番外編19 とある小妖精の恋物語4(全10話)

「フェアリー小隊が来たぞ!!」

 

「……アルマ大尉はいねぇのか、いや、今は少佐か?」

 

「やったー! フェアリー小隊が来たらこれで安心だぜ!!」

 

「隊長、フェアリー小隊ってなんなんすか?」

 

「お前は今年配属の新人だから知らねぇか。この基地でーーいや、この対連邦戦線で色々な伝説を作ったヤバい小隊だよ」


「そうだぞ。妖精小姫フェアリーアルマ・カーマイン大尉が一騎当千のエースパイロット達を率いた最強の小隊だ」




 アルマ少佐との模擬戦から一ヶ月後。


 あーしはここ、対連邦戦線の辺境基地に来ていたんだ。


 事前に教えてもらったのは、味方再編期間中の援護って聞いてるよ。




 あーし達の輸送艦が基地に降りるとそこは大勢の人で埋め尽くされていてビックリしちゃった。


 それもみんな嬉しそうにあーし達を指さして笑っているんだよ。


 それで輸送艦のドアが開いてタラップを降りている時には、あーしはとうとう怖くなっておっかなびっくりしながら降りてたのに、他の人達は堂々と降りてて手を振っている人もいたよ。


 ジョージさんには、この辺境基地はフェアリー大隊がまだ小隊だった頃に戦っていた元々の古巣だって聞いていたんだけど、ここまで熱烈に歓迎されるなんてあーしには予想外だった。


 


 今回この基地に送られてきたのはあーしを含めて十二人で、隊長はジョージさんと副長はブランソンさんっていう怖い表情のおじさん。


 あとはずっとフェアリー小隊の時から所属していたって言うベテランのパイロット達。



 

 それと――



 

「パトリックの兄貴!!」


「「「「兄貴!! おかえりなさい!!!」」」」


「ん? おぉ!! お前ら元気だったっすか!?」


 金色の髪を天に向かって突き上げた、モヒカンっていう髪型をしたパトリックさんだった。




「大負けしたって聞いてたっすけど、お前らは無事だったんっすね!!」


「はいっ! 兄貴のモヒカン魂を持っている俺達が連邦のヒョロ弾なんぞに当たるわけねぇっすよ、なぁみんな!!」


 今、パトリックさんの周りに集まっている男の人を見てあーしは震えていたよ。


 だってこの宇宙であんな奇抜な髪型をした人なんてパトリックさんだけだと思っていたのに、集まっている男の人全員がモヒカンだったんだもん!!


「当たり前ですよ!」


「俺達は無敵のパトリック兄貴からモヒカン魂を受け継いだ『ゴールデンコームス』小隊なんだ!」


「兄貴の名誉の為にそうそう落とされる訳にはいかんでしょう!」




 そう言って笑いあっている人達を見ていると、あーしの耳元から突然声が聞こえてきた。


「うふふ♪ パトリックちゃんのあんな笑顔見るのなんて初めてでしょ?」


「ぴぃっ!? ジョ、ジョージさ――ジョージ少尉!!」


 あーしが声の方向を向くと目の前には浅黒い肌の大男、ジョージ・マッケンジー少尉がいた。


 本当に至近距離でヒソヒソ話をするように言ってきたから、あーしの心臓は跳ね上がってバクバク言ってるよ!


「パトリックちゃんは一見冷たいんだけど、自分が『仲間』と認めた相手にはとことん優しくなるのよ」




 あーしはこの一ヶ月ほど振り返って、パトリックさんから優しくされた事なんて無かった。


『あんたにはぜってー負けねぇっす』


『……たまたま俺っちを撃墜したくらいでいい気になってんじゃねぇっすよ』


『見たっすか! 俺っちの実力を!! 


