番外編15 結成! フェアリー小隊10(全10話)

 出撃して一時間後。


 


『指揮所よりフェアリー小隊へ。方位二ー四ー〇より小隊規模(十二機)の連邦軍機械兵士マシーナクークラ部隊の国境侵犯を確認。至急迎撃に向かわれたし』


「フ、フェアリー小隊了解。これより迎撃任務に移ります」  


 ついに俺達に初の実戦の機会が来た。



  

 相手は機械兵士マシーナクークラ部隊。

 

 帝国宇宙軍の機動騎士ガーディアンと同じ、連邦軍の人型機動兵器だ。


「小隊各員へ。つ、通信は聞きましたね。これより敵機迎撃に向かいます。進路変更。巡航速度から戦闘速度へ速度を上げてください」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」



 

 今、俺達十二騎は編隊を組んで飛行していた。


 編隊、フォーメーション、陣形と色々呼び方はあるが、要は各機動騎士ガーディアンの配置の仕方の事だ。



 

 編隊は大きく分けて前衛・中衛・後衛に分かれる。



  

 前衛は敵とまず当たる性質上、任務によって違うが圧倒的な攻撃力か固い防御力が求められる。


 こちらから攻める場合は敵の防御陣形に穴を開け、守る場合は敵の前衛の初撃を跳ね返す為だ。


 

 

 中衛は前衛が作った突破点をこじ開ける役割だ。

 

 防御の場合は前衛が防いだ隙間から敵の戦力に対して痛撃を与える。


 

 

 そして後衛。

 

 主に長射程の長い銃身の武器やミサイル等の機動力が落ちる重武装で前衛や中衛のサポートを行う。



 

 この時、俺達は前衛三騎、中衛五騎、後衛四騎の構成だった。


 少尉殿は前衛の一番先頭に陣取っている。


 普通、指揮官は中衛より後ろにいることが多い。

 

 全体を見て指揮をするためにはどうしても広い視野が必要だからだ。

 

 前衛では後ろまで目が届かないことが多い。


 それを少尉殿に指摘はしたが、



 

率先垂範そっせんすいはんは指揮官の義務です」




 と一蹴されてしまった。


 初の実戦はただでさえ視野が狭くなるが、まぁ、その為の俺達古参がいるんだ。

 

 今日は少尉殿のサポートに徹しよう。



 

「レーダーに敵機が映った!!」


 宇宙空間を進むこと十分。

 

 肉眼ではまだ敵機は見えないが、騎体のレーダーが敵の反応を示した。



 

 赤く光る点が十二個。

 

 事前の情報通り、敵も小隊規模だった。



 

 それにしても汚い編隊飛行をしてやがるな。

 

 上手く編隊を組めてない光点から見て、敵の練度は低そうだ。


フェアリー11パトリック! 初撃は任せました! 派手に行ってください!」

 

「っ!? 一番槍、任されたっすよ!」


 その時、少尉殿から命令が飛ぶ。

 

 命令を受けたのはパトリック。


 後衛にいるパトリックの騎体は機動騎士ガーディアンの全長程もある長射程の狙撃銃を装備していた。


 通信モニターにパトリックの顔が映る。

 

 普段は垂れている奴の目が大きく見開かれて、瞳孔がキュッと小さく絞られていた。


 射撃に関しては少尉殿を除いて、この小隊でパトリックの右に出る奴はいない。

 

 特に長距離狙撃には天性の才能を開花させていた。



 

「………………撃つっす!!」



 

 パトリックの騎体が持っている長い銃から高速弾が飛んでいく。

 

 射撃を終えた後は銃口を少しだけずらして、直ぐに発砲。

 

 短時間の間に四発の銃弾が吐き出された。



 

 それらは真っ直ぐと敵の小隊へと進んでいき――


「敵機撃墜を確認!!」


 レーダーから四つの光点が消えた。


 恐ろしい事にパトリックはまだ敵が肉眼で見えない程の長距離からの射撃を、全弾命中させていたんだ。


 


『……きの……こ……げき!?』

『……かな! てき…………だとおい……』

『ぜん……んかい!!……まっ……や……れるぞ!』


 敵さんの混乱した無線が混線してこちらにも聞こえてくる。


 おーおーかわいそうに。

 

