第12話 シャベル使いと愉快な仲間たち【2】

 小鬼ゴブリンの森、中央部。

 始まりの街からは全力疾走で10分は掛かるこの場所には、空まで届いていると錯覚する程に巨大な樹がそびえ立っている。

 ––––––––当然、ただの観光スポットではない。

 

 ここはダンジョン。

 それも、などと呼ばれるタイプのダンジョンだ。


 樹の内部は空洞となっており、ご丁寧に階段まで作られているらしい。

 中に蔓延はびこるゴブリンを薙ぎ倒しながら、頂上を目指す。

 それこそが目的であり、単純明快で変なギミックも何もない。大規模ダンジョンのチュートリアルとしては、これ以上ない分かりやすさだろう。


 ただ、最初に攻略する事が推奨されていると言っても、簡単という訳ではない。   

 シャベルが唯一にして最大の武器である俺、多分味方を回復する術を持たない自称ヒーラーのモルモさん、強さが未だ未知数なレベルだけ高いダンプティ氏。

 ダンジョン内では別パーティーに出会わない仕組みなので、3人だけで攻略しないといけないのだ。


「それでは……点呼!」

「はい。モルモ、いつでも大丈夫ですよ」

「バラン、準備完了です。……いや、何でダンプティ氏が仕切ってるんですか」

「一番レベルが高いのは私だからな、仕方あるまい。ああそう、このダンジョンに私が訪れるのは2度目だが……中々の強敵揃いだったので気を付ける様にな!」

「へえ!経験者なのでしたら、何かあった時は頼りにさせて頂きますね!……レベルが高いなら、敵の攻撃を押し付けても問題ないでしょうし」

「いや、押し付けないでね!?攻撃は自力で避けてよ!?」


 ……不安だ。

 不安だが、気持ちを切り替えてダンジョンへ足を踏み入れる––––––––!


「ここが……?不思議な感覚ですね、まさか樹の中にいるなんて」

「だな。俺は未だVRMMOそのものに慣れないし……っと、敵だ。2人とも、構えろ!」


 樹の中だからかダンジョンらしくない温かみのある部屋に、黒い霧が発生する。

 そして、霧は複数のモンスターへと変貌した。

 なるほど、このダンジョンではこうやってモンスターがスポーンするのか。

 

 霧から現れた敵は、青いゴブリンが約10体。

 単体での強さは高が知れているが……中には、弓や杖を持った個体がいる。

 遠くから攻撃されるのは厄介だ。まずは俺が先陣を切り、遠距離攻撃の出来るやつから仕留めていくか。


 俺はシャベルを構えて駆け出––––––––そうとした瞬間、ダンプティ氏の勇ましい声が部屋中に響く。


「2人とも、ここは任せてくれ。私が口とレベルだけではない事、しっかりと理解して貰おうか。””!」


 ダンプティ氏が地面に剣を突き立てる。

 すると地面にはヒビが入り、そのヒビはゴブリン達に向かって広がり続ける。


 ヒビがこのフロアを埋め尽くすのに、1秒。 

 床が崩壊して衝撃波が生まれるのに、もう1秒。

 ゴブリンが衝撃波に巻き込まれるのには、更に1秒。


 合計で3秒。

 それが、ゴブリンの殲滅にかかった時間だ。

 

 ダンプティ氏がスキルを使ってからたった3秒で、このフロアの制圧は終了した。

 ……え、強くない?

 このスキルを持ってて、何であのトカゲに食われてたんだ?


「ははは、見たか!……いや、黙ってないで何か言って?……そうか、驚きすぎて声が出ないのか。なんだ、仕方がないなあ、キミ達は!」

「……本当に凄いから何も言えん」

「正直なところ、かなり見直しました。つい先程まで、あんなに小物臭が凄かったのに……」

「え、そんな風に思われていたのかね!?全く、早々に名誉挽回のチャンスが訪れてくれて助かったわ……」


 挽回するだけの名誉が元々あったのかは不明だが、そこは俺が気にする点でもないだろう。

 それにしても、床が崩れたせいで歩きづらい。

 転ばないよう注意しながら階段へ向かう。 


 * * *


 ただの大広間だった1階と異なり、2階より上の階層は複数の小部屋が繋がってフロアを形成している。

 しかも、階層を上下しないと先に進めない構造だ。

 ……それ自体は、良いのだが。


 縮尺が、変!

 どう考えても、1フロア1フロアが広すぎる!

 ……もしかして、1階が狭く作られていただけなのだろうか。


 そんなこんなで、俺たちは今。

 ずっと変わり映えのしないダンジョンを彷徨っている。


「あ、蜘蛛」


 蔦を潜った瞬間に上から落ちてきた巨大蜘蛛の脳天に、適当にシャベルを叩きつける。

 人間の慣れとは恐ろしいものだ。

 この降ってくる蜘蛛にも、初めはダンプティ氏と2人でこの世のものとは思えない悲鳴をあげたのだが、今ではただの経験値にしか見えない。

 ……手に入る経験値も微量な為、何の旨みもないのだが。


「モルモさん、今何分くらい経ちました?」

「体感だと1時間なので……まあ、15分くらいじゃないでしょうか?知りませんけど」

「体感とのズレが大きいですね……ダンプティ氏は?」

「ん?すまん、宝箱に気を取られて聞いてなかった」

「あれ、そこはさっき通った所……宝箱、見落としてたか?」

「そうだったか?まあ、この宝箱は私が貰ウワー!!!!ミミック!ミミックなんでこのダンジョンに出て待って待って頭に噛み付かないで!?」


 ダンプティ氏が、何やらイカした帽子を被っておられる。

 ……戦闘、開始だな!

 

 



 

 








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