番外編23 とある小妖精の恋物語8(全10話)
(視点変更 連邦軍帝国侵攻部隊 ある
僕達は最高会議議長閣下が発令された最高議会令三五〇四九号に則って悪しき帝国領へと深く入っていた。
人民を抑圧している残虐な帝国の圧政から有人惑星を解放して、真の革命を成し遂げる同志を
今、僕は人民解放の切っ先として連邦軍が誇る最新鋭の
横を見ると志を同じとする同志達が乗り込んだ多くのLー221が展開している。
聞いた話では味方の
後方には全長一kmを超える空母が多くのLー221を格納しており、今は僕を含めた七十二機の二個中隊が周辺警戒を行っていた。
『ジュラヴリー1より中隊各機へ。先行偵察をしていたウートカ分隊より通信が途絶した』
不意に中隊長から良くない知らせが舞い込んでくる。
ウートカ分隊は、確かミハイルが隊長だったはず。
僕が通っていた中央優等スコーラで同級生だった男だ。
思慮深くて落ち着いた男で成績も僕よりも良かった。
そんな男が率いる分隊が通信途絶なんて……
『なお最後の通信で敵にエースパイロットがいると報告してきている……考えたくないが
中隊長は苦々し気に言っている。
帝国ではフェアリーと呼ばれているそのエースパイロットは僕達の中では伝説の中の悪魔のように語られていた。
その敵が活躍していたのが一昨年で周りの同期達は誰も見た事が無かったからだ。
僕達が
でも中隊長は違う。
僕達が『先生』と慕う彼は十分な大人で十年も連邦軍で戦っている大戦士なのだ。
そして先生はよく言っていた。
『フェーヤには攻撃が当たらない。フェーヤは舞うように戦場を跳ね回り、気まぐれに攻撃をしてくる。その攻撃からは狙われたら最後、誰も逃げられなかった』と。
事実、連邦軍ではフェーヤが出たら後退が推奨されていた。
敵前での後退は特務部隊の粛清対象となる連邦では異例の通達だ。
『……もし敵がフェーヤだった場合は恥も外聞を捨てて逃げろ。これは中隊長命令とする』
「し、しかし同志大尉殿。私にはフェーヤの話はにわかには信じられません。やれ我が軍の先鋭たる
僕は先生の言葉につい反論してしまった。
連邦では上位者に対して下位者が反論するなど許されていない。
しかし、先生は苦笑すると僕の目をじっと見てきた。
……その目は空っぽで、何も映していない気持ちの悪い眼差しだったのだ。
「同志少尉。貴様は
先生がそう言いかけたところで機体のレーダーが
「同志大尉!! 前方から接近する
『反応が一つ? 同志少尉。間違いないか?』
僕の見ているモニターには確かに敵を示す光点が一つだけだった。
それは凄い速度で艦隊に近づいていたのだ。
「はっ! 目視可能距離まで残り二十秒」
僕の言葉に全員が息を飲んで、コックピットの全面に設置されたモニターを食い入るように見つめる。
すると他の機体も次々とレーダーに敵機の反応が出始めたのだろう、部隊間の通信がにわかに騒がしくなっていった。
僕もモニターの光学倍率を最大にしてレーダーが示す方向を凝視した。
そしてモニターに映ったものを見て、僕は最初は鳥かと思った。
羽を広げて飛んでくる闇色の鳥。
でも徐々に距離が詰まってくるとそれが間違いだったと思い知らされた。
それは両手にライフル銃を持って、大きく腕を広げた一機の
『ジュラヴリー1より中隊各機。武器を構えろ。敵が射程範囲に入ってすぐに攻撃を開始する』
先生の指示に僕達は
大丈夫だ。訓練ではいつもやってきた事。
敵を照準で捉えたら引き金を引けばいい。
そうしたら射撃補助AIが自動で敵に当ててくれるんだ。
僕の頬を冷たい汗が滑り落ちる。
今日は僕達の初めての実戦の日だった。
でも訓練通りにやればきっと――
『全機攻撃開始!!』
そして照準で捉えた瞬間、僕は迷う事なく引き金を引いたのだ。
隣の中隊と僕のいる中隊の全機から、七十二条のオレンジ色の火線が敵に伸びていった。
ただの鉄の塊である
しかし、その敵は――
上に跳ねて躱してみせたのだ!