 事ある毎にあーしを睨んでくるパトリックさんは正直苦手だったよ。


 でも、目の前で子供のように笑っているパトリックさんを見ていると、あーしの胸はズキズキと痛んだ。


 だって、パトリックさんが笑うのって仲間に対してなんだったら――



 

 笑いかけてもらってないあーしはまだこの部隊の仲間じゃないんだな、って思い知ってしまったから。




「フェアリー小隊! 着任ご苦労!!……き、君達の到着を待っておったよ」


 その時、あーし達から離れた所から大声が聞こえてきて、あーしはビクッとなっちゃった。


 見るとあーし以外の全員が一斉に敬礼をしてて、あーしも慌てて帝国軍式の敬礼をしたんだ。



 

「エドワルド少将♪ ご無沙汰しておりますわ♪」


「う、うむ。アルマ少佐は大隊編成中で来られないと聞いていたが……君が今回の隊長なのだな、ジョージ・マッケンジー曹長」


「……少将。ワタシ今は恐れ多くも帝国軍から少尉の位を仰せつかっておりますの♪」


「う、うむ。これは失礼した、ジョージ・マッケンジー少尉」




 階級を見れば少将の方が圧倒的に偉いのに、二人は立場が逆のようで不思議な感じだ。


「……昔、ジョージが着替え中の部屋に少将が許可なしで入ってしまってな、マジで」


「ぴぃっ!?」


 突然の声にまたしてもあーしは飛び上がってしまう。


「ジョージがセクハラで訴えて、しかも軍の上層部がその訴えを受理しちまったんだよ、マジで」


 声をかけてきたのはブランソン副長だ。


 てかこの人、いっつも語尾が『マジで』なんだよな~。


「それから少将はジョージに頭が上がんねぇんだわ、マジでw」


 その話を聞いて、二人を見てみると緊張した様子のエドワルド少将と、目を細めて微笑を浮かべたジョージさん。


 あーし、あのジョージさんの顔知ってるよ。


 めっちゃ不機嫌な時のジョージさんなんだよ!




「そ、それでは君達の活躍を期待している。わ、私は忙しいのでこれで失礼するよ、フェアリー小隊」


 逃げるように回り右をして逃げるように走っていくエドワルド少将を見送ったジョージさんは、ニコニコしながらあーし達の方を向いた。


「うふふ♪ それじゃあ、みんな部屋に荷物を置いたらパイロットルームに集合ね。――パトリックちゃん! 旧交を温めたらこちらに戻ってきなさい♪」


「うぃっす!――それじゃあ、みんな頑張るっすよ!!」


「あ、兄貴……よーし、兄貴の前で恥ずかしい所は見せれねぇぞ!! 『ゴールデンコームス』小隊! 気合い入れろ!!」


「「「「「「エイエイオー!!」」」」」」




 ……うん。


 世界には色々な人達がいるんだよ。


 実家から出てきて狭い世界しか知らなかったあーしが、この一ヶ月で学んだ事だよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


二日後



 

フェアリー2ジョージより大隊各騎へ。連邦軍機械兵士マシーナクークラ中隊(三十六機)が接近中。ワタシ達の実戦の勘を取り戻すには手頃な数の相手ね♪』


 今日ついにあーしは初めての戦場に出撃していた。


 昨日はいっぱい緊張したけど、出てみればどうということないな。


 ジョージさんの敵機の報告には少し緊張したけど、多分大丈夫だ。うん。大丈夫。



 

『今日ワタシはフェアリー10リリーちゃんとバディを組むから、実質的な指揮はフェアリー3ブランソンに任せるわ♪』


『フェアリー3了解。基本は対中隊用迎撃機動プランBでいくからみんな遅れんなよ、マジで!』


『『『『『『了解!!』』』』』』


 通信からその声が聞こえた時にはもう味方のIKU-21達は加速を開始していて、五騎ずつに左右に別れて敵を挟むように進んで行っちゃったよ……


 はっや。


 ミサイルのようにみんな行っちゃったよ、マジで。


 ………………ハッ、ブランソン副長の口癖が移っちゃった。




『フェアリー2よりフェアリー10』


「は、はいジョー……じゃなかった、フェアリー2」


『ふふふ♪ フェアリー10にはまず戦場の空気に慣れてもらうわ♪ みんなについて行って敵の様子を見てもらうから♪』


「分かりましたっ! フェアリー2」


『いい返事ね♪ じゃあ、ワタシについていらっしゃい』


 そう言ってジョージさんの騎体がゆっくりと前に進んでいってあーしはそれに遅れないように右後ろを進んで行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『貰ったっすよ!!』