 めちゃくちゃ混乱していらっしゃる。


 その混線と同時にレーダーの光点が乱れた。



 

「て、敵は混乱しています! フェアリー小隊、攻撃開始!! わ、私に続いてください!!」


 そう言って、少尉殿の騎体のスラスターが咆哮ほうこうをあげて、ぐんぐんと加速していく。


「ば、ばかっ! あのイノシシ娘! 一人で突っ込んでいきやがった!!」


 それに焦ったのは俺達だ。

 

 少尉殿が勝手に飛び出していきやがったんだ。


「前衛、中衛は全速前進! フェアリー1少尉殿を孤立させんな! 後衛は速度そのまま、敵機へ射撃を開始! 味方に当てんなよ!!」

 

「「「「「「り、了解!!」」」」」」


 すぐに前衛と中衛の七騎のスラスターから力強い光が吐き出されて、加速を開始した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『た、弾が! 弾が当たらない!』

 

『みんな! 敵は一機だ! 落ち着いて落とすよ!』

 

『き、消えた! 敵が消え、ギャアアアア!!』

 

『なんで弾が逸れるの!? 誰かアイツを止めてくれ!!』



 

 敵に近づくにつれて混線している敵の無線がハッキリと聞き取れるようになってきた。


 敵さんはかなり混乱しているようで、暗号通信を忘れて平文でやり取りしていて敵の無線がよく聞こえる。


 その無線を聞くと、通信モニターに映った味方の隊員達の顔に苦笑の表情が浮かぶ。



 

 敵が言っている事がすっごくよく分かるからだよ!



 

「……なんか、敵がかわいそうになってきたな」

 

「めっちゃ気持ち分かるわ、マジで」

 

「あれを初めて見たらそりゃ混乱するわね」

 

「ははは……少尉ちゃんが味方でよかったよ」


 口々に出てくる敵への同情の声。

 

 本当にかわいそうになってくるが、これも戦争。仕方ない事だ。



 

 散々少尉殿の変態機動にかき乱されて、敵の編隊は崩壊していた。

 

 各機がバラバラに動いて連携の『れ』の字も無い。

 

 さらに少尉殿によって、すでに二機が“ 喰われていた”。

 


 

「各機、少尉殿に遅れるな! 全て喰いつくせ!!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」


 俺達の騎体が一斉に武器を構えて敵機へと攻撃を開始する。



 

『え!? 敵機だ!! 他の敵機が来たよ!!』

 

『嘘だろ!! 全機集まって! 陣形を立てなお、グアアア!』

 

『ウワアァァァァ!! 来るな、来るなよ!! ギャアァァァァ!!』



 

 二騎の機動騎士ガーディアンがマシンガンを一機の機械兵士マシーナクークラに向けて発砲。


 敵の機械兵士マシーナクークラはシールドを上げてそれを防ごうとするが、コックピット以外の足や腕に当たってしまう。


 それでも攻撃の合間を狙って反撃しようと銃を構えたソイツに俺は背後から近づいて、至近距離から発砲した。


俺の放った銃弾は吸い込まれるように敵の背中を貫通して爆発。


……よしよし。どうにか敵が反撃する前に潰せたな。


「ゲイズ副長ずるい!!」

「俺らでやれたのに!!」


「すまねぇな、今度アシストしてやるから文句言うな」


ギャーギャー騒ぐ隊員達をなだめつつ、戦場を見渡すと戦闘はほぼ終了していた。

 

 敵機は残り一機。


 最後の一機には少尉殿の騎体が迫っていた。




『来るな! 来るな! なんなんだお前は! なんでこっちの攻撃が当たらないんだよ! あぁぁ助けて、誰か助けて!!』

 

「やあぁぁぁぁぁ!!」


 少尉殿は長刀を持ったまま、左右にステップを踏むように敵機に迫っていく。


 敵の機械兵士マシーナクークラは狂ったようにマシンガンを乱射するが、その弾は少尉殿の騎体に掠りもしない。


 敵機に迫った少尉殿は長刀を横に振るう。


『あぁ! た、たすけ』


「うらあぁぁぁぁ!」


 マシンガンを持ったままの両手が切り離される。

 

 そのまま刃を返すと、続けて斜め下に振り下ろして敵機の両足をぶった切った。



 