『止めるな! 攻撃を続けろ!!』
先生の叫ぶような命令が飛ぶ中、僕達は引き金を引き続ける。
しかし、上に跳ね上がった敵機はステップを踏むように不規則な速度で左右に跳ね回ると、僕達の攻撃は大きく敵の左右に逸れて全く当たらない。
『ま、まさか……まさか奴、なの、か……』
通信から先生の震えた声が聞こえてくるがそんな事に構っている暇などなかった。
敵は上下左右に跳ね回りながらすごい速度で僕達に向かってきていたのだ。
誰もが引き金を引きながら願っていたに違いない。
“当たってくれ!”と。
しかし、そのような願いも虚しく敵は僕達の中に突っ込んでくる。
僕も咄嗟に敵の方を向いて引き金を引いた。
しかし、射線上に味方の機体があったようで同士討ち防止のシステムが働いてしまい、僕の持っているマシンガンは攻撃を止めてしまった。
いや。僕だけでは無い。
中隊の真ん中に入った敵に対して誰もが攻撃ができなくなってしまっていたのだ。
そのような中、敵はゆっくりと腕を回して両手に持っているライフル銃をそれぞれ違う方向に向ける。
『ま、まさかお前は
そして発砲。
敵の第一撃は中隊長の機体と同級生の機体の、二機のコックピットを正確に撃ち抜いてしまったのだ。
その光景に誰もが息を飲んでいたのだと思う。
僕もそうだった。
敵のど真ん中に入って行う攻撃にしては、その
そして、敵はまた腕を動かす。
僕は動かされる腕の動きの目を奪われていた。
気づけば敵の銃口は。
僕の方を向いているのだっ――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(視点変更 リリー)
敵の中隊の中に飛び込んだあーしは左右の操縦桿を別々に動かして敵の
ていうか、敵は撃たれているのに全然動こうとしないじゃん!
「マジかよ……それでいいのか連邦軍」
こうなれば撃てば当たる格好のボーナスステージみたいだ。
って、ダメダメ。
これはゲームじゃない。戦争なんだ!
あーしは気を引き締めると攻撃をやめて移動を開始した。
流石にこれ以上敵を減らしてしまうと同士討ち防止システムが止まってしまうだろう。
そうなっても避ける自信はあったけど、万が一にも敵の攻撃が当たってしまうかもしれない。
それにもう時間もなかったしね。
あーしはフットペダルを踏み込むとまた移動を開始する。
目指すは
いわゆる空母だったんだから。
あーしが敵の中隊を抜けると、敵は思い出したかのように攻撃を再開させてくる。
それとあーしの目的地の空母の周りにいた駆逐艦とかからも対空レーザー機銃やミサイルがひっきりなしに襲いかかってくるんだけど甘いね!
ゲームの中じゃあプレイヤーに魔改造された百基の対空レーザー機銃を持つ“真・対空駆逐艦”十隻の攻撃を避けていたあーしだよ!
ぬるいったらなかったね!
スラスター全開で鋭角に動くあーしを誰も止められない。
途中で飛んでくるミサイルがうっとうしくて、近くにいた駆逐艦にプレゼントしてあげたりしてた。
そしてついに空母の前にあーしは到着する。
おあつらえ向きに空母は発艦作業に取り掛かっていて格納庫に続く隔壁を開けようとしていたんだ。
「あーしは出来る! あーしは出来る! あーしなら絶対出来る!!」
さらにフットペダルを踏み込まれたIKU-21はスラスターが溶けるんじゃないかって熱量の推進力を生んでくれた。
あーしはその推進力を背中に受けながら敵空母に開いた僅かな隙間を目掛けて矢のように突っ込んで行ったんだ。
あーしのしていたゲームはリアリティへのこだわりがパなかった。
それは帝国のものだけじゃない。
どこから設計図を手に入れてきたのか、連邦の兵器も忠実に再現していたんだ。
だからこの空母の弱点だって知ってる。
空母の中に入ったあーしは、下に発進作業に移っている
そして最奥の壁に両足から突っ込んで、足を壁にめり込ませながら空母の奥を見た。
「あった!」
そこにはゲーム通りにあったんだ!
巨大な推進剤タンクが鎮座していたんだ!
