第20話 敵機襲来



『オーベイコントロールよりフェアリー大隊へ。敵第一波接近! 小型種八機。続いて第二波! 小型種六機接近!』




 アモスの先陣が防空圏内に入って数分後。


 管制官の声がアルマ達の耳を打った。


『騎体レーダーを近距離モードに切り替えます』


 アルマがレーダーの画面に視線を移した時に腰ミノがレーダー画面を遠中距離モードから狭い範囲だがより詳細が確認できるモードに切り替えた。


 赤い光点が八個と六個。それぞれ別方向から接近している事が映っていた。




「第一波はホビット小隊が迎撃。第二波はフェアリー小隊が対応します」


「こちらホビット1了解」


 アルマからの指示にホビット小隊の小隊長からすぐに返答がくる。


「フェアリー小隊全騎、私に続いてください!」


 アルマの騎体に続いて部下の機動騎士ガーディアンが発進していく。


 アルマを先頭に十二騎の騎体達が一糸乱れぬフォーメーションを保って敵機に接近していく。




「アモスを視認! 各騎兵器使用自由! 攻撃を開始します!!」




 アルマの騎体の頭部センサーが宇宙を進んでくるアモスの機体を捉え、アルマの網膜へとその姿を投射する。




 そこには銀色の三角錐の機体が先端をこちらに向けて一斉に突っ込んできている様子が映っていた。


 その全長十五mの表面が鏡のようにキラキラと輝いている。


 そして、アモスの後部には二mほどの突起物が飛び出しており、そこが赤く光りながら細かく振動していて進力を機体に与えているようだ。


 その突起物が機動騎士ガーディアンのスラスターに当たる機能を担っており、突起物の方向を変えることで進路の変更を可能になっていた。


 



 フェアリー小隊は敵機を視界に収めるとその場に止まって、各騎がそれぞれの武器を構える。


 アルマも照準に先頭のアモスを捉えると、操縦桿の引き金を引いた。




 その途端アルマの騎体が持っているライフル銃から一発の高速弾が真っ直ぐにアモスに向かって進んでいく。



 

 そして。




 アモスの表面に当たった高速弾は装甲を容易く貫くと、内部を破壊しながら中を進んでいき、そして後部から飛び出していった。


 その穴から炎が吹き出すと、後部の推進器から赤い光が失われて、アモスの進路が逸れてきりもみ状態になると構成部品を撒き散らしながら少しの間進んで爆散した。


フェアリー1アルマスプラッシュ1(一機撃墜)」


 それと同時に部下達からもアモスを撃墜する宣言が次々と入ってくる。


 そして、接敵から一分も経たずして第二波の六機を完全に撃破したのだった。



 

「ホビット小隊、敵全機撃墜」


 もう一方の第一波の八機を担当していたホビット小隊からも撃墜の報告が入ってくる。


「第一波、第二波全機撃墜。各騎次の敵機に備えてください」


 その報告を聴きながらアルマはレーダーに目を向ける。


『レーダーを中距離モードに変更します』


 腰ミノからの電子音声が響くと、レーダーがパッと切り替わって多くの赤い光点が迫ってくる様子がモニターに映る。


 それをじっと見るアルマ。


 難しい顔に一筋の汗がツウッと垂れている。




 モニターには約十分以内に到達する敵の数が映っている。


 そして、その数は軽く三百機を上回っていた。



 

