番外編6 結成! フェアリー小隊1(全10話)

このお話から番外編となります。

本編より5年前、ゲイズ副長視点で進めますので宜しくお願い致します。


全10話と長丁場ですが、お付き合い頂ければ幸いです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……こちらバード5。……着陸の許可を求む」

 

「コントロールより『死神』へ。……けっ、今日もテメェだけ死んでねぇのかよ。適当に降りろよな」



 

 一騎の機動騎士ガーディアンが帝国軍の宇宙基地に降りようとしていた。

 

 その騎体の右腕は肩口から先が無くなっており、 装甲には無数の傷が刻まれている。


 関節部分からはバチバチと放電しており、さらに被弾していた腰部分は真っ赤に赤熱していた。 


 宇宙基地に降り立った騎体にはすぐに何人もの人が集まってきて、消火剤のようなものを吹きかけている。 



 

「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!!」



 

 その後、駐騎場に移動した機動騎士ガーディアンの中でパイロットの男、ゲイズ軍曹は顔を手で覆って嗚咽を漏らしていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺の名前はゲイズ・ミラー。

 

 徴兵検査で機動騎士ガーディアン適正が高かった俺は短期養成所に通わされて、気がつきゃ対連邦軍戦線に放り込まれた。


 俺がこの基地に配属されて数年。

 

 何人もの人間と出会い、そして、何人もの人間と別れていった。



 

 ――いや、別れていったなんて綺麗に言ってるが、全員死んでいったんだ。


 新しく配属されても早ければ次の戦闘で、遅くても一年ほどで多くの人間が死んでいった。

 

 先の戦いでも自分のいた小隊は俺を残して全滅しちまった。


 いや、そうじゃねぇな……

  

 この戦線に着任してから三度。

 

 小隊が全滅しちまったのに俺だけが生き残っている事が三度だ。


 口の悪いやつは俺の事を“死神”と呼びやがる。


 そのせいで、俺はパイロットの連中の中で浮いた存在となっちまっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ゲイズ! アンタまた生き残ったんだね!」


 どんなに凹もうが人間生きてりゃ腹が減る。

 

 基地に帰ってきた俺が最初に立ち寄る場所はいつもこのしみったれた食堂だった。


 俺が食堂に入ると一人の女が目ざとく俺を見つけて近寄ってくる。



 

 赤毛を後ろで適当に結んで、頭の上に白い三角巾を巻いた地味な顔のそばかす女。



 

 俺と同じ時期にこの基地に配属された炊事班の人間だった。

 

 入った時はまだまだ子供だったが、ここ一年くらいで女っぽくなってきた。


「いつものでいいかい?」

 

「ちょっと待て、今日は――」

 

「はい、三・二・一、A定食はいりま~す!!」

 

「てめ、なに勝手に!」


 にしし、と笑いながら奥の厨房に入っていく女を呆れた様子で俺は見送った。



 

 女の名前はベッキー。



 

 コロコロと表情が変わる忙しいやつだった。


 俺が頼みゃしねぇのに、勝手にいつもA定食を運んできやがる。


 何回文句を言っても、この女は聞こうとしない。


 数分後に、出来たての湯気を立てているフライの盛り合わせをベッキーが上機嫌に運んできて、俺の前に置いた。


 軽く俺がにらんでやるが、ヤツはそんな俺の睨みなんてなんのその。

 

 全然動じた気配を見せずに、クルッと背中を向けると厨房に帰っていきやがった。


 ……まぁ、目の前で美味そうな匂いを立てている料理には罪はねぇわな。 

 

 うん。

 

 結局今日もベッキーが運んできたフライの盛り合わせことA定食をモソモソと食べて、俺は食堂を出ていった。


 


 出ていく寸前に給仕の一人と肩がぶつかりそうになって俺は慌てて避ける。


「おっと、すまねぇな」


「…………こちらこそ」


 頭を下げる俺に、そいつは虫を見るような目で見てきやがる。

 

 チッ。


 ここの食堂の給仕達は愛想が悪ぃな。

 

 みんな無表情で飯の味が悪くなる。


 ちょっとはベッキーを見習うべきだよな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は次の日、基地の中にあるパイロットルームの中で椅子に座っていた。


 周りには俺と似たようなガラの悪い男達が九人と……オカマが一人。


 俺を含めて全員この場所に集められた理由は察せられる。


 


 どいつもこいつも自分の所属していた隊から追い出された問題児ばかりだった。



  

 ……いや、俺の場合は自分の隊が無くなったんだな。


 恐らくこの問題児達でひとつの小隊を作れ、という事なんだろう。 

 

 


 

 「アルマ・カーマイン少尉着任致しました! 本日よりこの小隊の隊長として皆さんと仲良く出来たらと思います! よろしくお願いしますっ!!」


 連邦との国境のクソッタレな戦場の隅っこにあるクソッタレな辺境基地に、本日新人少尉様が配属されました、とさ。


 ……なんと、目の前にいるのは女の少尉様だ。

 胸もねぇし、尻も出てねぇが、立派な女であることには変わりねぇ。


 軍のお偉方は本当にクソッタレだ。

 

