番外編8 結成! フェアリー小隊3(全10話)

「どうしろってんだよ」



 

 訓練開始から五日が過ぎた。


 結局、シミュレーターは全員分手配されて、俺も訓練に参加していた。



 

 初めての時はどうだったかって? 




 ……聞かないでくれ。

 

 取り合えあずパトリックのようにクソは漏らさなかったとだけ言っとこう。


 ……クソ、だけはな。



 

「なに辛気臭い顔してんだい」

 

「……いや、訓練が上手くいかなくてな」


 場所はいつもの食堂。

 

 目の前にはベッキー。



 

 そして目の前にはいつものA定食。



 

「ははーん。あんたが沈んでる原因は前に一緒に来ていた噂のちびっこ少尉様だね」

 

「噂の?」


 勤務中だろうに俺の目の前に座ったベッキーが俺の白身フライをフォークに刺しながらニヤニヤ笑っている。


「そう、噂の。なんか結構有名人らしいわよ?」

 

「有名人?」


 そのままフォークを持ち上げて、自分の口の中に放り込んだ。



 

 おい、それ俺んだぞ!?



 

「なんか同じ炊事班のユミさんが『アルマたん!? マジモンのフェアリー!』って騒いでたの」

 

「『フェアリー』?」

 

「意味はわかんないけどね。……それで、訓練が上手くいっていないって何?」


 俺も結構心に来ていたんだろうな。

 

 次のイカリングに狙いを定めていたベッキーをけん制しながら少尉殿の訓練のぶっ飛び具合を愚痴グチってしまっていた。



 

「……ふーん。ま、私は機動騎士ガーディアン乗りじゃないから分かんないけどさ」


 聞き終えたベッキーは少し目を伏せて、俺の目の前にフォークを突きつけてクルクル回してきた。

 

蓬莱ほうらい諸国家連合王国のことわざに『敵を知り、己を知れば百戦あっても戦いやすい』ってあるじゃん。調べてみれば? 少尉さんの事」


 その言葉に俺は少し困ってしまう。


 調べてみろってもなぁ。

 

 俺にはそんなツテはねぇし、調べてどうするんだよ。


「とりあえずインターネットで少尉さんの名前入れてみればいいんじゃない? 有名人みたいだし」


 ベッキーの提案に俺は苦笑いを浮かべる。

 

 そして、冗談半分に携帯端末に文字を打ち込んだ。

 ……あ~、少尉殿の苗字分かんねぇな。



  

『アルマ 攻略』



 

「全く。こんなんで分かりゃ苦労しねぇって――えっ!?」


 まぁ、何にもしねえよりマシか。

 

 くらいの気持ちで検索した結果に俺は目をひん剥いちまった。



 

『アルマ 攻略』

 検索結果一〇〇,〇〇〇,〇〇〇件以上 



 

「はぁっ! い、いちおくっ!? ……マジで何モンだよ、あの少尉殿は?」


 検索結果が一億件以上?

 

 俺の叫び声に目の前のベッキーがそそくさと俺の横に移動してきて携帯端末を覗き込んでくる。


 そんな行動に気づくことなく、俺は検索結果で出てきた一番上のページにアクセスした。


『ようこそヘルメスの部屋に。ここでは妖精小姫フェアリーアルマ・カーマインの攻略情報を公開するよ』


 やたらポップな感じのページ配色にクラクラしながら俺は読み進めて行った。



 

「こいつは……」

 

「どう? なにかいいこと書いてあった?」


 おそらく数分経ったと思う。

 

 不意に俺の耳元からベッキーの声が聞こえてくる。


「……すげぇ、こいつはすげぇぞ! 助かったぜベッキー!」


 俺がベッキーの声の方を向くと、目の前にベッキーの顔があった。

 

 こいつはいつの間にか俺の肩に自分の顎を乗せていたようだった。


「ひゃあ!!」

「うぉ!!」


 本当に唇と唇が重なりそうな距離にお互い悲鳴を上げて、次いでベッキーは大きく横に飛び退いた。


 顔を真っ赤にして、口元があわあわと震えている。


 あ、危ねぇ。

 

