第6話 シャベルの正しい使い方
鬱蒼とした森の中を、クエストマーカーを頼りに進んで行く。
地図では小さく見える森だが、実際歩くと中々に広い。
……クエスト名に発掘と付いているのは気掛かりだが、錬金術師の工房には大変興味を惹かれる。クエストのクリア報酬でスキルが手に入る場合もあるらしく、そちらも実に興味深い。
カプリスも同じ考えの様で、”錬金術って事なら、爆発が強くなるパッシブとか貰えないかなー”などと、まだまだ強くなる気の様だ。
「あ、そうだ。詫びスキルオーブって来てたよね?もう使ってみた?」
「いや、まだだ。スキルオーブの貴重度もよく分かってないし、有識者に意見を聞いた方が良いかと思ってな」
「別に使っちゃっていいと思うなー。新しくダンジョンをクリアしたら手に入るし、今後はイベントとかでも貰えるみたいだから。あ、今度はちゃんと杖を持って使うんだよ?」
「いや、それなんだが––––––––」
俺は、この森に来るまでずっと考えていた。
今から魔術師になるのは簡単だろう。
シャベルを捨て、杖を持つ。それだけで良いんだ。
でも。
それで良いのか?
折角のVRMMO。より面白い遊び方を探るべきじゃないか?
始まりはただの事故だった。
けれど、それもまた一期一会の出会い、というものだろう。
最高の武器を持ち、カプリスに見せながら声高らかに宣言する。
「俺は、
さて、反応は……
「はは、いや、マジで!?ウッソでしょ!?……いやあ、最高!やっぱ最高だよ、バラン!……攻略的な観点で言えば絶対おすすめは出来ないけど、楽しんでこそのゲームだもんね、うん。私は応援するよ!」
よし、好評!
混乱の状態異常が掛かっているのかと疑われたらどうしようかと思っていたが、杞憂に終わって助かった。
「あ、でも、やるからには本気でやるよ。次のアップデートでPvPとか、高難度ダンジョンも追加されるみたいだし。シャベルと、そして私と一緒にてっぺん目指そ?」
「はは、遠慮しておきまーす。俺のゲーム下手は知ってるだろ?」
「大丈夫大丈夫!誰もが最初は初心者なんだし、ね?」
「無理だからな!?……もうマーカーの地点まで辿り着いてるし、先にクエストを済ませようぜ」
……とは言っても、辺りに工房らしき影は無い。
ここで、クエスト名を改めて思い出す。
”錬金術師の工房を発掘せよ!”
そう、発掘。
そして、改めてクエストマーカーの位置を見ると––––––––
「……マーカー、俺達の足元にあるな。2メートル先という表示と共に。これ、そういう事か?」
「発掘、だもんね。……頼りにしてるよ、未来のシャべリスト!」
「変な造語だな、オイ!?……ま、掘るけどさ。ああでも、その前にスキルオーブは使っておくか。採掘速度が上がるスキルとかが手に入るかもしれん」
アイテムボックスを開き、ゴブリンの落とす素材と土の隣で青く輝くスキルオーブを使用する。
「どう?何が出た?」
「待て待て、今確認してる––––––––これだな、”シャベル・アーツ”。ランクはEで、効果は––––––––え!?」
「どうしたの?というか、アーツって付いてるスキルは私も持ってるんだけど、シャベルにもあるんだー……ちょっと感心」
「効果、シャベルの基礎スキルに派生する……重要そうなのは分かるが……シャベルの基礎スキルってなんだ?」
「さ、さあ……?でも、別のスキルに派生するって書いてあるのは当たりのスキルだから!……少なくとも、私の持ってる範囲では」
一応、シャベルで殴る戦闘術は実在する……らしい。
不意の接敵に備え、手持ちの道具で戦える様になった方が良いのも理解出来る。
塹壕を掘る為の軍用シャベルなんて物もある訳だから、現実基準で考えればそれほどおかしいスキルでも無い。
でも、それは地に足ついた現実の話。ここはファンタジー世界だぞ?
この世界には竜も死霊も妖精も、神様だっている訳で。
聖剣だったり魔剣だったりもあるだろうし、流石にシャベルじゃ役不足だろう。
そもそも、そんなスキルを用意した所で使うプレイヤーがいる訳も無い。
いやまあ、俺が言うべきでは無いが。
「まあいい、うだうだ言ってても始まらん。さくっと掘り始めるとしますか。……それにしても、開発の中に熱心なシャベル好きが居るのか?」
「え?それはそうでしょ。だってほら、わざわざあんなボスを作るくらいだし」
「ああ、確かに。……今のところ、掘る速度が上がったりはないな。土がアイテム化してくれるお陰で、掘った土を傍に退けなくて済むのは楽だが……シャベル・アーツと関係は無いスキルの効果だしな」
その後も、雑談しながら地面を掘り続ける。
最初でこそ拷問に思えた土掘りだが、今となっては結構楽しい。
砂場で遊んでいた幼少期を、もしくはクラフト系ゲームで延々と整地していたあの日を思い出し、ノスタルジックな感情にさえなってくる。
そんなこんなで数分が経ち、今まで何の苦もなく掘り進んでいたシャベルが不意に止まる。
何か、硬いものに当たった様だ。石だろうか?
ツルハシ……は、手持ちにない。
石を砕ける火力のスキルも持っていないし、素直にカプリスに頼るか。
まずは、この穴から出なければ。
なんて、呑気な事を考えた瞬間。
「っ、やばいだろ、これ!?……地震か!?」
地面が揺れる。
とても立っていられる揺れではない。
現実の地震……では無いな、これは。だったら安全装置が作動している筈だし。
となると、これはゲーム内のイベントなのだろう。が、ランダムで自然災害が起こるなんて話は聞いた事がない。
敵の攻撃か?
いや、原因の特定は後だ。
今はとにかく、生き埋めになるのだけは避けなければ––––––––!
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