 こんな掃き溜めみたいな場所に子供みたいと言えども、女を配属したらどうなるか、書類しか見ていないアホどもには想像できねぇらしい。



 

「おいおいおい。マジかよ。……へへへ、俺っちパトリックってんだ。仲良くしようじゃねぇっすか」


 早速ニヤニヤしながら新任少尉殿に近づくバカが一人いた。

 

 トサカのように天にそびえ立つ独特な髪型をした優男。

 

 奴はこの基地では有名な存在だった。




 気に入らなきゃ上官にも平気で牙を剥く狂犬、パトリック。



 

 奴と同じ隊に配属されたら前の敵より背後に気をつけろと言われている狂った奴だった。


 そんな奴がズボンにテントを張りながら、アルマとかいう少尉殿に近づいていく。


 周りの奴らも、一人を除いて、全員その様子をニヤニヤしながら見ている。



 

 ……新任少尉殿はご愁傷さまだな。


 来週あたりには目が虚ろになって、二、三ヶ月後には誰のかわからない子をはらんで、世をはかなんで高い所から新世界に飛び出すことになるだろう。



  

 案の定、近づいた奴はなんの躊躇ちゅうちょもなく少尉殿の控えめな胸をガシッと握った。


 ――ように見えた。


 

 次の瞬間、パトリックは宙を舞っていた。



 そして、重力に負けた奴の体は宙を舞った姿勢のまま、背中から硬い床に落ちる。


「ゲブッ!!」


 何をしたかは分からねぇ。

 

 少尉が胸に伸ばされたパトリックの腕を掴んだ事はここからでも分かった。

 

 だが、少し捻ったように見えた次の瞬間には、パトリックは自分から飛ぶように宙を舞ったんだ。

 

「……このクソ女、がぁっ!?」


 呆気に取られていたパトリックの顔がみるみる真っ赤になっていった。

 

 そして、起き上がろうとしたパトリックの腕を、またクイッと捻る。


 それだけの動きで、パトリックは後転をするようにまた床を転がり、今度は腹ばいの姿勢になった。


「よいしょ、っと」

「ギィャアアアアアアアアア!!!!」


 そして腕を捻りあげると、少尉はその薄い尻でパトリックの背中に座った。

 

 その時にパトリックの口からは白い泡と一緒に、人間が出しているとは思えない程の絶叫が出てきやがった。



 

 これには俺を含めて、周りにいた全員の顔が凍りつく。



 

 パトリックはやがて白目をむいて、夢の世界に旅立っていってしまった。


 その後、新任少尉殿は今日は顔合わせで明日から訓練に入ると言って、俺達に解散を告げた。


 数人がまだ気を失っているパトリックを担ぎ上げてそそくさと部屋を出ていく。 


 俺も部屋を出ていこうとした時、

 

「えーと……ゲイズ・ミラー軍曹?」


 新任少尉殿の可愛らしい小さな口から俺の名前が飛び出しやがった。

 

「……はい。なにか御用でしょうかね? 少尉殿」


 努めて不機嫌そうに返してやるが、何が楽しいのか、俺の方を見てニッコリ笑うと最悪な一言を言いやがる。


「上官命令です。ご飯が食べれる所へ案内しなさい」

 

「……ちっ。イエス、マム!!」


 結局俺はこの子供のような少尉殿を連れて食堂に案内するハメになった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 食堂に入ると小さなテーブルに少尉殿と向かい合う形で席に着く。



 

 ガンッ!! ガンッ!!


 そしてこれだ。



 

 俺が食堂に入ってきた時にホールにいたベッキーが俺に気づいて笑顔で手を振ってきた。


 だけど、続いて後ろに少尉殿が入ってきたのを見た瞬間、一気に彼女の表情が曇った。


 ……なんでだろうな。

 

 俺は別に悪いことをしたわけじゃねぇが非常にバツが悪い気分になる。


 そして、席に着くや否や、叩きつけるように目の前のテーブルに水の入ったコップが置かれた。 



 

「おや? ゲイズさんはこういう子がタイプだったんですか?」


 次いでベッキーから冷たい声が聞こえてくる。

 

 何か勘違いしているのか俺を見る目も若干鋭い。



 

 ……オーケイ。ベッキーの言いたいこともわかる。

 

 目の間に座った少尉殿は性別こそ女だが、残念であるが非常に男が体型をしていらっしゃる。


 平坦な胸に、くびれていない腰。鶏ガラのように軽そうな薄い尻。

 

 顔は整っているが、それは『可愛い』であって、決して『綺麗』じゃねえ。

 

 数年後は分からねぇが、今この時の少尉殿に欲情するような奴は恐らくヤバめな特殊性癖を持った犯罪者予備軍ロリコンだけだろう。


 常連のお得意さんがそんな性癖だったら、俺でもドン引きよ。

 