 危うく結婚前の娘さんの唇を奪ってしまうところだった。


 少しお互いに気まずくなったが、俺がもう一度礼を言うと「い、いいんだよ!」とベッキーは厨房に引っ込んでしまった。


 走るように去っていったベッキーに、そんなに嫌だったのかよ、と少しショックを受けたが、俺は気を取り直すともう一度携帯端末に目を向ける。


「こいつがあれば、何とかなるか。でもなぁ……」


 携帯端末に表示されている値千金の情報。


 

 

 しかし、俺は更なる問題に頭を抱えそうになる。


 それはパトリック達がこの情報を素直に聞くかどうか、だ。


 言っちゃ悪いが、小隊が結成されて数日。

 

 俺達の関係は“ 連帯感”や“ 結束”という言葉から一番遠い所に置き去りにされてやがる。


 俺はその事を不安に思いながらも、明日の訓練後に全員に話しかけてみようと決意した。



 

 カツッ!!


 そして、その他のページを見ながら食事を再開しようと皿にフォークをぶっ刺した時、何故か硬い音が俺の耳に入ってくる。


「あん?」


 携帯端末から顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは、パンとスープと大量の千切りキャベツが載ったトレーだった。



 

お、俺のフライが無くなってやがる!?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


「……で、なん、っすか? 死神」


 次の日の訓練が終わった後。

 

 俺はシミュレーター室で死体のように潰れていた小隊員に声をかけた。


 少尉殿の訓練が始まって数日が経つ。


 流石にもう無様な格好を晒す奴はいなかった。

 

 まだ気絶して起き上がらねぇ奴や、妙にパイロットスーツの腰の辺りが盛り上がった奴がいるにはいるが。



 

「少尉殿の、『攻略情報』知りたく、ねぇか?」



 

 俺の呼びかけに露骨に嫌悪感を示したパトリックが突っかかってくるが、次の俺の言葉にピクっと眉毛をはね上げて反応をする。


「……へぇ。あの子の、攻略情報ですっ、て? そんなもの、あるのかしら?」


 ついでオカマ野郎が床に突っ伏したまま、声を上げる。 


「あぁ。完璧な情報、じゃねぇが、無いよりは、マシなはずだ」


 そう言って、全身に感じる倦怠感にムチを打って、俺はノロノロとシミュレーター室にある大型モニターの横にあるコンソールに向かう。


 その間にオカマ野郎とパトリックもノロノロと起き上がって、まだ気を失っている隊員の背中をグッと押して気付けをして起こしている。




「まずは、この動画を見てくれ。……あぁ、すまねぇが、なぜか早送り出来ねぇから、そこは勘弁だ」


 それから数分後、小隊員全員が起き上がった頃に俺の準備もやっと完了する。


 そして、大型モニターには俺の準備した映像が流れ始めて、全員がそれに目を向けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『これより四八〇回全国機動騎士ガーディアン競技選手権大会、個人の部決勝戦を行います』


『さぁ、大会十日目、個人戦決勝は四年連続の同カードとなりました。それでは決勝戦を戦う両選手の紹介です!……北天方面第一士官学校、機動騎士ガーディアンチーム“明けの明星ルシフェル”所属竜撃公女ドラグニカシャオロン・メイファァァ! 』


『メイファ選手は本来なら二年間の留学期間でしたが、雪辱を晴らす為に帰国を延期していますからね。今年こそは有終の美を飾りたいところです』

 

『今年は準々決勝戦で戦った黄金十二騎士ゾディアック序列六位知識の探求者ヘルメスセシリア・バランタイン選手と、二回戦で戦った序列十位歌姫アイドルメイ・アルジャーノン選手のバックアップを受けて決勝戦に臨みます』

 

『両者とも対妖精小姫フェアリー用の秘策をメイファ選手へと託しました。それがどう活きるかもこの決勝の見どころの一つですよ』


 画面の中には男が二人。

 

 解説席での会話が流れていた。



 

「夏の全国機動騎士ガーディアン競技選手権大会ぃ?」

 

「あら、懐かしいわね。子供の頃はよく見てたわよ♪」


 すぐに隊員達から声が上がり始める。



 

