルはほんとにあーしのすぐ後ろまで迫っていて、コックピットの中はロックオンアラートがめちゃくちゃ鳴り響いてる。



 

「間 に 合 え~~~!!」


 あーしは無茶苦茶にライフルを撃ちながら戦艦の対空兵器を次々と壊していくと、ついに戦艦の元までたどり着いたんだ。


 あーしは戦艦の表面を昇っていって、頂点の艦橋を通り過ぎる。


 その時チラッと艦橋をみると、なんだか偉そうな人達が驚いた顔でこっちを見てるよ。


 だから両手を艦橋に向けて念の為に両方のライフルを一発ずつ撃っておいてあげた。エヘ。




 そのまま戦艦の裏側に回ると対空兵器の死角に潜り込んだ瞬間、


 


 ドォォォン、ドオォォンン、ドオオォォォォォオオオン!!!!




 もちろん宇宙だから音なんかしないんだけど、ヘルメットのスピーカーから状況に合わせて合成音が爆発音を再現してくれた。


「うひゃあ!」


 最初は爆発音だけだったんだけど、ちょうど横にあったレーザー機銃から炎が吹き上がって、あーしはちょっとだけビックリしたんだよ。


 その炎はだんだん戦艦の至る所から吹き上げて、あーしが隠れているミサイルが当たってないはずの場所からも小さい爆発が起こっていた。




 そして葉巻型の巨大な戦艦は中心部分から大爆発を起こして、大きな火球を作ると宇宙に消えていっちゃった。




 あーし?


 もちろん大爆発の直前に戦艦から離れていたから問題はなかったよ。




 それで爆発が収まったらあーしの目の前に敵の巡洋艦や駆逐艦。


 それに機械兵士マシーナクークラが現れたんだ。


 向こうから見たら爆発の中からあーしが出てきたように見えただろうな。



 

『……て、敵機動騎士ガーディアンは、健在。旗艦“アドミラル・レコノフ”は……し、消滅しま、した』


『悪夢だ……。機動騎士ガーディアン一機に空母と戦艦が一瞬で落とされるなんて、これは悪い夢だ……』


『こちら攻撃型巡洋艦“グリューリャク”。これより我が艦が臨時指揮を執る。全艦、全機械兵士マシーナクークラは敵機動騎士ガーディアンへ全力攻撃。旗艦と空母の仇は我らが取るぞ!』


 なんてちょっと驚いてたみたいだけど、すぐに立て直すあたり軍人ってすごいよね。




「推進剤残り三十%に弾薬はあと半分か……」


 敵の決意を聞きながらもあーしは手早く自騎の状態を確認していった。


 弾薬もそうだけど推進剤を使いすぎちゃったみたい。


 でも、もう少しだったら暴れられるかな?




「ジョージさん……」


 そこまで確認したらレーダーを超広域に設定して、端の方に映っている白い光点をそっと指でなぞってみた。



 

 それはあーしが取り付けた三次元マーカーの発信光。


 ジョージさんが確かにそこにいる証。



 

 その時ある事を思いついたあーしは、懐に入れていた口紅を取り出して自分の人差し指に塗った。


 それでジョージさんがやったみたいにポンポンと唇に当ててみたんだ。


「あはっ♪ やっぱりこっちの方が正解なんだね♪ さすがジョージさん。勉強になるなぁ」


 さっき直接塗った時のようなベタっとした感じじゃなくて、綺麗な色があーしの唇に乗っていく。


 それをコンパクトで見たあーしはテンションダダ上げだよ。


 うん。


 やっぱりジョージさんの言った通り、メイクって凄いな。


 こんな小さなリップひとつで気持ちが高鳴るんだもん。




『目標、前方機動騎士ガーディアン。全ユニット攻撃開始!!』




 敵の巡洋艦が、駆逐艦が、機械兵士マシーナクークラが一斉にあーし向かって迫ってきた。


 レーザーが、ミサイルが、実弾があーしに向かって迫ってきた。


 それはまさに壁のようにあーしには逃げ場がないような密度だ。




 でも。




「今のあーしはちょっとやそっとじゃ殺られないよ!」


 あーしは憎たらしい笑みを顔に浮かべて叫んでいた。




「だってあーしは今、サイキョーの女の子なんだからっ!!」




 フットペダルを踏み込むと真っ直ぐにその壁に向かって突っ込んでいった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 真っ直ぐ前に進むあーしはレーザーの束を周りながら僅かな隙間を縫いながら敵に近づいていく。


 ちょっとは装甲の表面が溶けちゃってるみたいだけど気にしない。



 