 そして、少尉殿は腕を後ろに引くと


『助けて! 先生助け――』

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 勢いよく長刀を敵機のコックピットへと突き立てた。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「気は済みましたかね。少尉殿」


 戦闘が終わったあと。

 

 通信モニターに映っていた少尉殿の顔は真っ青になっていた。


「……す、すみません」


 肩を小さく狭めて、しゅんとした少尉殿。


 その態度を見た俺達は――



 

「あ~はっはっはっは!」

 

「くっくっくっく」

 

「ぎゃーはっはっは!」

 

「ぷーくすくす!!」

 

「ざまぁねぇっすねw」



 

 大笑いした。




 

「てめぇ、ら、笑い、すぎだ。――ぶふぅっ!」


 俺も我慢してたのに、ついに吹き出してしまう。


「な、なんなんですか!」


 そんな俺達の態度に少尉殿は涙を目に浮かべて抗議の声を上げる。


「いや、すみません。ただちょっと安心してしまいましてね」

 

「そうね♪ みんな初めての戦闘なんてこんなものよね?」

 

「俺っちは……こんなんだったすかね?」

 

「こんなもんだよ。俺はプラスで小便を漏らしちまってたよ、マジで」

 

「少尉ちゃんも、ちゃんとした人間だったって事だ。ギャハハ!」


 みんな、わざと明るく話す事で少尉殿の緊張をほぐそうと努めている。

 

 その気持ちが通じたのかは分からないが、少尉殿の顔に徐々に生気が戻り初めた。

 

「まぁ、そういう事です。童貞って奴はどこの世界でも初めての時は緊張して縮こまるか、少尉殿のようにがむしゃらにヤリまくるかのどっちかって相場が決まってまさぁ。落ち込む事はないですよ」


 その言葉に少尉殿の顔がボッと真っ赤になった。


 あわあわと表情をコロコロと変えている少尉殿にまたみんなから笑い声が起こる。



 

 あぁ、あんなにバラバラだった俺達がこんなにまとまってるなんて……

 

 いい小隊になったもんだな。

 



 ピピッ

 

 その時、通信モニターから無線が流れてきた。

 

『指揮所よりフェアリー小隊へ。方位十ー三ー二より中隊規模(三十六機)の連邦軍機械兵士マシーナクークラ部隊が接近中。後退を許可します。味方部隊と合流してください』


 その通信内容に少尉殿が隊員達を見渡した。

 

 少し迷っているようだ。



 

 だから俺達は――



 

「へへっ、少尉殿は暴れ足りないんじゃないですか?」

 

「まだまだ全然イけるっしょ!」

 

「私達もさっきの戦闘じゃ物足りないわね♪」

 

「弾も推進剤も全然余りまくってるわ、マジで」

  

「てか、俺の撃墜スコア!」

 

「そうだぜ! 少尉ちゃんとパトリックだけズリーよ!!」


 全員が笑みを浮かべながら少尉殿の背中を押したんだ。

 

 すると通信モニターに「うんっ」と頷いた笑顔の少尉殿が映る。

 


 

「こちらフェアリー小隊。こちらは戦闘による損害はありません。これより敵部隊の迎撃に向かいます」


『ちょっ、フェアリー小隊!? 敵は中隊規模なんですよ!? あなた達は初出撃なんです! 無理せずに後退して味方と合流しなさい!』


「全騎進路変更! おかわりが来ました。喰い散らかしますよ!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」


『フェアリー小隊!? 応答しなさい! フェアリー小隊!!』


 オペレーターの絶叫を聞き流しながら、俺達は新たな戦場へ向かって騎体を向けた。



 

「フェアリー小隊、全騎行動を開始せよ!!」

 

「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」

 


 

 この日、基地に帰還した俺達フェアリー小隊は基地の奴らから畏怖の視線で出迎えられた。

 

 最終的な戦果は

 

 撃墜:人型兵器六十三機

    戦闘艇十一機

    小型艦二隻

 損害:無し


 わずか一日でエース部隊以上の戦果を叩き出していたんだよ。



 

「こちらフェアリー2ゲイズ。着陸の許可を求む!」

 

『コントロールより、しに……いや、フェアリー2へ。大戦果じゃねぇか。……いい仲間に恵まれたな。三番ゲートより進入せよ』


 俺は笑顔のままで基地に帰っていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 チクタク……

 

 チクタク…………


 ……ジリリリリリ!!



