番外編17 とある小妖精の恋物語2(全10話)
「あんなん詐欺だよ、詐欺……」
あーしは小さな部屋の中の小さい簡素なベッドで丸くなって、そう愚痴っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの後、
あーしは恥ずかしくて思わず顔を伏せてしまう。
その時になってやっと思い出したんだ!
この子って、画像検索をした時に出てたちっちゃな女の子だ!って。
でもその時にはもうあとの祭り。
本人に弱点なんて聞いてどうするんだよ!!
しかも上司になる人にだよ!?
……終わった。あーしの軍隊生活は始まる前から終わってしまったんだ。
その後に色々と説明されたり、書類にサインさせられたんだけど、全然思い出せない。
それくらいあの時のあーしはテンパっていたんだ。
それから軍施設に移動して、大隊のみんなと顔合わせがあったんだけど……その時のあーしはもう吹っ切れていた!
あそこまで
もう何も怖くない!!
『少尉相当待遇で本日より着任したリリー・マルレーンさんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね』
『フェ、
周りもキョトンとしていた。
そして、あーしは吹っ切れっていたはずなのに、その沈黙が恥ずかしくて真っ赤になってプルプルしていた。
その後、苦笑いをした
掲示板で偽フェアリーとバカにされた日々!
あーしは一秒だってその屈辱を忘れた事なんてなかった!
さらに実家から恒星間
チケット発行のやり方が分からなくて、でも駅員さんに聞くのが恥ずかしくて、二時間近くターミナルを右往左往したあの不安な気持ち!
あとあと……こんな所まで来たのに、まだ、あーしの両親から、その……な、なんにも連絡がないんだ……。
べ、別にあーしは気にしてないんだけどねっ!
……でもでも、少しくらいは心配してくれてもいいのにな、って思ったりして……
と、まぁ。そんな感情があーしの中でグルグルと渦巻いて、あーしは一歩も引けなかったんだよ!!
『女の子がここまで言っているのよ? 少しは胸を貸してあげたら? 隊長』
その時、ジョージさんがそう言って助け舟を出してくれた。
『どっちが勝つと思う? 俺は隊長に一票』
『隊長ちゃんっすね』
『隊長ちゃんにジュース一本、マジで』
『アルマ隊長』
『俺も俺も。隊長に一票』
『賭けが成立しねーなw ま、オレも隊長が勝つと思うけどよ』
……シミュレーターに入る前にこんな会話が聞こえてきた。
ふんっ!あーしの実力も知らない奴が好き勝手言いやがって。
ここも掲示板と一緒なんだな。
でもジョージさんだけはシミュレーターに向かうあーしに『頑張ってね♪』と言ってくれたんだ!
あーしはその一言がとっても嬉しかったよ。
そして、シミュレーターの中に入るとあーしの網膜に見慣れたVR映像が投射される。
ふふふ。
あーしはこの仮想世界じゃ全国のトップランカー“PiXy”なんだ!
仮想世界の女王、電子の
「絶対詐欺だ、あんなん……シクシク」
そして、冒頭に戻る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あー、
掲示板の奴らをバカにしてたけど、バカはあーしでしたw って訳だ。
最初は互角の勝負だって思ってたんだよ。
てか、
『……うん。マルレーンさん合格です。一段階対応を上げますねっ!』
さっきまで手も足も出ないって思ってた
ゲームだったら『こんなんどうやってクリアするんだよ!』って掲示板が炎上するレベルの。
もうはっきり言ってチートだよ。
あーしはなんとか攻撃を避けて、防いで、機会を待って、待って、待って、それで絶好のタイミングで攻撃をしたんだ。
……ひらっ、と躱されたよね。アハッ!
それでも諦めずに、また待って、待って待って待って。
フェイントをかけて本当に至近距離で、コラ画像でよく言われる『ここから回避できる機動ってあるんですか?』ってレベルの攻撃をしたんだ。
……ひらっ、と躱されたよね。アハッ!!