 そうしてレーザーの次は実弾だ。


 レールガンから電磁加速された弾がたくさん飛んでくるけど所詮は事前の予測で撃っているんだ。


 ばら撒くように撃ってるようだけど関係ないね。


 ヒラッヒラッと躱して前へ進んでいくよ。




 で、お次はミサイル。


 これは簡単だ。


 撃っちゃえばいい。


 そしたら爆発して周りのミサイルも誘爆して一石二鳥さ。

 

 


 そしてやっと機械兵士マシーナクークラの前に出てこれる。


 機械兵士マシーナクークラは全部でざっと百機ほど。


 さっきより増えているけど巡洋艦や駆逐艦から出てきたんだろうな。


 そいつらが一斉に攻撃してくるんだけど……コイツら射撃にAI補助使ってるよね。


 ちょっと大げさに動いてやると簡単に弾道が逸れてしまう。




「甘い! そんなんじゃマスターリーグには行けないよ!!」

 

 ゲームのリーグ戦で上から二番目のマスターリーグじゃAIの射撃補助機能なんて使っているプレイヤーなんていなかった。


 この風潮は妖精小姫フェアリー対策から広まったらしいんだけど、マニュアル照準でバンバン射撃を当ててくる奴なんてマスターリーグにはゴロゴロいた。


 その上のレジェンドリーグが主戦場のあーしにとっちゃヌルゲーもいいとこさ。




『どうしてこちらの攻撃が当たらないんだ!!』

 

『あの動き――まさか敵は妖精フェーヤ!?』


『嘘だ! 妖精フェーヤはこの戦場にはいないはずだ!』




 フェーヤ?


 ……あぁ、たしか連邦の言葉で“妖精フェアリー”の事だったような――って、多分アルマ隊長の事じゃない!?


「くくっ。やっぱりあの人パないじゃん!……でも残念。あーしは妖精小姫フェアリーじゃないよ。だってあーしは――」


 回避しながら両手を広げてどんどん機械兵士マシーナクークラにライフル弾を撃ち込んでいく。


「あーしは“小妖精ピクシー”。電子の小妖精ピクシーなんだからっ!」


 あーしのライフル弾は敵の機械兵士マシーナクークラにどんどん吸い込まれていく。


『ギャアアア!』

『ちくしょう、ちくしょ――』

『あは、は。無理だ、こんなの』

『助けて、助けっギィィ!』


 あーしはスラスターから炎を吹き出しながら、止まることなくライフルを撃ち続ける。


 その度に敵の断末魔が混線している通信から聞こえてくるけど全然気にならなかったよ。




 でも




「くっ!」

 

『え?』

『な、なんd――』

『いやっ――』


 突然の敵の艦艇からの攻撃であーしは右腕を持っていかれてしまったんだ。


 いつもなら反応出来ていたのにこの時は全然出来なかったんだよ。




 なぜなら――




『こっちは味方だ! 撃たないでくれ!!』

『や、やめ、やめてくれ~! ギャァァァアアア!!』

『そんな……俺達ごと攻撃するなんて……』


 味方の機械兵士マシーナクークラが密集している所でもお構いなく撃ってきたからだよ!




『ふははは。妖精フェーヤを仕留める絶好の機会なのだ。貴様らのような“養殖物”がそのいしずえとなる栄誉に感謝せよ』 




 って気分の悪いセリフを通信で聞いてしまって、少しイラッとしてしまったよ。


 多分あーしに近づいている巡洋艦の艦長なんだろう。


 さっきから容赦なく撃ってきていたのはソイツだけだったんだから。




 だからあーしは左手のライフルを背中に挿すと、近くを漂っていた胸から上が消し飛んだ機械兵士マシーナクークラを持ってその巡洋艦に向かって飛んでいく。




『フ、妖精フェーヤが近づいてきているぞ!? 砲撃手!! 早く奴を始末しろ!!』


 あぁ、うっとおしいな。


 あーしはその巡洋艦のへなちょこ弾を避けながらどんどん近づいていく。


 


 

 ……あんたの無念はあーしが晴らしてやるからな。


 


 巡洋艦の艦橋に近づいたあーしは左手で持った機械兵士マシーナクークラを艦橋に向かってぶん投げると、すぐに挿していたライフル銃を引き抜く。


「あの世でその子に謝りなよ」


 そうして艦橋に近づいた機械兵士マシーナクークラの腹を撃ってやったのさ。


『え?』


 機械兵士マシーナクークラも動力源は腹の中にあるんだ。


 で、そいつを撃ち抜いたらどうなるか?