 夏の全国機動騎士ガーディアン競技選手権大会は帝国全土で放送される夏の風物詩だ。


 夏休み中の子供達にとって、ロボット達が激闘を繰り広げる番組は長い夏休み中の暇つぶしに見るにはもってこいのコンテンツで、俺も子供の頃はよく見ていた。

 

 そして機動騎士ガーディアン乗りに憧れたもんだ。

 

 ……今じゃ、機動騎士ガーディアン乗りになった事は若干後悔しているが、な。


 そして、隊員達がざわつき始めた前で、モニターに映った動画は進んでいく。



  

『続きまして、中央士官学校機動騎士ガーディアンチーム“妖精の踊り子達ダンス・オブ・フェアリーズ”所属、妖精小姫フェアリーアルマァァ・カァァマイィィイン!!』


『ついたあだ名は黄金十二騎士ゾディアック序列一位、孤高なる原初プライマル・ワン最強王者アルマたん人類の突然変異種アルマたん絶対神アルマたん! 前人未到の大会三連覇もなんのその! ついに四連覇へと王手をかけましたね』


『今年も圧倒的な力で挑戦者を尽くねじ伏せて、この決勝の舞台に危なげなく上がってきました。解説のライアンさん、どう見ますか?』


『各メディアでは大会四連覇の偉業について連日連夜放送されていますからね。彼女がそれをどれくらい意識しているかがポイントでしょう』


『つまりプレシャーを感じて固くなってしまわないかということですね』


『おっしゃる通りです』




「「「「「はぁぁぁぁぁぁ~~!?」」」」」

「あら♪ かわいいわね♪」


 次にモニターに映った映像に全員から驚きの叫びが上がる。

 

 ……若干一名、違う感想が上がっているが気にしないでおこう。


 モニターの中に映っていたのは、数十分前まで俺達をイジメぬいていた少尉殿の画像だったからだ。



 

 ただ、画面の中の少尉殿の画像(提供:クーデリアン・オッペンハイマー)は両手にバケツを持った状態で顔を真っ赤にして涙目でプルプル震えていた。

 ……学校の廊下にでも立たされているのかよ!



 

「ちょ、ちょっと待つっす! 死神! ど、どういう事っすか!!」


 俺とオカマ野郎以外の全員が呆然としている中、いちばん早く立ち直ったパトリックが俺に唾を飛ばしてきた。


「どうもこうもねぇ。少尉殿は全国機動騎士ガーディアン競技選手権大会のチャンピオンなんだよ」


 顔合わせの後の食堂での少尉殿の笑顔が思い出される。



 

『私、機動騎士ガーディアンの操縦には『』自信があるんです』



 

 とんでもねぇ話だ。

 

 蓋を開けりゃ、全国大会の最強王者だったんだからな。

 

 しかも――


「ネタバレになるが、少尉殿は個人の部を四年連続で制している化け物だ」


 その一言でまた場が静かになる。

 

 その状態でもモニターの動画は進んで行った。


 

 

『それでは決勝戦前に両選手の健闘を称えて、両校の校歌斉唱です』


 チャーチャーチャン♪ チャチャズンチャチャズンズン♪

 

 (一番)

 ちっちなる恒星プロメデス~

 照らされたぎる我が情熱

 集え若人、いっざ行かん

 おぉ~、中央~中央~中央士官学校


 (二番)

 はっはなる惑星ソルベリア~

 抱かれ育つ我らが大志

 集え若人、いっざ行かん

 おぉ~、中央~中央~中央士官学校


 動画の中で映っている少尉殿は元気いっぱいに口を大きく広げて歌い、満面の笑顔だった。


「絶妙にダサいっすね……」


『今年もアルマ選手は校歌を元気一杯に歌っています。まるで気負いが感じられません。いい感じじゃないでしょうか?』


『それにしても、中央士官学校の校歌は、なんというか…………絶妙ですね』


『でも、この季節には帝国音楽配信協会の月間ダウンロードランキング百位には入るらしいですよ?』


『嘘ですよね!?』

「嘘っすよね!?」


 そんな一幕がありつつ進んで行った。

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