「おいおい、勘弁してくれベッキー。こいつ――この方は今日着任したばかりの俺の上官様だよ」


 俺の言葉にベッキーは初めは目をぱちくりさせてキョトンとした表情になる。

 

 が、すぐに意味が分かった奴の顔は真っ赤になり、持っていたおぼんで自分の顔を隠すように俺に近づいてきた。

 

「……そ、そういう事は早く言ってよ!!」

 

「……だったら聞けよ。ったく、こっちが恥ずかしいわ」


 コソコソとそう話している俺達を横目に、さっきから少尉殿はテーブルに置かれているメニュー表とにらめっこしながらウンウン唸っていた。

 

「あ~、コホン。ご注文はお決まりでしょうか? お客様?」


 ベッキーのよそ行きの営業スマイルに少尉殿はハッとした様子で顔を上げる。


「もうちょっと! もうちょっと待って!! う~、オムライスにするべきか、ハンバーグセットにするべきか……あ、ゲイズ軍曹。ここは私が出しますから好きなものを頼んでいいですよ」


「っ!?」

 

 ……おいおいおいおい!

 俺の上官様は最高かよ!


 な、なんでもいいのか?

 

 いつも気になっていた牛肉のステーキセットとか頼んでも、い、いいのか?


 も、もしかして、ビールとかも……いや、流石に上司の前で昼間っから酒はダメだろう。

 

 ダメ……だよな? 


 しかし、少尉殿のお気遣いに応えなくては立派な部下とは言えな―― 



  

「あ、ゲイズはA定食ね」

 

「なんでだよ! ベッキー! てめぇはいつもいつも俺にA定食A定食って、なんか俺に恨みでもあんのかよ!!」

 

「なによ! 美味しいでしょ!? A定食!」

 

「確かに美味いけどよ! たまには別の……」


 ギャーギャー騒ぎ出した俺達を少しだけ見た少尉殿は、また目を落とすとメニュー表を『』首をコテンと傾げた後、またウンウンと唸り始める。



 

 結局、俺はA定食を勝手に頼まれ、

 

 少尉殿は、サバの味噌煮定食ご飯大盛りを頼んでいた。



 

 ……いや、オムライスとハンバーグセットはどこに行ったんだよ!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「食べながらでいいんで、この仕様書読んどいてください」


 ドン!!


 俺がA定食に手をつけようとした時、目の前に分厚い紙の束が置かれた。


 ……確かに目の前の女がタダで飯を奢ってくれる訳だ。

 

 置かれた紙の束は十や二十枚じゃ効かない厚さだった。


 仕方なしに手に持ったフォークを机に置くとパラパラと紙の束をめくる。


 なんだこりゃ?

 

 シミュレーターの説明書?

 

 材料?


「ん~~! おいしぃ! ここのシェフは腕を上げましたね! あっ、私ここ来たの初めてでしたー! テヘペロ」


 目の前で頬に手を当ててクネクネと身をよじっている少尉殿を無視して更に紙をめくる。



 

 ……おいおい。

 こいつぁ、マジかよ。


 読み進めていくにつれて、俺は内容をだんだんと理解して行った。


 どうやら、シミュレーターの改造の手引書らしいことは分かった。

 

 分かったが、これは何とも……



 

「読みましたか?」



 

 いつの間にか資料を読むのに没頭していたらしい。

 

 少尉殿の声にハッと顔を上げると、既に彼女のトレーは空っぽになっていた。


 そして、両手でカップを持って食後のお茶をすすっている。


「……まぁ。しかし、これは――」

 

「ここに着任する前に報告書を読みました」


 俺が少し抗議の色をにじまして声をあげようとしたが、すぐに遮るように少尉殿が口を挟んでくる。


「どうやら問題児が多い部隊に配属されるって聞いて、ウィルに聞いたんです。『どうしたらいいかな?』って」


 ウィル?

 

 人名らしいが、それは少尉殿の友人の名前なんだろうか?


 


「そしたらね。『最初に思いっきり締め上げてやればいいと思うよ』って」



 

 ……中々過激なお友達をお持ちで。

 

 それで思いついたのがって訳ですかい。


「理由はわかりましたがね、しかし、これには少尉殿に技量がないと成立しないと思うんですが」


 少し挑発したように返した俺に向かって少尉殿は、一瞬キョトンとした様子を見せると、非常に人の悪い笑顔でニヤニヤと微笑んだ。


「大丈夫です。私――」



 

 あれ?そういえばどうしてサバの味噌煮を食っていた少尉殿の口の端にフライの衣かすが付いているんだ?



  

機動騎士ガーディアンの操縦には『』自信があるんです」


 そう言って、薄い胸を反らしてドヤ顔をする少尉殿に「はぁ、そうですか」と適当に反応した俺はその時に初めて気づいた。




 お、俺のA定食がいつの間にか空になっていやがる!!




 顔を上げて少尉殿はんにんを見ると、サッと顔を逸らしやがった!


 食堂の中には少尉殿のお茶をすする「ずず~」という音だけが空しく響いていた。




 もちろんその後、シミュレーターの改造を手伝わされたわ!!

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