あーしは何度も撃墜されたんだけど、その度にコンティニューして何度も挑戦したんだ。
でも結果は変わらず。
その時のあーしは涙でメイクが溶けて顔中ぐちゃぐちゃだし、汗で服はぐちゃぐちゃだし、……あんま言いたくないけど……お、おもらしもしてパンツの中もぐちゃぐちゃだった。
それで、気がついたらこの部屋にいたんだ。
多分気を失っちゃったんだと思う。
あ~あ。
なにやってんだろな。あーし。
たかがゲームの世界で少しちやほやされて、それをバカにされて怒って、親にも黙って家を飛び出して、聞いたこともない辺境までやって来てまでボロボロにされて。
ほんと……。なにやってんだろな。あーし。
コンコン
そんな感じでベッドで
少し控えめなノックがされたんだ。
「……リリーちゃん? もう起きてる?」
――ジョージさんだ!!
あーしはベッドから飛び起きると、少し髪を手で整えて扉にダッシュしてロックを外した。
扉が開くと少し心配した表情のジョージさんが立っていたんだ。
ピンク色のモコモコしたかわいいパジャマを着ているジョージさんはあーしの顔を見て、少しホッとした顔になる。
「リリーちゃんもう大丈夫なの?」
「はい! 大丈夫です! てか、元気いっぱいです!」
笑顔で力こぶを作った腕を見せたあーしの返答にホッとした様子のジョージさん。
ジョージさんもニコッと笑うとあーしの目を真っ直ぐに見てくる。
あーしを見てくれるのは嬉しいんだけど、目が鋭いからあんまジロジロと見ないで欲しいな。
そう思っているとジョージさんは驚きの提案をしてきた。
「うふ♪ じゃあ、リリーちゃん今からワタシの部屋に行こっか♪」
ふぇっ!!
そ、そそそ、それってどういう意味な――
「女の子同士で女子会しましょ♪」
ですよね~!!
一瞬身構えてしまったあーしはバカみたいだ。
ジョージさんの格好とメイクと言動を聞いていれば、この人はいわゆる『オネエ』って人種で、体は男だけど中身は女の人なんだってすぐに分かる。
あーしは顔から火が出るんじゃないかってくらい真っ赤になりながら、ジョージさんの提案を受け入れて、ジョージさんの部屋に行くことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おっ。噂の新人さんはもう大丈夫なのかよ」
ジョージさんの部屋に入るとすでに別の人がいた。
「ニルスちゃん! またそんなもの持ち込んで!!」
上下の赤いジャージに黒縁メガネの大きな女の人が床にあぐらをかいて座っていた。
ビール缶を持った片手をあーしに向けて上げている。
「そんなものって、こりゃあ命の水だぜ?」
そして、口につけるとゴクゴクゴクと一気に飲み干した。
「かぁー! 仕事のあとは格別だな……オレはニルスだよ。よろしくな、新人さん」
そう言ってニカッと笑うこの人は正直美人さんだと思った。
……思ったんだけど、目が怖い。
絶対この目は悪いことをしていた人の目だよ……。
「んだよ。えらく他人行儀じゃねぇか。――股ぐら見せた仲じゃねぇかよ」
そんなあーしの態度が気に入らなかったんだろう、すこしイライラした様子で言ってきたんだけど、
「またぐ――え?」
「おもらししてたから、お姉さんが優しく洗ってあげたんだよ。新人さんの股ぐらを、な」
「ぴぃっ!!」
「ニルスちゃん!!」
突然の暴言であーしの頭は真っ白になったんだ。
お、おもらし……あーしがおもらししたって言ったよ、この人。
ジョージさんの前であーしがおもらししたって言っちゃったよ、この人。
「んだよ。アルマ隊長の訓練でおもらしなんて珍しかないだろ」
「でも、そんな事を人様の前で言うんじゃないわよ!」
よりにもよって私の事を『かわいい』『素敵』と言ってくれたジョージさんの前で言っちゃったよ、この人……
「ふぇ……」