 答えは簡単。大爆発だよ。


 至近距離で核融合炉を撃ち抜いて艦橋ごと消滅させてやったのさ。


 味方殺しのバカにはふさわしい最期だね。バ~カ。




 でも左腕を持ってかれたのは少し痛いよね。


 ま、右腕に持っていたジョージさんのライフルじゃなかっただけまだマシだったけど。


 あーしはゆっくりと周りを見渡す。


 機械兵士マシーナクークラはざっと七十機程度。


 艦艇はまだまだたくさんいる。



 

「……リロード」


【イエス、マスター】


 ちょうど空になったマガジンを替えながら推進剤の残量を見ると残りは十五%くらいかな。


 さて。


 そろそろ年貢の納め時かな?


 激しい機動のせいで少し乱れた息を深呼吸で鎮めると、あーしはもう一度レーダーを見る。


 そこにはさっきと変わらない白い光点が光っていた。


 モニターだったら指で触れられる距離にいるのに、実際は遠くにいるジョージさん。




 あーしは――


 もう一度ジョージさんにメイクしてもらいたかったな。


 もう一度ジョージさんとお茶を飲んで美味しいマカロンを食べたかったな。


 もう一度ジョージさんに頭を撫でてもらいたかったな。




 それと……それと、もう一度ジョージさんとお話をいっぱいしたかったな。

 



 あーしが弾の少ないライフル銃を構えると、敵の機械兵士マシーナクークラ達もジャキっと一斉に武器を構えてくる。


 さぁて。そろそろ行こっかな。

  



「あーしはアルグレン帝国宇宙軍フェアリー小隊所属、小妖精ピクシーリリー・マルレーン! いざ、推して参る!!」

 

 ――いひっ。


 多分最後だから、通信を国際共通帯にしてカッコつけて言っちゃったよ!

  

 それでフットペダルを踏みしめると敵に向かって飛んでいったんだ!


「ウラァァァァアアアアア!!!」


 めちゃくちゃにライフル銃を撃ちながら前に向かって飛んでいったんだ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 ……それから二十分くらい経ったかな?


 あーしはシートに沈み込みながら荒い息を吐いていた。


 目の前には銃を構えた機械兵士マシーナクークラが三十機ぐらい。


 対してあーしの騎体はボロボロになっていた。


 残弾はゼロ。


 推進剤も残量ゼロ。


 左腕は無かったし、右脚も膝から下が無くなっていた。


 背部のスラスターノズルは溶けかかっていて、さっきから煙が止まらない。


 コックピットの中もどこからか出てきてる煙で充満しているし――




 あーしの右ももには割れたコックピットの破片が深々と突き刺さってて、さっきから血が止まらないでいた。




『帝国軍パイロットへ』


 その時、敵のパイロットの声が聞こえてきてあーしは少しびっくりしちゃった。


 だって大人の声だったんだもん。


『まずは貴官の勇戦を褒めたたえよう。たかが単機でよくぞここまで暴れ回ったものだ』


 その声にはちょっとした哀れみの色が浮かんでいるのを感じたよ。


『貴官のリリー・マルレーンという名前、そして“小妖精マールィフェーヤ”の名。我らの胸に刻みつけよう』


 血を流しすぎちゃったからかな?


 敵も国際共通帯に合わせてくれてたのか通信モニターに敵のパイロットの顔が映っていたんだけど、目がかすんで全然見えないや。


「ハァ……ハァ……そりゃ……どーも」


 やっぱり左腕のない状態で高機動なんて無理だったんだ。


 いつもと違うバランスで回避のタイミングをミスっちゃったんだよね。


 一発攻撃を貰うとあとはサンドバックになっちゃったよ。




『貴官に敬意を払って、せめて最期は楽に送って――』


 敵のパイロットの言葉が段々とかすれてくる。


 それと同時に視界も白く白く染まっていく。


 体の感覚も無くなって来ていて、足の痛みも感じなくなっちゃった。




 あぁ。あーしはもう死んじゃうんだな。




 















 

『リリー』

『リリー』


 世界が真っ白になっていく途中であーしの耳に懐かしい声が聞こえてくる。


 あーしが小さな頃は毎日聞いていた優しくて温かい声。

 

 あーしはその声の方向に目を向けると、そこには笑顔のお父様とお母様がいた。


『よく頑張ったな。偉いぞ、リリー』

『えぇ。あなたは私達の誇りよ。リリー』


 そう言って近づいてきたお父様とお母様はあーしを力いっぱい抱きしめてくれた。


「お父様……お母様……あーしは……ひっぐ、あーしはぁ!」


 二人に抱きしめられたあーしの心はあったかい気持ちでいっぱいになっちゃって、涙が出てきちゃう。




 でもこれが幻だって事はすぐに気づいちゃった。


 でもね――


  


 あぁ、神様。


 たとえ幻だったとしても、最後にこんなに優しい両親を見せてくれてありがとうございました。



 

 えぐえぐと泣くあーしを優しく抱きしめてくれる両親。


 そんな幸せな光景の中であーしの意識は途絶えたんだ。



 (よく頑張った……ね)

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