 ピピッ


『続いて第三波、十機。第四波、五機。第五波、九機が接近。全て小型種です』


 管制オペレーターからの報告を聞いたアルマは一度頭を振ると自身が感じた不安感を振り払うと、声を張り上げた。


「第三波はバンシー小隊! 第四波はデュラハン小隊! 第五波はエサソン小隊が迎撃!」


「「「了解」」よん♪」




 各迎撃範囲に向かって行くアモスに対して応戦を開始した各小隊の対応を見ながらアルマはゲイズの騎体の方にちらっと目線を送る。


「……どうしましたか? 隊長」


「いえ……」


 そのような些細な挙動を見逃さない自身の副長に少し驚きながらもアルマは続ける。


「中型種が全く見えませんね。と思いまして」


「……三万もいるのです。層は厚いのでしょうな」


 モニターの中でゲイズは少し手持ち無沙汰の様子で、腕を組んでそう答えた。




 アモスは大まかに分けて小型種・中型種・大型種、そしてそれ以上の種に分けられる。


 細分化すれば、小型種の中には突撃型・制圧型・破壊型が、中型種の中には駆逐艦型・巡洋艦型・母艦型が、と様々な型の物が存在し、一般には複数の小型種を少数の中型種が率いて集団を形成している。


 アモス集団の割合は大型種一、中型種二、小型種七となることが多い。



 

 が、現在フェアリー小隊が迎撃を開始したアモスの集団は小型種しかいない。


 それが何を意味するか?



 

 答えは簡単だ。


『集団の規模が大きすぎる』ため。

 



 アモスの数が多い場合、小型種のみの集団が作られる事がある。


 今まさにアルマ達が遭っている状況だ。




 集団が大きく、中型種が指揮していない小型種が多くいた場合は、集団の外縁部へと押し出された小型種同士が群れるのだ。



 

「“はぐれ”や小集団しか遭遇した事がなかったですからな。いやはや、話には聞いた事はありましたが、実際に遭遇せんと理解できないものですなぁ」


 感慨深そうにうなずくゲイズ。


 自分もこんな事だったら知らない方のままが良かったですよ、と苦笑いをアルマは浮かべる。



 