「……お、おい」「リリーちゃん?」
「ふぇぇぇん! ひっぐ、うぇぇぇん! ぐずっ、あぁぁぁぁぁぁああああ!!」
色々と限界だったんだと思う。
家族やお手伝いさん達に冷たくされて、ネットでバカにされて、それで一念発起したのに
それでおもらしまでバラされて。
あーしの心はこの時にはもう限界だったんだと思う。
だからあーしは子供のようにボロボロと涙を流しながら声を上げて泣いたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「本当にすみませんでした!」
それから数分後、まだ泣いているあーしの前でニルスさんは頭を床につけて――胸が大きくて床についてないけど、土下座スタイルで謝ってくれていた。
「えっぐ、すん……すん」
「ほらほら、よ~しよし。もう大丈夫だからね、リリーちゃん」
そしてあーしはジョージさんのたくましい胸に頭を抱えられて頭をなでなで、ポンポンされながらあやされていた。
ジョージさんの胸はとってもあったかくて、とってもいい匂いがしてあーしはすごく落ち着いたんだ。
「うふふ♪ 落ち着いたかしら?」
「……うぅ、すびばぜんでじだ」
それから更に数分後。
やっと泣き止んだあーしはジョージさんの胸元から頭を上げた。
うっ。ジョージさんのピンクのパジャマの胸のところがぐっしょり濡れていて少し恥ずかしい……。
「うふふ♪ 女の子の涙は世界でいちばん綺麗なものよ? 気にしないでね」
そう言ってニコニコ笑っているジョージさんを恥ずかしくて真っ直ぐ見れないよ///
「それにしても、メイクが崩れちゃってるわね」
「ぴぃ!」
顔を離したあーしの顔をまじまじ見ていたジョージさんが言った一言。
その言葉であーしの顔が真っ赤になったんだ。
「うふん♪ もし良かったらワタシにメイクを直させてもらってもいいかしら?」
そんなあーしの様子を気にした風もなくジョージさんは笑顔であーしに迫ってくる。
「かわいい女の子なんだもん。ワタシ、リリーちゃんを一目見た時からリリーちゃんのメイクをしてみたいって思っていたの♪」
またかわいいって言ってくれた!
「……お、お願いしてもいいんですか?」
「もちろんよ♪ 洗面所が扉の奥にあるから、まずは今のメイクを落としてきなさい。……色々とあるから分からない事があったら聞いてね?」
そうしてあーしはのろのろと立ち上がって洗面所のドアを開けて中に入っていった。
「へっ。ジョージの旦那はかわいい女の子見たらすぐにメイクしようとするな」
「……おい、誰が頭上げていい、っつったよ?」
「さ、さーせん」
扉を閉める直前にそんな会話が聞こえてきたけど、多分気のせいだと思う。
……思うことにした。バタン。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「遅くなりました」
それからメイクを落としたあーしが部屋に戻った時、部屋のテーブルには色々なメイク道具が所狭しと置かれていた。
そしてニルスさんはまだ土下座をしていた。
「ほら、こっちに座りなさいな♪」
それで笑顔のジョージさんに促されて、ピンクのクッションが置かれた床に座るとまじまじとジョージさんがあーしの顔を覗いてくる。
「う~ん。少し目元が腫れているからまずはそこからね♪」
そう言って少し冷たいコットンをあーしの目元に当ててきたよ。
「これで少し時間を置きましょう♪」
ひんやりした感触がすごい気持ちよくて、あーしは段々と気持ちが落ち着いてきた。
そんなあーしに対して、ジョージさんは優しい声で聞いて来たんだ。
「……リリーちゃんは、どうして女の子がメイクをするか分かるかしら?」
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