騎体の脚部の機構が壁へと進む力のベクトルを溜めて、そして逆向きへと解放する、騎体がピタリと静止するその
あーしは左腕の複合多層シールド裏に装備していた短距離ミサイルを二本とも推進剤タンクに向かって放っていた。
その直後に凄まじい反発する力であーしの騎体は元来た道へと跳ね返される。
その力を利用して闇色のIKU-21は駐機している
そしてミサイルが推進剤タンクにぶつかる頃にはあーしは空母の開口部までたどり着いていた。
その直後に後ろで宇宙が震えているんじゃないかってくらいの大爆発が起きたよ。
お腹の中に二〇〇機以上の
一瞬で船体が二つに別れてしまった全長一kmの空母は、爆発の反動で片方が近くに随伴していた巡洋艦二隻と駆逐艦を六隻を巻き込みながら派手に堕ちていっちゃったよ。
「……ヤバ」
その光景を見ていたあーしの口から出てきたのは短くそれだけ。
この爆発で何人もの人間が死んじゃっただろう。
さっきまでならゲーゲー吐いていたかもしんない。
でもあーしは何だか他人事のようにこの光景を見ていた。
だって、決めたんだもん。
見ず知らずの人間の視線を気にするより、あーしの大切なジョージさん一人を助けるんだって。
例え何人もの人間に非難されても「だから何?」って感じ。
なんであーしはネットとかの非難を真に受けてたんだろう。
今となってはホントに不思議だったよ。
それよりジョージさんの笑っている顔をもっと見たい。
ジョージさんにもっとメイクを教わりたい。
……それで、もっとジョージさんの近くに
「だから――だから、あーしは止まらないっ! ジョージさんを守るためなら、なんだってやってやるんだからっ!!」
その時にあーしの身体中に不思議な感触が襲った。
ドロドロした刺すような不快感のある感触。
ネット掲示板であーしに向けられた嫌悪感を数十倍に煮詰めた嫌な感じ。
これが“殺気”ってやつなのかな?
――まぁ、ここまでやっちゃったんだから、しょうがないよね。
突如敵の巡洋艦や駆逐艦から白い煙が溢れてきた。
攻撃を受けた爆発って感じじゃなかったけど……あぁ、ミサイルか。
敵の艦艇から飛び出した棒状の物を見たあーしはすぐにそう判断する。
大体百発以上のミサイルがあーしに向かって飛んできたんだよ。
「……対空ミサイル『
って、確かゲームのテキストに書いてあった。
敵の追尾性能と速度が優秀な連邦製のミサイルだ。
ものすごい速度であーしに迫る百発のミサイル。
あと数秒で命中するだろう。
「……でもね?」
後期型だったら正直ヤバかったけど前期型なら問題なし。
あーしは落ち着いてフットペダルを軽く踏み込んで操縦桿をクイッ、クイッと小刻みに操作する。
ごめんIKU-21。
やっぱりあんたいい騎体だよ。
あーしの操縦を素直に騎体に伝えて、IKU-21はあーしの思い描いた通りに動いてくれたんだ。
トーンッ、トーンッ、トーーーンッて、その場でステップを踏むように左右に小刻みに動いた。
そんなあーしの横を大量のミサイルが通り過ぎていく。
対空ミサイル『アクーラ』。
追尾と速度へ性能を極振りしたこのミサイルは運動性能が最悪だ。
目標物が命中直前に移動した場合、その速度性能が仇となって目標を追尾しきれない。
後期型はそれを改善して機首に小型スラスターが付いてるんだけど、あーしが見た限り今飛んできたミサイルにはそんなもん付いてなかったよ。
……でも、このミサイルってさっきも言った通り
あーしの横を通り過ぎたミサイルは大きく弧を描きながらまたあーしに向かってこようとしている。
だから、あーしは――
「さぁ、行くよIKU-21! 楽しい楽しいチキンランだ!!」
思いっきりフットペダルを踏み込んだんだ!!
『敵
『ま、まさか……いかん! 全艦、全
ふふん。敵の通信が混線してきて、敵が驚いている様子が分かったよ。
だから、あーしは更にフットペダルを踏み込んだよ!
『奴は戦艦にミサイルを引き連れて特攻する気だ!!』
空母が沈んだんだ。
戦艦も送ってやらないと可哀想じゃない?
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