 ピピッ。


『続いて第六波、十二機。第七波、六機。第八波、十九機。第九波、十機が接近。全て小型種です』


 アルマがレーダーに目を落として、数瞬後に彼女から指示が飛ぶ。


「ケットシー小隊、グレムリン小隊、アインセル小隊、ホビット小隊が迎撃!」


「ピクシー小隊帰還したよ!」


 ちょうどそこに少女の声が割り込んでくる。


 声の正体はピクシー小隊隊長のリリーのものだった。


「アインセル小隊は補給の為に後退。ピクシー小隊はアインセル小隊と交代して、敵第八波を迎撃して下さい」


「ピクシー1了解。……小隊全騎、アインセルと交代だ。いくよ、あーしに続け!!」


 後退し始めたアインセル小隊の十二騎の代わりに後方から勢いよく接近したピクシー小隊は、速度を落とすことなく敵の第八波に向かって進んでいく。




 ピクシー小隊の隊長を務めるピクシー1こと、リリー少尉の白い機動騎士ガーディアン、FE-31が先頭を駆け抜けていく。


 全体的に細身の軽量機動騎士ガーディアンのFE-31はこの大隊には珍しいFE社製の機動騎士ガーディアンだ。


 一世代前の軍の制式採用騎である射撃戦特化の機動騎士ガーディアンは格闘戦を重要視されていないので各部の作りが細くなっている。


 しかし、装甲そのものは頑丈な複合素材が使用されており、対弾性能はIKU-21よりも数段階上の数値を誇っていた。




 リリー少尉の騎乗する騎体は両手に種類の異なるライフルを持ち、両腕を広げた状態で敵に向かって進んでいく。


 小型種と言えども第八波は十九機。


 一瞬アルマは自分がカバーに入るか悩んだが、ピクシー小隊が戦闘に入るとその考えを打ち消した。




「全騎カバー! いつも通りあーしが行くよ!!」


 一騎のみ飛び出したリリー少尉は異なる方向に腕を向けて、先に持っているライフル銃を同時に発射。


 ライフル銃から飛び出した高速弾はそれぞれが異なる目標に向かって進んでいき二発とも命中する。


「まだまだぁぁ!!」


 そしてスピードを殺すことなく、敵集団の眼前に飛び出したリリー少尉の白い騎体に向かって残った十七機の敵が殺到する。


 片方の足裏のスラスターを起動し、側転するように横に向かって回転して離れた白いFE-31は、上下逆の体勢から更に銃撃を敵の集団に加えていく。


 何発か外れるが、それは問題なかった。


 慌てたようにFE-31に頭を向けるアモス達はその横っ腹をピクシー小隊の騎体達に晒す事となっていたからだ。


「各騎撃ち抜け!!」


「「「「「「了解!!」」」」」」


 すぐに部下のIKU-21の騎体達から銃撃が放たれる。


 それは無様に、一番被弾面が大きくなる横に長い三角形の機体を眼前に晒しているアモス達に殺到する。


 結果。


 十機以上が銃弾の雨に襲われて機体中に蜂の巣を開けられてその場で爆散。それ以外の機体もフラフラとどこかへ飛び去ってしまうが、すぐに火を吹いて活動を停止していた。




 しかし、残った数機のアモス達は仲間の惨状になんら臆する事もなく、自分達の近くに飛び込んできた白い敵を破壊する為に自身の穂先をリリー少尉に向けて加速を始めた。


 それに対して白いFE-31は足裏や肩、時には背部のメインスラスターを小刻みに使用しては、ステップを踏むかのように左右に跳ね回る。


 今度は左右のライフル銃を真っ直ぐに前へと伸ばし、交互に引き金を引いていく。


 常にリリーの騎体に対して正面を見せるアモスの被弾面積は驚くほど小さい。


 しかし、針の穴を通すほどの照準を必要とする作業をリリー少尉は難なくやってのけて多数の敵の機体にどんどんと穴を開けていく。



  

【Out of ammo】


 その時、彼女のコックピットにAIの電子音声が響く。


 右手のライフル銃が弾切れを起こした報告に対して

 

「リロード」


 彼女は素早くつぶやいた。


 すると騎体の背部バックパック横に折りたたまれていたアームが展開し、腰に装着されていたマガジンを掴む。


 それと同時にライフル銃から空のマガジンが勢いよく脱落し、アームは素早い動きでそこに新しいマガジンを装着した。





 そして、再度彼女が銃撃を開始しようとした時、最後の敵が部下の攻撃に横っ腹を貫かれて爆散してしまった。


「……ピクシー小隊全機撃墜。持ち場に戻る」


 バシュッとスラスターの音を響かせて真後ろに向いたリリー少尉は少し不完全燃焼したぶすっとした顔を作りながらも後ろにむけて下がっていった。




 リリー・マルレーン。

 

 ある特殊な事情で十六歳という年齢でフェアリー大隊に加入した少女は天才と評されていた。



 

 ――アルマと戦うまでは。



 

 入隊してすぐに行った模擬戦でプライドを散々打ち壊された彼女だったが、操縦技量が他の隊員を圧倒している事実は変わる事はなく、数々の実戦での功績とその間に指揮官としての教育を驚く速度でこなして行き、二年経った今ではピクシー小隊の隊長の地位に収まっていた。


 彼女の小隊長就任の際に、ABCの順番で付けられていた小隊名が彼女の希望で「ピクシー」の名前に変更されている事実からも、アルマが彼女を評価している事が分かる。




 天才(と呼ばれていた)少女。


「各騎、損害報告」


「全騎損害無し。作戦行動に支障ありません“PiXy”!」


 部下の報告に少し笑顔を作ったリリーは自身の上官へと報告を行った。




「ピクシー小隊全騎健在。指示があったら頂戴ね」


「ピクシー小隊は現在地で待機して下さい」


「りょーかい」

 

 女性にしては柔らかさのない鋭い目線を通信モニターへと向けるリリーにアルマは優しく指示を下す。


 今までで一番多い敵の集団を鎧袖一触がいしゅういっしょくで蹴散らす元・天才小隊長をアルマは頼もしく思って信頼していた。




 もし、自分に何かあればフェアリー大隊を託す人物の候補に入れるくらいには、だ。

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