第8話 勝利の宴もシャベルと共に
巨人の体は青い光を放ち、崩れ落ちて行く。
巨大だった体はただの岩に成り果て、そして光の塵となり消滅する。
そんな光の塵越しに、青い人影が1つ見える。
絶賛力を溜めている様に見えるあれこそが、カプリスの言っていた第2形態とやらだろう。
『すっご……!頼んでおいて何だけど、本当にやり遂げるなんて、凄い、凄いよバラン!』
『ああ、でももう2度とやらんし出来んわ、こんな死闘!というか、本当に倒せるんだろうな!?』
『うん、そこは心配しないで。……あ。そこは巻き込むから、ちょっと離れて』
言われた通り、人影から全力で離れる。
『……よし、オッケー。やるよ!』
『ああ、ぶちかましてやれ!』
……と、言ったはいいが。結局カプリスはどこに居るんだ?
てっきり、巨人が邪魔になって姿が見えていないのだと思っていたが。
全ての岩が消滅し、敵が2メートル程の全身が青い不気味な人型に変貌した今となっても、カプリスの姿はどこにも見当たらない。
まさか……上か?
直感に従い、空を仰ぎ見る。
そこには、空中に浮かべられた魔法陣に乗り、巨大なクロスボウを構えた少女の姿。
『パッシブ効果––––––––最大。スキルセット1、2を使用。吹き飛ばせ、”サウザンド・ファイアワーク”––––––––!』
弩から矢が放たれる。
全てを焼き尽くす苛烈さと、花の様な美しさを持つ神の炎。
燃える。
森が、大地が、青い人影が。
絶対的なエネルギーが、炎となって辺りに広がる。
––––––––レベルアップを示す効果音が鳴り響く。
どうやら、戦闘が終わったらしい。
一瞬にして焼け野原と化した森を歩く。
この焦げ臭い匂いも、灰となった草を踏み締める感覚も、体を襲う疲労感も、心を満たす達成感も、ここが仮想世界である事を忘れさせる。
……遠くで、何やら穴を見つめているカプリスに駆け寄る。
「よ、カプリス。……凄かったな、あの爆発」
「でしょー?どう、驚いた?驚愕して目ん玉飛び出た?まあ、あれ程の火力を出せたのはバランのおかげなんだけど。そうそう、そして本題はこの穴ですよ!」
カプリスの指を指しているのは、巨大なクレーター。
恐らく、あの巨人が格納されていた場所が、まるまるクレーターとなっているのだろう。
「ほら、あそこ。穴の中央。土が保護色になっていて分かりづらいけど、木のハッチみたいなのが見えない?」
「んー……あ、本当だ。ゴーレムで忘れていたが、まだクエストは終わってなかったな、そういえば。って事は、錬金術師の工房に繋がる扉じゃないか?」
「そうだそうだ、確かに!え、行こ?今すぐ行こ?」
「はしゃぎ過ぎだろ……なんか、お前を見てると実家の犬を思い出す」
全力でジャンプしながら穴に飛び込むカプリスを追って、俺も慎重に下へ降りる。
実際に降りてみると、クレーターは思ったよりも深い。
それにしても、地面の中にあんな化け物が埋まっているとは。
このゲーム、やはりそう簡単に遊び尽くせるボリュームではなさそうだな。
「これが……開けていい、よね?」
「ああ。さっさと開けて、中に入ろうぜ」
「だね。じゃ、行こうか……!」
人1人通るのでやっとのハッチを潜り、下に降りる。
……ここがクエスト名にもなっていた、錬金術師の工房か。
レンガ作りの壁と、綺麗な板張りの床のせいで、ここが地下であるとは思えない。
色とりどりの薬品や謎の植物が並ぶ部屋を抜け、クエストマーカーが指し示す小部屋へ移動する。
「宝箱?これがクエストの報酬かな?」
「……こっちに置いてある本、これもアイテムみたいだ。効果は……使用する事でスキル”ウェポン・アルケミー”を取得できます?」
「凄い、なんか強そうなスキル!……だけど、私は使わなさそうだね。消費アイテムだろうし、バランが使っちゃえば?あの巨人を倒した報酬って事で!」
「それなら、お言葉に甘えて使わせて貰いますよっと。そっちの宝箱はどうだ?何かいいものは入ってそうか?」
「ううん、お金が入ってただけだった。……残念。まあ、これでクエストもクリアしたし、当初の目的は達成!折角だから、街に戻って宴でもしない?感じられる味の質は現実に劣るけど食べてる感はあるんだし、このゲームをやるなら一度は食べてみないと損だよ!」
「そいつはいい、大賛成だ!」
* * *
人々は騒ぎ、注文が飛び交い、乾杯の音頭が鳴り響く。
「ほんと、凄い人の量だな。ここに居るのは全員がプレイヤーなんだろ?……なんか、感動するな。年齢、性別、職種に住んでる場所まで違う奴らが皆、同じゲームで遊んでる。……やばい、涙出そう」
「気持ちはちょっと分かるけど……これから宴をするって時のテンションじゃないね!?」
「いやすまん、さっさと始めよう。乾杯の準備はいいな?」
「もちろん!それじゃ、ボスへの勝利とクエストクリア、あとは……まあいいか!いくよ––––––––」
「「乾杯!」」
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