  

「う……あぁ……夢か」


 宿舎のベッドの上で目が覚めた俺は目覚ましを止めて大きく背伸びをする。


「……へへっ、懐かしい夢だったな」


 一人で寝るには大きいベッドを下りると、寝室の扉を開ける。


 途端にいい匂いが漂って来た。



 

「やっと起きたのね、あなた」


 目の前のキッチンには赤毛のそばかす顔の嫁が料理を作っていた。

 

「あぁ。起こしてくれても良かったのによ」


 俺はダイニングテーブルの椅子を引くとそこに腰を下ろす。

 

「子供みたいに幸せそうな寝顔だったから起こせなかったわよ。……いい夢は見れた?」


 テーブルの上にはまだパチパチと油が爆ぜているフライの盛り合わせが置かれていた。


「ああ。いっつもA定食しか出さねぇカワイイ給仕さんの夢を見てたよ」


 俺の前にスープを置いていた嫁が、少し顔を赤くしながら顔を近づけてきて「ばかっ!」と軽くキスをしてきた。




「荷物は用意しておいたからね」


 飯を食って、食後のコーヒーをソファーで飲んでいると、横に座った嫁が話しかけてくる。


 玄関を見ると大きなバッグが置いてあった。

 

 ありがとな、と言って嫁の頭を軽くなでると嫁は目を細めて嬉しそうに頭を突き出してきた。




 ち、ちくしょう。可愛いじゃねぇか。

 



「それと少尉さんの言う事はきちんと聞いて無茶はしない事」


 嫁はアルマ少佐の事を、まだ『少尉さん』と呼ぶ。

 

「歯磨きとひげそりは毎日して、夜更かしはダメだからね。それとそれと――」


 お、お前は俺の母ちゃんかよ!

 



「――きちんと帰ってくるんだよ?」




 一際不安そうにベッキーが俺の顔をのぞきこんでくる。

 

「大丈夫だよ」


 俺はベッキーの肩を抱いて、彼女の体を引き寄せる。

 

「今日もベッキーのA定食を食べたんだ。帰ってくるさ」


 彼女の顔の近くで優しく微笑みかけると、ベッキーも安心したように俺の背中に手を回して胸に顔を埋めてきた。

 

「……うん」


 全く、心配性な奥さんだぜ。

 

 こっちはお前の幸運のA定食を食べてるんだぞ?

 

 帰って来れるに決まってるだろ 。



 

 さて、そろそろ準備を始めるか。


 と、俺はソファーから立ち上がろうとした俺は違和感を覚える。


 あれ?


 ベッキーの体が離れない?


 まだ俺の背中に回した手を離そうとしないベッキーがこっちを見上げてくる。




 ベッキーさん?


 あなたはどうしてそんなに顔が赤いんですかね?


 ペロッ


 ぷっくり膨らんだピンク色の自分の唇を舐めるベッキー。

 

 あ、これ、デジャブだ……


 


「ねぇ、ゲイズ……」


 潤んだ目で見上げてくるベッキーは俺の太ももの付け根辺りを優しく撫でてくる。 

 

 これから一ヶ月の哨戒任務が始まるんだ。


 愛する妻とも一ヶ月会えない。


 …………あぁ、もう!


 全く心配性な奥さんだぜ!!


 俺はベッキーの膝の裏に手を回すと、細い体を持ち上げる。




 彼女は「キャッ♪」と悲鳴を上げるがとても嬉しそうだ。


 そしてそのまま寝室の扉を開けて、二人でその中に入っていくと扉をバタンと閉めた。



 

 二時間後


 俺は玄関で靴を履くと扉を開ける。


 後ろで手を振っているベッキーに手を上げて応えると、大きく足を踏み出した。




 直後に少しふらつく俺の足。



 

 額を冷や汗が垂れる。


 ま、まぁ、愛する妻を安心させるための必要な出費だ! 




 俺は気を取り直してまた大きく一歩を踏み出す。

 


 

 さぁて楽な哨戒任務だ。


 行ってきますか!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


これにて番外編『結成! フェアリー小隊』完結となります。


次話より本編に戻ります。


引き続き宜しくお願い致します。

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