第14話 シャベル使いと愉快な仲間たち【4】

 まあ、ぶっちゃけただの思い付きだ。

 でも、その思い付きでダンジョン攻略が楽になる……可能性があるんだったら、試さないなんて嘘だろう?


 シャベルをその辺の階段に突き付け、スキルを使う。


「あー、スキル名なんだっけ……そうだ、”リソイル・アルケミー”!」


 スキルが発動した瞬間、木の階段は音もなく崩れ、ただの土塊となった。

 

 凄い。

 これなら、土集めに革命が起こる……訳ではないが、便利な事には違いない。

 木を土に変えられるのなら、多分レンガや岩でもいける筈だ。

 俺に掘れない物質など存在しない。

 この世全ての物質を、土に変えて楽々掘り尽くしてやる!


「ミミックの脅威も去り、新たなスキルも手に入った事ですし。そろそろダンジョン攻略に戻りましょうか。……あれ??」


 あ、やっべ。


「む?……本当だな。モンスターは居ないし、ダンジョンのギミックかね?」


 これどうしよ。

 まさか、進めなくなったとか……流石にないよね?


「階段のあった所……代わりに大量の土がありますね。バランさんも、何か知りませんか?……知っている事は、早めに吐いた方が楽ですよ」

「そういえば、バランが新しく手に入れていたスキルの効果……物を土に変える物ではなかったか?いや、疑っている訳ではなくてだな!?」

「ダンプティさんはお優しいですね。もう証拠は揃っているというのに……怒らないから話して下さい、バランさん」


 ……え、俺もしかして殺される?


「……あれなら、ギリギリ上の階には行けると思うんですよ。だから拳を下ろして頂けませんでしょうか。せめてそのトゲトゲのメリケンサックだけでも勘弁して頂けないでしょうか!」

「……何か過失があったのなら、命乞いより先に謝罪をすべきではありませんか?」

「あ、はい。……本っ当に、申し訳ございませんでした!」

 

 * * *


 結局、俺の処刑は後回しにされた。

 階段が消えていてもなんとか2階に戻れたのと、例のスキルの有用性が認められたのが生存の決め手となったのだ。


 天井を土に変え、強引に上の階へ上がる。

 どう考えても正攻法ではないが、出来てしまったのだから仕方がない。

 そう自分に言い聞かせながら、最上階と思しき階層まで登り切った。

 

 だったら、やる事は決まっている。


「”リソイル・アルケミー”!」


 目についた壁を全て崩せば、きっとどこかで先に進める!


 とはいえ、これで10回目。

 残りのMP的にも、そろそろ当たりを引きたいのだが––––––––


「うおっ、眩し!?……外につながってんのか、この広間?ともあれ、ようやく当たったみたいだな」


 巨大な広間の先には、日の光が差し込み、外へと繋がる道が。

 広間の端の方に階段があるのを見るに、正攻法だと下の階からここに上がって来るのだろう。


 ただ、この広間の感じはどう見ても中ボスとかが出る奴では?

 気を引き締めながら、広間の中央へと歩を進める。


「やはり来たか。キミ達も構えよ!などと威勢よく号令を掛けてみたが……何だ、あれ?」

「……木では?」

「……木じゃないか?」

「やはり、私の目の錯覚ではない様だな。いや、なんで木?」


 禍々しい黒い霧から生まれたのは……木。

 その辺に生えている様な、どこにでもある木だ。

 より正確に表現するのなら、松や杉の様な針葉樹。いや、そこはどうでもいいが。

 

 ニンジャ的なナニカが変身している可能性もある。油断したら駄目だ。

 シャベルを構えながら慎重に近付いてみるが、反応はない。

 思い切ってシャベルを振りかぶり、木の幹に突き立て––––––––


 次の瞬間、


「バランさん!?大丈夫ですか?」

「大丈夫……じゃない。あと一発貰ったら死ぬと思う。というか、俺は何で死にかけてんだ?……しかもあの木、なんか動き出してない?あと顔もない?」

「バランよ、一旦落ち着け。まず、キミはあの木が放った葉っぱをモロに受けて死にかけた。そして、あの木が動き出しているのも、顔がある様に見えるのも現実だ!」

「葉っぱあ!?ああ、確かに今はあいつの葉が少し減ってんな。……あ!そうだ、忘れてた!ダンプティ氏、このダンジョンは一度クリアしてるんだろ?攻略法とか知らないか?」


 ダンプティ氏は、ダンジョンに入る前に”このダンジョンに訪れるのは2度目”的な事を口走っていた筈だ。

 なんかわさわさと動いてるあの木の対処法も、きっと知っているに違いない!


「いや、何を勘違いしているのかね?確かに私はこのダンジョンに来た事があるが……別にクリアしたなんて一度も言っていないぞ?」

「え。じゃあ、この木も初見なのか?」

「うむ。だからまあ、どう倒せばいいか、なんてものは全くもって見当がつかん!」

「ウッソだろ!?じゃあ、何を根拠にあんな自信満々な物言いをしてたんだ!?」

「……まあ、私は何となく勘付いてましたが……だってダンプティさん、普通に迷いまくった挙句に変な道へ突っ込んでましたものね?」


 ……ダンプティ氏に頼るのはもうやめよう。

 別に弱い訳じゃない……筈なんだけどな。多分。

 少なくとも、俺よりレベルは高いんだし。

 

 とにかく、今考えるべきは俺が生き残る方法だ。

 街で買った回復薬は、今使い切った。

 そのお陰でHPは最大まで回復したが……もう後がない。

 回復薬ってケチらない方がいいな、うん。 


 一撃で瀕死になってしまったのを見るに、あの木の攻撃力は相当高いのだろう。

 葉を飛ばす攻撃よりも強い攻撃……絶対あるだろうな。

 となると、攻撃は喰らわない前提で戦わなければ。


 敵の攻撃を喰らわず、安全に勝利できる方法。

 ……一つだけ、思いついた。


「よし。じゃ、ちょっくら俺は!」

「ええ……でも、割と良さそうな作戦ですね」

「ははあ!考えたな、バラン!よし、私がボスは今いる場所に留めておこう。その間に思う存分地面を掘り進むがよい!」

「感謝します、ダンプティ氏!割と見直しました!”リソイル・アルケミー”!」

「ああ、行ってこい!……え、見直さないといけない程に、私の株って下がってたの?初耳なんだがね!?」


 ”リソイル・アルケミー”で床を土にして、床の下に。

 ––––––––ビンゴ。

 中ボスのエリアなだけあって、床一枚壊したら下の階、みたいな構造じゃない。

 これなら、ボスと離れすぎて戦闘がやり直しになったりはしないだろう。


 最短最速で、あの木が落ちるだけの穴を掘ってやる––––––––!

 

 

 

 

 


 


 





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