第7話 YESシャベルNOドリル

 視界が揺れる。

 地面が揺れる。

 だ。


 敵の攻撃によるものか、それともランダムイベントか。

 だが、一番の問題は、俺の現在地が約3メートルの縦穴である事だ。

 

 そう。

 何か行動を起こさなければ、生き埋めになる––––––––!

 

 なんて、現状を理解したところで時間は無い。


「……ああ、死んだ」


 頭上から土が落ちてくる。

 

 痛覚こそないが、確かに感じる体への圧。 

 暗い。

 何も見えない。

 ダメージを知らせる血痕だけが、黒い視界に映っている。


 ああ、もう駄目だ。

 目を瞑り、ゲームオーバーを待とうとして––––––––


 瞬間、爆発音と共に地中から空中に投げ出される。


「はあああああ!?」


 地上に出た、どころの騒ぎではない。

 現在位置は地面から推定5メートル上、現実なら余裕で死ねて、このゲームでも落下ダメージは免れない高さから今、俺は落下している!


 ……運動神経0の人間として、しっかり受け身には失敗した。


 さて、今必要なのは冷静な状況の分析だ。そう自分に言い聞かせ、辺りを見回す。

 場所は……今までと変わりない。唐突にワープした、という訳ではなさそうだ。

 カプリス……の事は後回しでも良いとして、次は俺の目の問題だな。


 いやはや、困った事に先程から錯覚が酷い。

 俺が掘っていた場所に5が居るとか、そんな訳ないのにね!


 なんて、ふざけている場合ではなさそうだ。

 落下の衝撃に、先程の生き埋め。

 積み重なったダメージにより、俺は瀕死。その状態で、おそらくはボスだと思われるあの巨人と戦う?

 いや、無理だ。間違いなく一撃でやられる。


 とりあえず、カプリスと合流しなければ。

 ここから視認できないという事は、おそらく巨人を挟んだ反対側に居るのだろう。

 ただ、合流する為に巨人の側を抜けるのも危険すぎる。

 

 生き延びる方法を俺が模索していた所、通知のウィンドウが視界端に現れる。

 フレンドからのボイスチャット通知……と言われても、現状俺のフレンドはカプリスのみだ。

 なぜこんな時に?……何て、言っている場合ではないな。

 わざわざ時間を割いてこんな事をしたんだ、何か考えがあるんだろう。

 

 だったら、迷う必要は無い。


『もしもし、こちらバラン!端的に言う、俺に出来る事はないか!』

『……了解!でも、その前に軽く説明と謝罪をさせて。まず1つ、今回のクエストについてなんだけど……!』

『あー、なるほど!?すまん、俺の出来る事はなさそうだ!』

『いや、そんな事はないよ!詳細は省くけど、あのボスは一定回数殴ると岩が割れて、第二形態が始まるの。で、肝はってところ!ダメージは関係ないから、バランでも第1形態は倒せるって事!私はスキルの関係上、第2形態まで力を溜めたいし……どう、お願いできる?』

『無理……なのは今更だしな、分かった。でも、期待はすんなよ、マジで!』


 やる事は決まった。

 単純明快、一撃も喰らわずに相手に攻撃し続けるだけ。

 単純だからといって簡単な訳ではないし、むしろ単純だからこそ難しいのだが。


 まずは、遠距離からできる限りの攻撃を当てなければ。

 シャベルを構え、岩の巨人へと魔法を放つ。


「”アイテム・キャノン”!」


 もはや、俺の中ではお馴染みとなった基本の魔法。

 放つのは、当然その辺にあった土。

 威力、弾速共に優れたスキルでありながら、消費MPは0。

 クールタイムも1秒と、この場においては間違いなく最適なスキルだ。


 もう、あのモグラの時の様な油断はしない。

 岩の巨人がいつ俺に攻撃を仕掛けてこようと、すぐに走って逃げれる様に意識しながらスキルを使う。

 

 スキルを使い、土やゴブリンの角を放ち、巨人がこちらへ振り向いたら木の裏に隠れてやり過ごす。

 どうやらシャベルを使った魔法攻撃でも、”シャベル・アーツ”でスキルが入手できる様だ。おかげで、1つ新スキルを入手する事が出来た。

 思いがけない収穫もあったとはいえ、地味な事には変わりのない攻防を50回は繰り返していた所、遂に岩の巨人にヒビが入る。

 


『やった、これで第2形態か!?』

『いや、HPが減った証拠ではあるけど、これはいわば1.5形態……みたいな?第2形態はなんか……青く光った人型のが出てくるから』

『そうか……いや、俺は遠くから魔法を撃ってるだけだし、別に良い––––––––って、待て待て待て、あいつ、なんか俺の方に高速で走って来てるんだが!?』

『あ、やっべ、説明忘れてた』

『はああああああ!?』


 先程までの鈍重な、何ならハメ技に近い挙動になっていた岩の巨人は、急に驚きの全力疾走で俺を殺しにきた。


 迫る巨大な拳。

 脳裏に浮かぶは死の一文字。 


 今度は駄目だ、どう足掻いても死ぬしかない。

 それは避けようのない事実であり、この先どんな行動をしても変わらないだろう。

 

 ……そんな事は分かっている。

 それでも、どうにかして。

 1

 泣いても笑っても死ぬのなら、せめて託された仕事を果たしたい!


 ––––––––でも、どうやって?

 

 ––––––––決まっている。

 俺が持っているモノ、それはシャベル。

 ならば、


 意識は先程手に入れた新しいスキルに。

 弾薬ポーチの内容物は、ただの土からに。


 準備は終わった。

 そして、拳も振り下ろされる。


「”アイテム・キャノン”!」


 そこに、魔術師の証を撃ち込む。

 

 50回に及ぶ魔法攻撃。

 それにより、判明した事実が1つ。

 アイテム・キャノンを喰らった岩の巨人は、一瞬の間怯んでが生まれ、その上怯む時間は打ち出すアイテムによって変動する。

 これが巨人の仕様なのか、スキルの仕様なのかはこの際どうでも良い。

  

 今必要なのは、”強力なアイテム程怯む時間が長い”という事実だけ。

 俺が持っている中で一番強力……つまり、一番貴重なアイテム。


 それは当然、に決まっている。


 ––––––––作戦は成功した。

 だったら後は、スキルを使ってだけだ。


 巨人が怯んだ隙に、全力で足下に走る。

 2発目の攻撃が飛んでくる前に。

 

 急げ。

 

 構えろ。

 

 そして、掘れ!


「”スクリュー・ディグ”!」


 岩の巨人に突き刺されたシャベルの周りに、が出現する。


 連続して攻撃が入る。

 巨人のヒビも拡大していく。 


 砕けろ、砕けろ、砕けろ。

 祈りながら、シャベルを強く握り締める。


「いい加減、砕けろ––––––––!」 


 巨人の体はを放ち、崩れ落ちて行く。


 


 

 

 


 

 

 

 

 








 

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