『グッキル、フェアリー11パトリック!!』



 

 戦場に着いた時にはもう戦闘が始まっていて、そこかしこで敵との撃ち合いが始まっていたよ。


 敵の数はあーし達の三倍はいるのに、五騎ずつのフェアリー小隊の味方に分断されていいようにされている。


 あーしはゲームで個人戦ばかりだったから複数人の連携はあんまり得意じゃないんだ。


 それでこのフェアリー小隊って、実は連携がエグイくらい完璧でお互いがお互いの動きを完璧に把握して、まるでひとつの生き物のように動いているんだよ。


 初めて見た時はビックリしたものだったよ。


 これも妖精小姫フェアリーアルマ少佐が鍛え上げてきた結果って聞いてるけど、前にジョージさんになんでこんなに上手くなったのか聞いたら、


『………………色々あったのよ。色々と、ね。へへへ……』


 って青い顔ではぐらかされちゃったんだけどね。




『おっと。こりゃまた、は遅い出勤で優雅っすね!』


 その時、パトリックさんが動きを止めないままあーしに話しかけてきた。


『俺っちはもう三騎は倒したっすけど、お嬢さんは後ろで震えてていいっすよ。俺っち達が全部平らげてあげるっすから』


『フェアリー11! フェアリー10をあおるのは止めなさい!!』


『ふんっ!! フェアリー11了解』


『もうっ!』


 もの凄く嫌味な感じであーしをおちょくってくるパトリックさんをジョージさんが止めてくれた。


「……大丈夫です。フェアリー2」


 数年前から人の悪意に慣れっこだったあーしだったけど――



 

 だったんだけど、腹は立つよね!!

  


 

 あんの金髪クソトサカ野郎め!


 絶対目にもの見せてやるんだから!!




 その時、ちょうど味方の隙間から四機の機械兵士マシーナクークラが飛び出してきたんだ!


「敵機接近! フェアリー10迎撃に向かいます!!」


『ま、待ちなさい! フェア――』


 あーしはイライラした気持ちのまま、自分の騎体のフットペダルをグッと踏みしめた。


 直後に騎体のメインスラスターから青い炎が吹き出されてグンッと前に弾き出されるように飛び出していく。

 

「マジ重い、この騎体」


 あーしが今乗っている機動騎士ガーディアンIKU-21っていい騎体なんだけど、あーしがゲームで使っていたFE-31に比べて重いし反応が遅い。


 今も加速しているんだけどいちいち鈍重なんだよなぁ。

 



 前に現れた敵の四機はバラバラに飛んできていた。


 フォーメーションは全然組めていなくて、敵の攻撃で思わず飛び出してしまいました、って感じだ。 

 

「ふふん。ちょっと慌てすぎなんだよね」


 あーしが今装備している武器はゲームでもよく使っていた中距離用の実弾のライフル銃。


 リアルを追求したという売りのゲームをもう何年もしていたんだ。


 操縦桿を軽く動かすと、あーしの思い描いた通りに騎体の腕が動いて無造作に発砲したよ。


 わざわざロックオンをする必要ないし、敵の動きが笑えるくらい直前的すぎてゲーム初心者のムーブより酷かったから、こんな状態であーしが外す訳無い。




 あーしの放った一発の銃弾は思い描いた通り敵に向かって真っ直ぐに進んでいって、真ん中の一機のコックピットに吸い込まれて行ったよ。


 ドォォォォオオオン!!


 それで着弾した後、数秒後に推進剤に引火したのか大爆発を起こしたんだ。



 

「まずは一機! 次は――って、え? マジ!?」


 それですぐに次の敵に攻撃をしようと思った時にあーしは衝撃的な光景を見てしまったんだよ!! 

 



 残った三機が爆発した機体を見ていたんだ!


 しかも足を止めて!




 その時にあーしは笑っていたんだと思う。


 敵の目の前で、敵から視線を外して足を止めるなんてゲームなら初心者でもしないバカな行動。


 おいおいおい!


 そこは回避行動しないとw と。




 ゲームでもこんなチョロい敵なんて出てこなかった。

 

 だから笑いながら続けて三発、足を止めた敵に銃撃したんだ。


 あーしの放った二発は同じように敵の機体のコックピットに当たって爆発する。


 でも一発は運が悪くて敵機の腕に当たって持っていた武器と一緒に破壊されるけど、撃墜はできなかったよ。




『フェアリー10! フェアリー10止まりなさい!!』


 その時にようやく追いついてきたジョージさんの声が聞こえてきたんだ。


「大丈夫ですっ! もう三機やりました! 最後の一機もあーしがやってやりますよ!!」




 あーしはこの時、完全に調子に乗っていた。


 昨日は初めての戦場の事を考えて、すっごく緊張していたんだ。


 でも蓋を開けてみたら出てきたのは初心者にすら劣るカモのような敵。

 

「模擬戦じゃ勝てなかったけど! こんなに敵が弱いんなら!!」


 あーしはアルマ隊長には模擬戦で勝てなかった。


 あの日以降も何度か模擬戦をしたんだけど全敗。


 でも。


 でも、こんなんだったら実戦の撃墜数で妖精小姫フェアリーには勝てるかもしれない!

 



 あーしは持っていたライフル銃を背中のウェポンラックに挿すと、腰にマウントしていた長刀を抜き放つ。


 ライフル銃でも良かったけど、こんな敵に銃弾がもったいないと思ったあーしは慣れない長刀を構えると、腕が失くなってオロオロしている敵機に向けて全速で距離を詰めて行ったんだ!!




 敵の機体がどんどん迫ってくる。どんどん大きくなっていく。


 敵は自分の失った腕部を呆然としたように見ていて、まだ動こうとしない。

  

「あーしだってやれるんだ!」


 そうだよ! ここでスコアを稼げば、もう誰からも後ろ指を指されないんだ!!



  

『止まりなさい! フェアリー10!』


 さらに敵に近づいた時にジョージさんの叫び声に似た通信が入ってくるけど、あーしはもう止まれなかった。


『フェアリー10! 通信をカットしなさい! はやく通信を――』


 もう、あーしの事を“偽フェアリー”なんて言わせるもん――




 


 

『い、いやだぁぁあ! 私まだ死にだぐな――グゲッ、プツ』





 

 

 …………え?


 い、今の声は……な、なに?



 

 敵の機体を切る瞬間、ノイズだらけの声が聞こえてきたんだ。


 しかも若い女の子の声。


 あーしと、同じ、くらいの女の子の声が、聞こえて、きたんだ……



 

「な、なに? い、いまのって……なに?」


 あーしの心臓が壊れるくらい速く脈打っている。


 ドクドクドクドク!


 背中を冷たい汗が流れて、鼻息が荒くなっているのが自分でも分かった。

 

 それであーしがたった今叩き斬った敵の機体を凝視していると、騎体のAIがアシスト機能でそこをズームしてくれたんだ。


 敵の機体は丁度コックピットの所で真っ二つに切れていて、核融合炉や推進剤が無事だったから爆発もしないでそこで浮かんでいた。

 

 そして、敵の機体の切断面が徐々にアップで映っていって――



 

 そこからはオイルじゃ無い、赤い何かが溢れていた。



 

「い、いや……」



  

 あーしは何を切った?

 

 ロボットを切ったんだよ?

 

 あの赤いのってなに?


 そして、あーしの目の前でコックピットの中から敵のパイロットが飛び出して来た。








 飛び出してきたのはヘルメットが割れて顔が見える黒髪の女の子。


 あーしよりも若い、子供のような女の子だった。


 その子の表情は苦しげに歪んで目はうつろになってた。


 その小さな口からは赤い血が流れていて――




 その体はお腹の辺りで真っ二つにちぎれていたんだ。








「い――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」



  

 そこであーしの意識は途切れてしまったんだ。

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